著者
野村 瞬 治郎丸 卓三 中田 康平 兵頭 勇太郎 金沢 伸彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>knee-inは,非接触型ACL損傷における代表的な危険肢位である(Ireland 1999)。knee-inにより,膝関節外反,大腿に対して下腿外旋という一連の動きが生じる。つまり,knee-inでは大腿筋膜張筋や外側ハムストリングスなどの過活動が生じ,knee-in改善にはこれらの筋の活動を低下させることが重要となる(井野2014)。そのため,knee-inにより活動が増大する筋を知り,neutralやknee-out肢位をとることにより,その筋の活動を低下できるかを把握しておく必要がある。</p><p></p><p>理学療法を行う上で,片脚立ち,両脚立ちなど,荷重量を変えた際のknee-in,neutral,knee-out時の膝関節周囲筋の筋活動パターンに違いがあるかを理解しておくことは大切である。しかし,我々の知る限りこれらの内容について報告されたものはない。そこで本研究では,片脚立ち,両脚立ちにおける,knee-in,neutral,knee-out時の膝関節周囲筋の筋活動パターンを検討した。</p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は健常成人男性15名(23.8±4.7歳)とし,筋電図計(MQ16)を用いて,片脚立ちと両脚立ち時の膝関節周囲筋の筋活動を測定した。測定筋は大腿筋膜張筋,外側・内側ハムストリングス,外側・内側・中間広筋,大腿直筋,縫工筋とした。片脚立ち,両脚立ちの条件中,床面に対して体幹を垂直,進行方向に足部を平行に置き,右脚を対象に股関節屈曲25°,膝関節屈曲40°で,knee-in,neutral,knee-outの3つの課題をランダムに実施した。姿勢が崩れない範囲でknee-in,knee-outを行った。また,大腿骨の外側上顆,内側上顆にマーカーを貼付し,デジタルカメラにて各課題を撮影し膝回旋角度を算出した。両脚立ち条件では足幅50cm,左右脚同様の肢位をとり,体重計を用いて右下肢の荷重は体重の50%とした。表面電極(1×1cm)は皮膚処理後,電極間距離1cmとし,測定筋の筋線維方向に沿って貼付した。筋電図データは,筋電図解析ソフト(KineAnalyzer)を用いて,フィルタ処理後(バンドパス10~500Hz),二乗平方平滑化処理(RMS)を行い,両脚立ち条件のneutralの各筋のRMSを1として正規化を行った。統計学的分析はSPSSを用いて,条件ごとに,各筋の筋電図は一元配置分散分析(knee-in,neutral,knee-out)を用いて比較した。事後検定としてTukey法を用いて,knee-in,neutral,knee-outにおける各筋の筋電図の比較を行った。有意水準は5%とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>片脚立ち条件では,外側ハムストリングス,外側広筋の活動が,neutral,knee-outに比べknee-inで有意に増大が認められた(p<0.05)。両脚立ち条件では,大腿筋膜張筋の活動が,neutral,knee-outに比べknee-inで有意に増大が認められた(p<0.05)。</p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>knee-inにより,片脚立ちでは外側ハムストリングス,外側広筋の活動が増大し,両脚立ちでは大腿筋膜張筋の活動が増大した。片脚立ちと両脚立ちではknee-inにより活動が増大する筋が異なる。</p>
著者
岡 恭正 治朗丸 卓三 野口 真一 小島 高広 和智 道生 森 健児 金沢 伸彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0974, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】近年,筋電図を用いて慢性腰痛者の動作中における筋活動パターンについて幾つも報告されている。その特徴的な筋活動パターンを理解することは,日常生活場面やスポーツ場面における動作中の痛みに対してアプローチする上でも重要となる。特に立位から体幹を屈曲した際,体幹屈曲最終域にて健常者では腰背部筋群の筋活動が消失する屈曲弛緩現象(Flexion Relaxation Phenomenon:以下FRP)は,Allen(1948)により初めて報告され,今ではその現象は広く知られている。また,Geisser et al.(2005)やMayer et al.(2009)は,FRPの消失が腰痛増悪と悪化に関与するとし,その感度と特異度が共に高いことから,腰痛の客観的な治療効果判定の指標になりうることを報告している。しかし,慢性腰痛者の筋活動パターンについては未だ不明な点も多く,慢性腰痛者における体幹伸展中の筋活動についての報告は屈曲に比べ少ない。中でも,腰部腸肋筋(以下IL)のFRPが消失している慢性腰痛症者を対象として,腰背部筋群,腹筋群,股関節周囲筋群の筋活動パターンを検討した報告は見当たらない。そこで今回,立位での体幹伸展中の腰背部筋群,腹筋群および股関節周囲筋群の活動を計測し,慢性腰痛者と非腰痛者の筋活動パターンの検討を行った。【方法】対象は成人男性20名(年齢21.9±2.8歳,身長173.2±6.0cm,体重66.3±9.5kg),健常群10名,腰痛群10名とした。健常群は①過去6ヶ月以内に神経学的及び整形外科的疾患を有さず,②ILにFRPが出現する者とした。また腰痛群は①過去3ヶ月以上伴う疼痛,②神経根および馬尾に由来する下肢痛を伴わない,③解剖学的腰仙椎部に局在する疼痛,④ILにFRPが消失する者とした。測定筋は右側のIL,胸部腸肋筋(以下IT),多裂筋(以下MF),腹直筋(以下RA),外腹斜筋(AE),内腹斜(AI),大殿筋上部(GMaU),大殿筋下部(GMaL),腸腰筋(ILIO),大腿筋膜張筋(TFL),大腿直筋(RF),縫工筋(SA)の12筋とした。表面電極は皮膚処理を十分に行い,電極中心距離は20mm,各筋線維方向に並行に貼付した。筋電図測定にはMQ16(キッセイコムテック社製)を用いた。まず体幹屈曲運動は先行研究を参考にまず開始姿勢を立位とし,両上肢は体側へ自然に下ろした肢位とした。開始肢位では3秒の安静立位後,体幹を4秒かけて屈曲,最大屈曲位で4秒静止,その後開始姿勢に4秒かけて戻る動作とし,その際の筋活動を計測した。FRP出現の定義は,三瀧ら(2007)を参考に,安静立位時の筋活動の大きさより低値をFRPの出現の判定とした。次に課題動作としては,安静立位姿勢時(以下安静立位時)と体幹最大伸展時(以下体幹伸展時)の2つの姿勢維持中の筋活動を計測した。筋電図データは,KineAnalyzer(キッセイコムテック社製)を用いて,フィルタ処理を行い(バンドパス10~500Hz),その後,二乗平均平方根(以下RMS)を算出し,最大随意位等尺性収縮(以下MVC)を基に正規化した。測定は各2回の平均値で5秒間のMVCを実施し,間3秒間のRMSを用いた。統計学的分析はSPSS12.0Jを用いて姿勢間の変化に対し筋ごとに対応のあるt検定を行った。なお有意水準は5%とした。【結果】安静立位時と体幹伸展時での%MVCを比較した際,健常群ではIT,MF,GMaUの3筋に体幹伸展時で有意な減少が認められた(P<0.05)。またRA,AEの2筋では体幹伸展時で有意な増加が認められた(P<0.05)。これに対し腰痛群ではMFに有意な減少が認められ(P<0.05),RA,AE,AI,ILIOでは有意な増加が認められた(P<0.05)。【考察】本研究は体幹伸展動作時において体幹筋群及び股関節周囲筋群の筋活動の計測を行った。安静立位時に比べ体幹伸展時において健常群ではIT,MF,GMaUで優位に減少し,腰痛群ではIT,GMaUで有意差は認められなかった。この結果から体幹伸展時において腰痛群ではIT,GMaUに過活動が生じることが明らかとなった。さらに,健常群では,安静立位時に比べ体幹伸展時でRA,AEが有意に増加したのに対して,腰痛群ではRA,AEに加えてAI,ILIOにも有意な増加が認められた。この結果から,体幹伸展時において腰痛群ではRA,AEに過活動が生じていることが明らかとなった。以上の結果から,健常群と腰痛群では体幹伸展での筋活動において異なる筋活動パターンが生じていることが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】本結果は,慢性腰痛者における客観的な治療効果判定の指標として,今後臨床応用への一助を与える基礎的情報になると考える。