著者
金 思穎
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.107-126, 2018-03-23

本研究の目的は、2013年の災害対策基本法改正で創設された地域コミュニティの住民等を主体とした共助による防災計画制度である「地区防災計画制度」について、政令指定都市の中でも先進的な取組が実施されている北九州市独自のモデル事業に関する調査を踏まえ、地区防災計画づくりを通じた住民主体のコミュニティ防災の在り方について考察を行うことである。調査手法としては、2017年8月4日に、同市の防災担当官2人に対して、半構造化面接法によるインタビュー調査を実施し、SCAT(steps for coding and theorization)を用いた質的データ分析を行った。その結果、地区防災計画づくりに成功した地区では、①地域コミュニティの住民主体のボトムアップ型の活動、②大学教員、NPO、行政の防災担当経験者等の地域コミュニティの外部からの有識者等によるサポート、③福祉施設、学校、企業等の多様な主体との連携、④大学生から幼稚園児までの子供・若者の参加、⑤自治連合会長等の献身的な住民のリーダーの存在、⑥コミュニティセンター等を中心とした新規居住者を積極的に受け入れた校区単位の良好な人間関係、⑦河川の清掃活動のような日常的な地域活動を結果的に地域防災力の向上につなげる活動(「結果防災」)、⑧自治体の防災担当経験者による自発的な長期的支援、⑨地区の特性に応じた行政と地域コミュニティの連携等の特徴があることが判明した。なお、本稿は、1つの政令指定都市の地区防災計画制度のモデル事業に関する調査であり、検証のためには、さらなる事例の調査が必要である。