- 著者
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野島 一彦
- 出版者
- 九州大学
- 雑誌
- 九州大学心理学研究 (ISSN:13453904)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, pp.11-19, 2000-03-10
エンカウンター・グループという用語は,1970年代の米国では,(1)潜在能力啓発運動全体,(2)スモールーインテンシブ・グループ,(3)ベーシック・エンカウンター・グルーブ,という3つの意味で使用されている。しかし日本では1970年代から,(1)ベーシック・エンカウンター・グループ,(2)構成的エンカウンター・グループ(構成的グループ・エンカウンター),という意味で使用されている。本校では,日本におけるエンカウンター・グループの実践と研究の展開について述べる。日本へのベーシック・エンカウンター・グループの導入は,1969年に,Rogers,C.R.のもとで2年間学んだ畠瀬稔によって行われた。最初の実践は,1970年に京都で行われた。以後,畠瀬を中心とする人間関係研究会,村山正治を中心とする福岡人間関係研究会等がその実践と研究を今日に至るまで継続している。その対象は,一般人,中学生,高校生,予備校生,大学生,看護学生,保母,教師,養護教諭,家族,不登校の子の親,看護婦,電話相談員,企業人,カウンセラー等,多様である。野島ら(1991)は,精神分裂病者を対象として,ベーシック・エンカウンター・グループ的集団精神療法を実施している。研究発表は,1971年の畠瀬,野島による日本心理学会での最初の発表以来,着々と続けられている。研究の主な領域は,(1)プロセス研究,(2)効果研究,(3)ファシリテーター研究,(4)適用である。研究の展望は,村山ら(1979),小谷ら(1982),野島(1983),茂田ら(1983),村山ら(1987),中栄治(1989),坂中正義ら(1994),林もも子(1997),野島(1997)等で行われている。構成的エンカウンター・グループは,1970年代半ばから日本の各地でいろいろな人達によって,様々な形態で行われるようになった。構成的エンカウンター・グループは,主に教育の領域で実践が盛んに行われている。日本の学校で大きな問題になっているいじめ,不登校等の予防のために,また学級集団づくりや仲間づくりのために導入が行われている。鍋田(1991)は,思春期の対人恐怖症や登校拒否児への治療として構成的エンカウンター・グループを用いて効果をあげている。研究発表は,1978年の国分康孝と菅沼憲治による日本相談学会での発表以来,着々と続けられてきている。研究の主な領域は,(1)プロセス研究,(2)効果研究,(3)エクササイズ・プログラム研究,(3)適用である。研究展望は,野島(1992)によって行われている。米国でのエンカウンター・グループの実践は,1960年代から1970年代にかけて盛んに行われたが,その後は衰退し,研究発表も最近では見られなくなっている。しかし,日本ではこの30年間続いてきたし,現在でも盛んである。そして,今後もさらに盛んになっていくことが予測される。