著者
前田 将吾 髙畑 晴行 原田 麻未 中川 佑美 森 公彦 金 光浩 長谷 公隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.J-52_1-J-52_1, 2019

<p>【はじめに】</p><p> 近年,脳性麻痺症例の運動機能と筋力の関連性を示した報告が散見され,運動による筋力維持・向上の重要性が示唆されている.一方で,歩行や移動に制限がある粗大運動能力分類システム(Gross Motor Function Classification System:GMFCS)Ⅳ~Ⅴレベルの症例では,随意的な運動による筋力維持・向上が困難である.今回,低運動機能に分類される脳性麻痺児に対する他動的歩行練習が下肢筋活動に及ぼす影響を評価し,運動量を増加させる方法を検討したため,運動学的考察を加えて報告する.</p><p>【症例紹介】</p><p> 症例は9歳男児,身長124.0cm,体重14.6kgである.在胎26週663gで出生し,脳室内出血に起因する水頭症を発症したため,脳室-腹腔シャント術を施行された.今回,シャント機能不全に対するシャント入れ替え術のため当院入院された.入院前に自力歩行が困難で,屋内移動を5m程度肘這いで行っていた.術後にイレウスによる嘔吐や食思不振のため低栄養状態となり,長期的入院や多数のルート類によるストレスによって運動意欲は低下した.術後1か月で全身状態が安定し立位や歩行練習を開始した.歩行練習開始時の身体的特徴は,GMFCS:Ⅴ,粗大運動能力尺度(Gross Motor Function Measure)-66 Score:20.5,Modified Ashworth Scale:膝関節伸展両側1,足関節背屈両側1+であった.歩行条件は,両腋窩介助での歩行と歩行補助具(ファイアフライ社製,アップシー小児用歩行補助具)を使用した歩行(補助具歩行)の2条件とした.アップシーの特徴は、児の体幹と介助者の腰部がベルトで連結され,体幹直立位保持が可能になることである.また足部も介助者と連結され,介助者の下肢支持と振り出しに連動する機構となっている.筋電図評価を行うために表面筋電計(Noraxon社製Clinical DTS)を用いて,左右の大腿直筋,半腱様筋,前脛骨筋,腓腹筋外側頭の計8筋を計測した.</p><p>【経過】</p><p> 両腋窩介助歩行では下肢の振り出しが困難であり,下肢筋活動は持続的であった.補助具歩行では,リズミカルな下肢屈曲-伸展運動が可能であり,大腿直筋は左右とも立脚期に活動し,半腱様筋は左右とも遊脚中期から立脚初期に活動していた.前脛骨筋と腓腹筋外側頭は立脚期を通して同時活動していた.またアップシーを用いると嫌がることなく1時間以上連続して立位および歩行が可能であった.</p><p>【考察】</p><p> 低運動機能に分類される症例において,用手的な介助による運動または歩行が困難な場合でも,アップシーを用いた歩行は,体幹直立位での下肢屈曲-伸展運動を可能にした.立脚期の足関節背屈運動や股関節伸展の誘導によってCentral Pattern Generatorが賦活され,下肢の相動性な筋活動が出現したと考えられた.また筋力低下に対しても体幹・下肢への負荷量を調整することが可能であるため,運動量の確保や運動意欲の向上に関与したと示唆された.今後,歩行練習による介入効果を検証する必要がある.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p> ヘルシンキ宣言に基づき,家族に口頭にて十分な説明を行い実施した.また個人情報の取り扱いにおいては,個人が特定できる情報は用いずに実施した.</p>
著者
小栢 進也 久保田 良 中條 雄太 廣岡 英子 金 光浩 長谷 公隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0051, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】膝を伸展させる代表的な筋は大腿四頭筋であるが,足や股関節の筋は下腿や大腿の動きを介して膝を伸展できる。このため,ヒトの多関節運動においては膝関節以外の筋も膝伸展運動に関与する。変形性膝関節症(膝OA)患者は立脚初期の膝伸展モーメント低下が報告されており,大腿四頭筋の膝伸展作用が低下している。しかし,膝OA患者は大腿四頭筋以外のどの筋で膝伸展作用を代償しているのか明らかではない。筋骨格シミュレーションによる順動力学解析は筋張力と関節角加速度の関係性を計算式により算出することで,膝伸展運動における筋の貢献度を調べることができる。そこで,本研究では膝OA患者の歩行分析から,筋が生み出す膝関節角加速度を調べ,膝伸展に貢献する筋を調べる。【方法】対象は膝OA患者18名(72.2±7.0歳),健常高齢者10名(70.5±6.7歳)とした。被験者の体表に18個のマーカーを貼り,三次元動作分析システム(3DMA-3000)およびフォースプレートを用いて歩行動作を測定した。マーカーの位置情報には6Hzのローパスフィルターを適用した。次に,OpenSimを用いて順動力学筋骨格シミュレーション解析を行った。8セグメント,7関節,92筋のモデルを使用した。解析はモデルを被験者の体に合わせるスケーリング,モデルと運動の力学的一致度を高めるResidual Reduction Algorithm,筋張力によってモデルを動かすComputed Muscle Controlを順に行い,歩行中の筋張力を計算式により求めた。さらに各筋の張力と膝関節角加速度の関係性を調べるためInduced Acceleration Analysisを用いた。データは立脚期を100%SP(Stance Phase)として正規化し,立脚初期(0-15%SP)での各筋が生み出す平均膝伸展角加速度を求めた。統計解析には歩行速度を共変量とした共分散分析を用い,筋張力と筋が生み出す膝伸展加速度を膝OA患者と健常高齢者で比較した。【結果】0-15%SPの張力は大腿広筋,足背屈筋群,ひらめ筋,腓腹筋で膝OA患者が健常高齢者より有意に低く,股内転筋群で有意に高い値を示した。膝伸展角加速度の解析では大腿四頭筋(膝OA患者2656±705°/sec2,健常高齢者3904±652°/sec2),足背屈筋群(膝OA患者-5318±3251°/sec2,健常高齢者-10362±4902°/sec2),ヒラメ筋(膝OA患者1285±1689°/sec2,健常高齢者3863±3414°/sec2),股内転筋群(膝OA患者1680±1214°/sec2,健常高齢者1318±532°/sec2)で有意差を認めた。【結論】膝OA患者と健常高齢者では大腿四頭筋と足背屈筋群に大きな差を認めた。膝OA患者は立脚初期の大腿四頭筋の発揮張力低下により膝伸展作用が低下する一方で,前脛骨筋を含む足背屈筋群の発揮張力を減少させ,その膝屈曲作用を低下させている。足背屈筋群は下腿を前傾することで膝を屈曲させるため,膝OA患者は足背屈筋群の張力発揮を抑えて立脚初期に膝屈曲が生じない代償パターンにて歩行していることが明らかとなった。