著者
野島 孝之 長嶋 和郎 竹上 勉
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

横紋筋肉腫と鑑別診断上,問題となる悪性軟部腫瘍症例について組織学的,分子生物学・遺伝子学的検討を行った。その結果,横紋筋肉腫の組織学的な診断には,免疫組織化学的にデスミン,サルコメリックアクチンが有効で,両者は大部分の腫瘍細胞に陽性を示したが,ミオグロビンは極一部の腫瘍細胞の胞体内に陽性を示すに過ぎなかった。CD99(MIC2遺伝子産物)は横紋筋肉腫の70%の症例に陽性所見を得、CD99の横紋筋肉腫の診断への有効性を示唆する。しかし,染色態度はEwing肉腫/PNET群では細胞膜に強度の陽性所見を示すのに対し,横紋筋肉腫では細胞質内に弱い染色態度を示すに過ぎず,診断学上の価値はデスミン,サルコメリックアクチンに劣ると思われる。横紋筋肉腫の胞巣型では異なる染色体上の2つの遺伝子、PAX3、あるいはPAX7とFKHRが部分的に結合し、正常とは異なるDNA配列により異常な蛋白を産生し、腫瘍が発生すると考えられている。遺伝子解析ではPAX-FKHRの再構成キメラ遺伝子の存在が胞巣型に特異的であり,検索した胞巣型全例にこのキメラ遺伝子を検出した。鑑別診断上問題となる悪性リンパ腫,Ewing肉腫/PNET群,悪性線維性組織球腫,胎児型横紋筋肉腫では検出されなかった。一方,多形型横紋筋肉腫7例中1例にPAX-FKHR変異遺伝子を検出した。組織学的には多形細胞,巨細胞を交える紡錘形細胞肉腫の像で,胞巣型の部分は全く含まれていなかった。PAX-FKHR変異遺伝子の検出は1例のみであるが,PAX-FKHR変異遺伝子の存在は胞巣型と多形型の腫瘍発生機構における類似性を示唆するものであった。
著者
萩原 正敏 野島 孝之
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

タンパク質をコードするmRNAは核外に輸送されて翻訳されるため、mRNAの核外輸送は遺伝子発現の重要な制御ステップのひとつである。スプライシングされたmRNA上に形成されるEJC(exon junction complex)と呼ばれる複合体中のREF(RNA export factor)が、mRNAの核外輸送を担っているとのモデルが考えられている。最近我々は、mRNAのキャップ構造にもREFが結合することを見出した。REFのRNA結合部位を調べたところ、キャップ構造よりも100塩基下流の部位に結合することが示された。REFはDExD box型RNAヘリカーゼであるUAP56/BATと強固に2量体を形成していることから、UAP56によるRNPリモデリングが生じ、キャップ構造から下流のmRNA上へ移動する機構があるのかもしれない。REFはCBP20に主として結合していたが、この複合体にはSRPK1もカップリングしており、リン酸化制御を示唆するデータが得られた。このことは、キャップ構造によってRNA上に呼び込まれるREFがイントロンレスmRNAのスプライシングに依存しない核外輸送を担っている可能性を示している。また単純ヘルペスのmRNAはウイルスタンパク質ICP27がREFと相互作用することにより核外へ輸送されているが、我々の解析ではICP27は、PMLをコードするmRNAのスプライシングを制御するスプライシング調節因子としての機能を有することが判明した。ICP27のRNA認識機構は予想外に複雑であることが判明したので、CLIPと呼ばれる新しい研究手法でICP27の標的遺伝子転写産物の解析を進めた。このことは、ウイルス感染のより、感染細胞の特定のmRNAのスプライシングパターンが変化することを意味しており、極めて興味深い。