- 著者
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奥村 裕
金指 美帆
金澤 佑治
藤田 直人
近藤 浩代
藤野 英己
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.AbPI2069, 2011 (Released:2011-05-26)
【目的】廃用性筋萎縮が起こると筋線維毎の毛細血管数や毛細血管径が減少する。このような毛細血管の退行には活性酸素種が関与していると考えられている。活性酸素により毛細血管の退行が生じれば、骨格筋細胞の代謝活性に影響を与える。一方、筋萎縮に伴う骨格筋毛細血管の退行に対する酸化ストレスを軽減させる方法や毛細血管退行と骨格筋細胞の代謝活性を考慮した研究はみられない。そこで、本研究では骨格筋線維と毛細血管のクロストークに焦点をあて、抗酸化力の高い抗酸化物質摂取による毛細血管への影響と骨格筋細胞の代謝という観点から、廃用性筋萎縮筋の筋線維タイプ別の毛細血管及び酸化的リン酸化系の代謝変化について検討した。【方法】12週齢のWistar系雄ラットを対照群(Cont群)、栄養サポートのみを行った群(CA群)、一週間の後肢懸垂を行った群(HU群)、及び後肢懸垂期間中に栄養サポートを行った群(HA群)の4群に区分した。栄養サポートにはアスタキサンチン(富士化学工業株式会社より提供)を毎日50mg/kgを1日2回経口摂取させた。実験期間終了後、足底筋を摘出し、急速凍結して保存した。摘出した筋試料は10μm厚に薄切し、ミオシンATPase染色(pH4.3)、アルカリフォスファターゼ(AP)染色、コハク酸脱水素酵素(SDH)染色後に光学顕微鏡で観察を行った。ATPase染色像を用いて足底筋を遅筋線維の多い深層部と速筋線維の多い浅層部に分別し、筋線維毎の毛細血管数の割合、単一筋線維の周囲の毛細血管数、筋線維のSDH活性を計測した。統計処理は一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を行い、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】一週間の後肢懸垂によりラット足底筋の筋湿重量は12%減少した。また、後肢懸垂期間中にアスタキサンチンを摂取したHA群においても同様に減少した。一方、深層部における筋線維毎の毛細血管数は、HU群ではCont群に比べ有意に減少を認めた。しかし、アスタキサンチンを経口摂取したCA群及びHA群は、それぞれCont群、HU群と比較して有意な増加を認めた。また、浅層部では4群間における有意な差は認められず、後肢懸垂の影響、アスタキサンチンの摂取有無に関係はみられなかった。また、単一筋線維周囲の毛細血管数は、遅筋線維ではCont群に比べHU群では有意な減少を認めたが、アスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では、単一筋線維周囲の毛細血管数の有意な増加を認めた。一方、速筋線維は4群間における有意な差は認められなかった。SDH活性をみると深層部の遅筋線維はCont群に比べHU群では有意に減少を認め、アスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では有意に増加を認めた。これらの結果からアスタキサンチンは遅筋線維のSDH活性を増加させ、廃用に伴う遅筋周囲の毛細血管退行を減衰させるものと考えられる。【考察】一週間の後肢懸垂により足底筋の深層部では、筋線維毎の毛細血管数や遅筋線維周囲の毛細血管数の減少、SDH活性の低下を認めた。これらの結果は、後肢懸垂で筋活動が低下し、筋細胞内のミトコンドリアにおけるエネルギー代謝が低下したために生じる現象であると考えられる。廃用性筋萎縮により骨格筋内の活性酸素種産生が増加するが、アスタキサンチン摂取により活性酸素種の産生を抑制し、酸化ストレスを減少できるとの報告がみられる。(Wolf, 2010)。本研究では、足底筋の深層部でアスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では、筋線維毎の毛細血管数や単一筋線維周囲の毛細血管数の有意な増加を認めた。また、遅筋線維でSDH活性の増加を認めた。これはアスタキサンチン摂取により活性酸素種が減少し、骨格筋線維周囲の毛細血管退行を防止できたために骨格筋細胞の代謝が阻害されなかったものと考えられる。また、その裏付けとして毛細血管の退行を抑制できた遅筋線維ではSDH活性が増加した。本研究では、速筋線維周囲の毛細血管には変化がなく、遅筋線維周囲で廃用の影響や毛細血管の変化が観察された。この結果は、遅筋線維の方が酸化的リン酸化による代謝に依存して、毛細血管からの酸素の供給に影響されることに起因するものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】骨格筋における毛細血管ネットワークは骨格筋細胞への酸素供給や糖・代謝産物輸送に重要である。骨格筋細胞の環境を最適化するために毛細血管の役割は必要不可欠である。また、本研究から、抗酸化物質を用いた栄養サポートは骨格筋の毛細血管退行に予防的な効果を示した。長期臥床などに伴う筋力増強運動などを実施する際に栄養面でのサポートを組み合わせて行っていく必要性があると考える。