著者
勝島 詩恵 今井 芳枝 橋本 理恵子 三木 恵美 荒堀 広美 井上 勇太 長谷 公隆
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.127-134, 2022 (Released:2022-10-06)
参考文献数
19

本研究では,外来でがんリハビリテーション(以下,がんリハ)を受ける再発・進行がん患者の経験を明らかにし,がんリハの真のエンドポイントを検討することを目的とした.対象はがん薬物療法中でがんリハを行っている再発・進行がん患者13名とし,半構造化面接法を実施した.結果,【自分にあった身体の状態を見つける】【うまく自分の中で生かせる運動が掴めない】【普段と変わりない日常生活を継続できる】【自分が動けていることを周りに示す】【自分で身体を動かしていく愉しみがある】【いまの自分の‘生きる’ことを意味付けてくれる】の6カテゴリーが抽出された.がんリハは再発・進行がん患者に,自身が持つ生きる意味や価値,目的を再確立することで,今の苦しい状況に適応させていく契機になると考えられた.これより,Masteryの獲得が,がんリハにおける新たなエンドポイントになると推察できた.
著者
長谷 公隆
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1167-1173, 2004-12-10

はじめに バイオフィードバック(biofeedback;以下BFと略)とは,通常では認識することが困難な生体内の生理現象を視覚や聴覚などで感知できる知覚信号に変換し,随意的には制御できない現象をその知覚信号に基づいてコントロールさせようとする行為である.筋電図バイオフィードバック(EMG-BF)療法は,筋収縮の程度を知覚信号に変換して患者に提示し,これを制御させることによって目的とするパフォーマンスの改善を図る治療法であり,Marinacciら1)が神経筋再教育に用いて以来,運動学習のための一手法としてリハビリテーション医療に広く応用されている.制御対象として選定された筋肉の収縮を,促通(facilitation)させるのか,弛緩(relaxation)させるのかによって大きく分類することができ,その適応は表1に示すように多岐にわたっている. 促通訓練は,筋力増強を必要とする病態に対して,筋肉の活動を量的に提示することによって施行される.しかし,痙性麻痺に対するEMG-BF療法は,麻痺筋の促通訓練に先立って,制御したい運動に拮抗する筋群の弛緩訓練が必要な場合がある.また,弛緩訓練には,過剰な筋収縮を抑制することで局所的な不随意運動を制御させようとする場合と,特定の筋収縮を制御することで,疼痛や全体としての運動パフォーマンスなど,筋張力が低下することとは直接関係のない事象の機能的改善を得ようとする場合に分けられる.これらの効果をリハビリテーション医療に適用するためには,EMG-BF療法の基本的技術を十分に理解したうえで,患者の特性や病態に応じた治療プログラムに基づいて実施する必要がある. 本稿では,EMG-BF療法を臨床に用いるために必要な基礎知識をまとめるとともに,その臨床効果について,無作為対照試験(randomized controlled trial;RCT)を中心にレビューする.
著者
鈴木 悦子 長谷 公隆 小林 賢 東海林 淳一 祝 広香
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BcOF1045, 2011

【目的】片麻痺患者の歩行は、立脚時間・単脚支持時間・歩幅などの運動学的パラメータおよび床反力などの運動力学的パラメータにおいて非対称性を認める。その非対称性は、非麻痺側下肢を優位に使用した歩行パターンとなっている。我々は、片麻痺歩行訓練において、非麻痺側下肢からの感覚入力を減らし、非麻痺側下肢による代償を制限した歩行を実現するために、非麻痺側下肢に模擬義足を適用した理学療法介入を試みている。本研究の目的は、片麻痺患者における模擬義足歩行訓練が歩行パラメータに及ぼす変化を、トレッドミル等による歩行訓練と比較することで検証することである。<BR><BR>【方法】脳卒中発症から6か月以上経過し、独歩可能で明らかな感覚障害・高次脳機能障害を有さない慢性期脳卒中片麻痺患者22名を対象とし、模擬義足歩行訓練群11名(義足群;平均61.8±9.0歳)と対照群11名(平均61.5±11.0歳)に振り分けた。対照群への介入はトレッドミル等を用いたPTの介助による歩行訓練とし、当院での麻痺手治療プログラムのために入院した患者および歩行能力改善を目的に理学療法が処方された患者とした。模擬義足は、膝関節屈曲90度にて装着し、膝継ぎ手は0度固定、足部はロッカーボトムを用いて各患者に作製した。両群ともに、5分間を1セッションとして1日3セッションの歩行訓練を10日前後施行した。評価は、訓練前および最終訓練後24時間以上間隔を開けて歩行分析を行った。歩行分析は、杖を使用せずに、2枚の床反力計(アニマ社製, MG-1090)上を歩行させて10歩行周期以上を記録し、麻痺側および非麻痺側の床反力前後成分、立脚時間、歩幅を計測した。また、10m歩行における最大歩行速度を測定した。床反力前後成分は、立脚期前半の制動期と後半の駆動期に分けて、ピーク値を有する各成分の単位時間当たりの値を体重補正して算出した。また、歩行パターンの変化を同定するために1歩行周期に占める単脚支持時間の割合を算出した。患者特性の差に関する両群間の比較は、Mann-Whitney U検定とX<SUP>2乗検定を用いて行った。各群における訓練前後の各パラメータの変化については、Wilcoxonの符号付き順位和検定を使用し、訓練前後の各パラメータの変化量における義足群と対照群の差についてはMann-Whitney U検定を用い、有意水準をP<0.05にて検定した。<BR><BR>【説明と同意】対象は、理学療法開始前のリハビリテーション医の診察において研究の主旨・目的・方法を十分に説明し、同意が得られた方とした。本研究は当施設倫理審査会の承認を得て実施した。<BR><BR>【結果】年齢・性別・麻痺側および最大歩行速度などの患者特性は両群間に差はなかった。歩行訓練のセッション数は、義足群30.6±1.9回、対照群32.3±3.2回であった(P=0.211)。義足群では、1歩行周期に占める麻痺側単脚支持時間の割合が23.5±7.3%から26.7±4.9%(P<0.01)へ、床反力前後成分の麻痺側推進力が2.61±1.35%BWから3.36±1.27%BW(P<0.005)へ有意に増加した。対照群では麻痺側歩幅が37.7±14.6cmから41.2±4.4cm(P<0.05)へ有意に延長したが、運動力学的パラメータに変化はみられなかった。両群間の変化量については、麻痺側推進力が義足群:0.75±0.44%BW、対照群:0.16±0.76%BWで、義足群で有意に増加した(P<0.05)。また、麻痺側単脚支持時間の割合の変化量は、対照群に比べて義足群で延長する傾向を認めた(P=0.076)。<BR><BR>【考察】義足群では、麻痺側下肢の推進力の増大したことにより運動力学的変化が得られた。この麻痺側下肢の運動力学的変化は、麻痺側下肢単脚支持時間の割合が延長したことからも裏付けられる。一方、対照群でみられた麻痺側歩幅の延長という運動学的な非対称性の改善は、床反力前後成分の有意な変化が認められなかったことから、運動力学的変化を伴っていないと言える。本研究の結果より片麻痺患者における模擬義足歩行訓練はトレッドミル等による歩行訓練とは異なる訓練効果をもたらすことが示唆された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】片麻痺患者の歩行訓練法についての研究報告では、運動学的変化については多数みられるものの、運動力学的変化が得られるという研究報告は少ない。その意味で模擬義足歩行訓練は、新たな歩行訓練方法として効果および適応についての検討を継続する必要があると考える。
著者
長谷 公隆 Munkhdelger Dorjravdan
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.114-120, 2021-02-18 (Released:2021-04-14)
参考文献数
13
被引用文献数
1

歩行分析には,二足歩行における病態を同定し,治療において重点化するべき問題を明確にする役割がある.観察による立脚期制御の歩行分析は,初期接地から荷重応答期・中期・後期の3相に分けて運動力学的な事象を考慮しながら評価する.定量的歩行分析は,3次元分析,床反力および筋電図計測を基本にして,臨床的ニーズに応じた計測システムを選択する.歩行推進力の指標には,立脚後期の床反力前後成分に加えて,爪先離地時の床反力作用点の位置を,股関節を中心とした角度として表す “trailing limb angle” が有用である.現代の歩行分析には,膨大な計測データから注目するべき指標を抽出するデータ・マイニングが含まれる.
著者
宮田 知恵子 藤原 俊之 補永 薫 辻 哲也 正門 由久 長谷 公隆 里宇 明元
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.301-307, 2008-05-18 (Released:2008-06-10)
参考文献数
17

上肢局所性ジストニア患者においては,大脳皮質興奮性の増大が認められ,皮質興奮性を低下させる低頻度反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)が,症状の改善に有効であることが知られている.より簡便な経頭蓋直流電流刺激(tDCS)も皮質興奮性の修飾をもたらすことが報告されており,局所性ジストニアの治療に有効な可能性がある.さらに装具を用いた上肢運動の抑制により,局所性ジストニアが軽減することも報告されている.そこで,われわれは,上肢局所性ジストニアに対して,tDCSと装具の併用療法を施行した.Cathodal tDCSは刺激強度1 mA,刺激持続時間10 分間,1 日1 回,5 日間連続して施行し,その後,右母指と右示指の指節関節固定装具を装着させた.5 日間連続のtDCSの後には,書字動作時の長母指屈筋と第一背側骨間筋の過剰な筋活動が減少し,刺激間隔20 ms,100 msにおける相反性抑制ならびに皮質内抑制の出現を認めた.さらにスプリントの装着により,その効果は3 カ月後にも維持されていた.tDCSとスプリントの併用療法は,局所性ジストニアの治療に有効である可能性が示唆された.
著者
前田 将吾 髙畑 晴行 原田 麻未 中川 佑美 森 公彦 金 光浩 長谷 公隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.J-52_1-J-52_1, 2019

<p>【はじめに】</p><p> 近年,脳性麻痺症例の運動機能と筋力の関連性を示した報告が散見され,運動による筋力維持・向上の重要性が示唆されている.一方で,歩行や移動に制限がある粗大運動能力分類システム(Gross Motor Function Classification System:GMFCS)Ⅳ~Ⅴレベルの症例では,随意的な運動による筋力維持・向上が困難である.今回,低運動機能に分類される脳性麻痺児に対する他動的歩行練習が下肢筋活動に及ぼす影響を評価し,運動量を増加させる方法を検討したため,運動学的考察を加えて報告する.</p><p>【症例紹介】</p><p> 症例は9歳男児,身長124.0cm,体重14.6kgである.在胎26週663gで出生し,脳室内出血に起因する水頭症を発症したため,脳室-腹腔シャント術を施行された.今回,シャント機能不全に対するシャント入れ替え術のため当院入院された.入院前に自力歩行が困難で,屋内移動を5m程度肘這いで行っていた.術後にイレウスによる嘔吐や食思不振のため低栄養状態となり,長期的入院や多数のルート類によるストレスによって運動意欲は低下した.術後1か月で全身状態が安定し立位や歩行練習を開始した.歩行練習開始時の身体的特徴は,GMFCS:Ⅴ,粗大運動能力尺度(Gross Motor Function Measure)-66 Score:20.5,Modified Ashworth Scale:膝関節伸展両側1,足関節背屈両側1+であった.歩行条件は,両腋窩介助での歩行と歩行補助具(ファイアフライ社製,アップシー小児用歩行補助具)を使用した歩行(補助具歩行)の2条件とした.アップシーの特徴は、児の体幹と介助者の腰部がベルトで連結され,体幹直立位保持が可能になることである.また足部も介助者と連結され,介助者の下肢支持と振り出しに連動する機構となっている.筋電図評価を行うために表面筋電計(Noraxon社製Clinical DTS)を用いて,左右の大腿直筋,半腱様筋,前脛骨筋,腓腹筋外側頭の計8筋を計測した.</p><p>【経過】</p><p> 両腋窩介助歩行では下肢の振り出しが困難であり,下肢筋活動は持続的であった.補助具歩行では,リズミカルな下肢屈曲-伸展運動が可能であり,大腿直筋は左右とも立脚期に活動し,半腱様筋は左右とも遊脚中期から立脚初期に活動していた.前脛骨筋と腓腹筋外側頭は立脚期を通して同時活動していた.またアップシーを用いると嫌がることなく1時間以上連続して立位および歩行が可能であった.</p><p>【考察】</p><p> 低運動機能に分類される症例において,用手的な介助による運動または歩行が困難な場合でも,アップシーを用いた歩行は,体幹直立位での下肢屈曲-伸展運動を可能にした.立脚期の足関節背屈運動や股関節伸展の誘導によってCentral Pattern Generatorが賦活され,下肢の相動性な筋活動が出現したと考えられた.また筋力低下に対しても体幹・下肢への負荷量を調整することが可能であるため,運動量の確保や運動意欲の向上に関与したと示唆された.今後,歩行練習による介入効果を検証する必要がある.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p> ヘルシンキ宣言に基づき,家族に口頭にて十分な説明を行い実施した.また個人情報の取り扱いにおいては,個人が特定できる情報は用いずに実施した.</p>
著者
田口 周 橋本 晋吾 長谷 公隆
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.23-28, 2019 (Released:2020-02-01)
参考文献数
13

超高齢社会は我が国において重大な問題の1 つであり,その進展に伴う課題点として認知症患者の増加が挙げられる.認知症対策に関する様々な取り組みが試みられているが,それに関連して認知機能評価および訓練は重要である.また,近年,Virtual Reality を始めとした先端技術が医療及び介護分野も含めて様々な領域で応用されている.その先端技術の1 つとして近年注目されているMixed Reality を認知機能などに対して応用する試みについて紹介する.
著者
長谷 公隆
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.199-204, 2018 (Released:2019-11-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1

中枢神経疾患における上位運動ニューロン症候群の陽性徴候(positive symptoms)である痙縮は,腱反射亢進を伴う緊張性伸張反射(tonic stretch reflex)の速度依存性亢進と定義され,運動麻痺症状の増悪や異常肢位,痛みを招いて日常生活に悪影響を及ぼす.伸張反射の受容器である筋紡錘の感受性は錘内筋線維を支配するγ運動ニューロンによって制御される.痙縮筋には自発性運動単位発火がみられ,その頻度は中枢神経損傷後の回復とともに増大する.このα運動ニューロンの興奮性増大を説明する機序として,γ錐内運動システムや脊髄運動ニューロンの内在的特性,シナプス前抑制機構や相反抑制の減弱を含めた脊髄介在ニューロンの変化が考えられている.しかしながら,痙縮に伴う足クローヌスや痙縮の構造特性を含めて,明確な機序は明らかになっておらず,その病態生理の解明が望まれる.
著者
長谷 公隆
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.8, pp.542-553, 2006-08-18
参考文献数
43
被引用文献数
7

Quiet standing posture is organized by supporting, stabilizing, and balancing the body mass against gravity. The center-of-body-mass is controlled in space within a relatively small base of support. Accordingly, ankle and hip mechanisms are used to control the upright posture in an inverted pendulum-like behavior. Body sway is often estimated from center-of-pressure (COP) measures derived from force plate data. Postural control in the anterior-posterior and medial-lateral directions during quiet standing is achieved by separate strategies; therefore, COP measurements should be analyzed in each direction. Various methods of COP analyses including stabilogram diffusion analysis have been developed, but to reveal the mechanism for reorganization of posture against motor or sensory disturbances, the average location to control body sway within the base of support has to be measured. The body schema is determined depending on both the internal and external environments, for example, the loss of sensory monitoring from a unilateral leg moves the center-of-body sway backwards. Compensatory mechanisms, such as an increased role of hip strategy, are used to maintain the anterior-posterior equilibrium. Lower-limb amputees or hemiparetic patients are not able to utilize the affected ankle mechanism and anterior-posterior COP movement is increased under the sound leg more than under the affected leg. The effects of l-dopa or brain stimulation on the postural control in patients with Parkinson's disease have been estimated by COP-based measurement We can identify the clinical outcomes of rehabilitative treatments by analyzing the patient's optimized standing posture.
著者
小栢 進也 久保田 良 中條 雄太 廣岡 英子 金 光浩 長谷 公隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0051, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】膝を伸展させる代表的な筋は大腿四頭筋であるが,足や股関節の筋は下腿や大腿の動きを介して膝を伸展できる。このため,ヒトの多関節運動においては膝関節以外の筋も膝伸展運動に関与する。変形性膝関節症(膝OA)患者は立脚初期の膝伸展モーメント低下が報告されており,大腿四頭筋の膝伸展作用が低下している。しかし,膝OA患者は大腿四頭筋以外のどの筋で膝伸展作用を代償しているのか明らかではない。筋骨格シミュレーションによる順動力学解析は筋張力と関節角加速度の関係性を計算式により算出することで,膝伸展運動における筋の貢献度を調べることができる。そこで,本研究では膝OA患者の歩行分析から,筋が生み出す膝関節角加速度を調べ,膝伸展に貢献する筋を調べる。【方法】対象は膝OA患者18名(72.2±7.0歳),健常高齢者10名(70.5±6.7歳)とした。被験者の体表に18個のマーカーを貼り,三次元動作分析システム(3DMA-3000)およびフォースプレートを用いて歩行動作を測定した。マーカーの位置情報には6Hzのローパスフィルターを適用した。次に,OpenSimを用いて順動力学筋骨格シミュレーション解析を行った。8セグメント,7関節,92筋のモデルを使用した。解析はモデルを被験者の体に合わせるスケーリング,モデルと運動の力学的一致度を高めるResidual Reduction Algorithm,筋張力によってモデルを動かすComputed Muscle Controlを順に行い,歩行中の筋張力を計算式により求めた。さらに各筋の張力と膝関節角加速度の関係性を調べるためInduced Acceleration Analysisを用いた。データは立脚期を100%SP(Stance Phase)として正規化し,立脚初期(0-15%SP)での各筋が生み出す平均膝伸展角加速度を求めた。統計解析には歩行速度を共変量とした共分散分析を用い,筋張力と筋が生み出す膝伸展加速度を膝OA患者と健常高齢者で比較した。【結果】0-15%SPの張力は大腿広筋,足背屈筋群,ひらめ筋,腓腹筋で膝OA患者が健常高齢者より有意に低く,股内転筋群で有意に高い値を示した。膝伸展角加速度の解析では大腿四頭筋(膝OA患者2656±705°/sec2,健常高齢者3904±652°/sec2),足背屈筋群(膝OA患者-5318±3251°/sec2,健常高齢者-10362±4902°/sec2),ヒラメ筋(膝OA患者1285±1689°/sec2,健常高齢者3863±3414°/sec2),股内転筋群(膝OA患者1680±1214°/sec2,健常高齢者1318±532°/sec2)で有意差を認めた。【結論】膝OA患者と健常高齢者では大腿四頭筋と足背屈筋群に大きな差を認めた。膝OA患者は立脚初期の大腿四頭筋の発揮張力低下により膝伸展作用が低下する一方で,前脛骨筋を含む足背屈筋群の発揮張力を減少させ,その膝屈曲作用を低下させている。足背屈筋群は下腿を前傾することで膝を屈曲させるため,膝OA患者は足背屈筋群の張力発揮を抑えて立脚初期に膝屈曲が生じない代償パターンにて歩行していることが明らかとなった。
著者
新藤 恵一郎 辻 哲也 正門 由久 長谷 公隆 里宇 明元 木村 彰男 千野 直一
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.9, pp.619-624, 2004-09-18
被引用文献数
2

書痙患者に対する低頻度反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)の有効性を,ペン型簡易筆圧計を用いて検討した.書痙患者5例および健常群5名に対して,rTMSを一次運動野直上に安静時運動閾値の95%の刺激強度で1,500回施行した.書痙患者では,字体および書字評価のすべての指標(書字時間,最大筆圧,平均筆圧,変動値)で改善がみられたが,特に書痙患者に特徴的な拙劣さの指標である変動値の改善が著しかった.一方,健常群への影響は認めず,変動値において「健常群・書痙群」「rTMS前後」カテゴリー間の三元配置分散分析に有意な交互作用(p<0.01)を認めた.本研究により,rTMSによる書痙患者への効果が示され,また,簡易筆圧計による4つの書字評価の指標を組み合わせることにより,より鋭敏にrTMSによる治療効果をとらえることができる可能性が示唆された.