- 著者
-
金井 雅彦
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2018-04-01
本研究は本来 Margulis の超剛性定理を典型とする高階リー群の格子の剛性に関わるものであった.しかし,研究方向は1年ほど前から変わりつつある.それを説明したい.Margulis の超剛性定理に先行して確立されたリー群の剛性定理のひとつに Mostow のそれがある.とくに,n 次元実双曲空間の等長変換群の一様格子は n が 3 以上のとき剛性を有する.一方,n=2 の場合には剛性現象は発現せず,逆に柔軟性とでも呼ぶべきものが観察される.その柔軟性を極めて精密な形で記述したのがタイヒミューラー空間論である.この類似がトンプソン群というまったく異種の離散群に対しても観察されることを認識したのが1年のことである.それ以降,この類似性を追求している.ところで,トンプソン群には F, T, V と言う記号で表される合計3種が存在する.いま,問題にしているのは,F ないし T である.これらの離散群の定義においては,Z[1/2] が登場する.そこに現れる 2 を 2 以上の整数 m で置き換えることにより,あらたな離散群が得られる.それを F(m), T(m) と書くことにしよう.McClearly-Rubin と Brin の結果を合わせると,F=F(2), T=T(2) に対しては Mostow の剛性定理に相当する結果が得られる.一方,m が 3 以上の場合には,柔軟性が発現することが Brin-Guzman により指摘されている.しかし,いま名前を挙げた研究者たちは,彼等の結果と Mostow の剛性定理やタイヒミューラー空間論との類似性を意識していないよう推察される.一般化トンプソン群 F(m), T(m) の剛性ー柔軟性を Mostow の剛性定理やタイヒミューラー空間論の類似性を強く意識しながら,新たな理解を目指し,部分的ではあるが成果を上げた1年間であった.