著者
藤野 英己 祢屋 俊昭 武田 功 菅 弘之
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.292-299, 1998-07-31
参考文献数
11
被引用文献数
1

健常成人, 高齢者および唖下障害者の喉頭運動と呼吸運動をストレインゲージ法で同時に記録して, 瞭下と呼吸の相互連関について検討した。唖下反射は3mlの飲水で誘発した。健常成人では喉頭挙上開始から238±32msec(平均士標準誤差)遅延して唖下呼吸の吸息が開始した。喉頭降下開始から165±29msec遅延して唖下呼吸は呼息相に移行した。この相互連関は高齢者においても同様であった。この相互連関が維持されているときには正常な唖下が観察された。したがって, その相互連関がスムーズな瞭下物の移送に必要不可欠であることが示唆された。一方, 唖下障害者では誤唖が誘発された。この時には唖下発生までに潜時が認められたり, 喉頭挙上に先行して唖下呼吸がみられた。これらの結果から, 相互連関の乱れが誤嘆に関与することが示唆され, 本研究に使用した測定法が唖下障害の定量的評価法として有用であると考えられる。
著者
坂本 裕規 村上 慎一郎 近藤 浩代 村田 伸 武田 功 藤田 直人 藤野 英己
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1306-Ab1306, 2012

【はじめに、目的】 骨格筋量は30歳を頂点として加齢と共に減少する。また、筋力低下による活動量の減少は生活習慣病発症の危険因子である肥満を助長する。一方、筋力や体型は運動や食事などの環境要因だけでなく遺伝的要因も関与する。運動能力に関する遺伝子は200以上、肥満に関しても127以上の遺伝子の関連が報告されている。これらは筋力やBMI、体脂肪量に関連する。しかし、筋力低下や肥満に関係する遺伝子多型の情報は臨床応用には未だ至っていない。高齢者における遺伝子のこれらの遺伝子多型を解明し、筋力低下や肥満を生じやすい対象を特定できれば、予防的な早期介入が可能になると考える。本研究では高齢者における筋力や体型に関係すると考えられる遺伝子の多型が筋力や体組成に及ぼす影響について検証した。【方法】 対象は地域在住の健常女性164名(72.8±7.08歳)とした。体型や筋力に関係すると考えられる成長ホルモン受容体(GHR)、毛様体神経栄養因子(ZFP91-CNTF)、アクチニン3(ACTN3)、インスリン様成長因子受容体(IGFR-1)に関する遺伝子多型の解析のため口腔粘膜から得た細胞を用い、核DNAを抽出(Gentra Puregene Buccal Cell Kit,QIAGEN)した。TaqmanプローブによるリアルタイムPCR法でアレルの検出を行い、遺伝子多型(SNP)を同定した。筋力と体型を評価するため、握力、膝伸展力、足把持力の等尺性筋力を測定した。さらに、超音波機器を用いて大腿遠位部内側における内側広筋の筋厚を計測した。体組成の測定は、BMI、脂肪量、体脂肪率とした。測定結果の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当該施設における倫理委員会の承諾を得て行った。また対象者には実験の目的と方法を詳細に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 GHRにおけるSNP頻度はAA型20%、AG型50%、GG型30%であった。内側広筋の筋厚では、GG型はAG型に比べて有意に高値を示した。また膝伸展力と足把持力は、GG型がAA型に比べて有意に高値を示した。さらに握力でも同様に、GG型はAA型とAG型に比べて有意に高値を示した。この結果からGHRのGG型においては筋力や筋量が高く、A型アレルを持つ高齢女性は筋力や筋量が有意に低くなることが明らかとなった。次にZFP91-CNTFのSNP頻度はAA型44%、AT型38%、TT型18%であった。足把持力は、AT型はTT型に比べて有意に高値を示した。また脂肪量は、TT型がAA型に比べて有意に高値を示した。同様にBMIと体脂肪率においてもTT型はAA型とAT型に比べて有意に高値を示した。この結果よりTT型のSNPを持つ高齢女性では筋力が低く、肥満傾向が高いことが明らかになった。一方ACTN3とIGFR-1の遺伝子に関しては、各SNP間に有意差を認めなかった。【考察】 健常高齢女性において、GHR遺伝子多型は筋厚と筋力に、ZFP91-CNTF遺伝子多型は筋力と体組成に関与することが明らかになった。GHR遺伝子多型は筋厚と筋力の両方に影響を及ぼしていたことから、GHR遺伝子多型は筋肥大による筋力に関連することが明らかとなった。またZFP91-CNTF遺伝子多型は筋厚には影響を及ぼさなかったことから、ZFP91-CNTF遺伝子多型は神経系が関与する筋力に関係すると示唆された。先行研究ではGH投与によって青年の除脂肪体重が増加するとしている。またCNTF遺伝子多型は成人の筋力に影響を及ぼすとされている。以上のことから、健常高齢女性においてもGHR遺伝子多型は筋量に、ZFP91-CNTF遺伝子多型は筋力に関与すると考えられる。ACTN3遺伝子に関して、持久力を要するスポーツ選手と瞬発力を要するスポーツ選手の間で遺伝子型が異なるとの報告がある。一方、ACTN3遺伝子多型は筋力に影響を及ぼさないとする報告もある。本研究では、高齢女性におけるACTN3遺伝子多型は骨格筋量や筋力に影響を及ぼさなかった。異なるスポーツ特性間では差異を認めるが、地域在住の健常女性のような一般的な対象者では差異を認めなかったため、ACTN3遺伝子はトレーニングへの反応性に影響を及ぼすものと思われる。また本研究ではIGFR-1遺伝子多型は筋力と体組成の両方に影響を及ぼさなかった。先行研究ではIGF-1遺伝子多型が筋力に影響を与えるとされているが、その先行研究では対象が白人と黒人に限定されている。本研究の対象は日本人のみであったため、人種の違いによって異なる研究結果がもたらされた可能性がある。今後は対象集団を拡大することと、理学療法介入の効果を検討することが課題であると考える。【理学療法学研究としての意義】 GHRとZFP91-CNTFの遺伝子多型が高齢女性の筋力や体組成に影響を及ぼす事が明らかになったことから、筋力低下や肥満を生じやすい者を特定し、早期から理学療法士が介入できるようになる可能性が示唆された。
著者
藤野 英己 近藤 浩代 植村 弥希子 中西 亮介
出版者
神戸大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2020-10-27

再生医療は幹細胞を患部に移植をすることで完了するのではなく,移植後の微小環境が重要であり,再生を促進するための微小環境の管理が必須である.本研究では微小環境形成に関与すると考えられるエクソソームに焦点を絞り,骨格筋に対する物理的刺激で放出されるエクソソームがニューロン再生を促進させ脊髄損傷後の運動機能回復に有効であるかを検証するのが目的である.特に再生微小環境の形成には毛細血管ネットワークの退行予防と血管新生促進が不可欠であると考え,骨格筋から放出されエクソソームが脊髄の毛細血管網の構築に関与するかを検証し,再生医療における神経再生の管理のためのリハビリテーションを開発する.
著者
内藤 紘一 松尾 泉 宮﨑 博子 藤野 英己
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌 (ISSN:21850399)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.110-116, 2017-10-01 (Released:2017-10-01)
参考文献数
16

人口の高齢化に伴い,心臓リハビリテーション対象者も高齢化しており,転倒リスクを評価することの重要性が高まっている.そこで,本研究は,転倒リスクをスクリーニングするための項目を検討することとした.60 歳以上の入院高齢心不全患者33 例をBerg balance scale を使用して,転倒リスクの有無で2 群に分け,患者背景,重症度,身体機能を比較した.その後,ロジスティック回帰分析を行い,転倒リスクの有無に関連のある項目を抽出し,ROC 曲線を用いてカットオフ値を算出した.転倒リスクに独立して関連する因子は6 分間歩行距離のみであり,カットオフ値は328m であった.6 分間歩行距離が328m 未満では転倒リスクが高い可能性があることが示唆された.
著者
竹井 和人 村田 伸 甲斐 義浩 藤野 英己 村田 潤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3021, 2009

【目的】転倒は多くの危険因子により発生する.転倒予防において、支持面である床と唯一の接触部である足底、とくに足趾が重要な役割をはたすことは既に多くの報告がなされている.足趾は支持機構としての働きのほか、感覚の情報入力においても重要である.足趾機能の評価指標として足把持力は多くの研究で用いられている.また、足趾に対する訓練として足趾歩行、ビー玉移動などがあるが、床上に置いたタオルを足趾でたぐりよせるタオルギャザーは、臨床で多く用いられるトレーニング方法である.そこで、本研究では、タオルギャザーによる足把持力トレーニングの効果について検討した.<BR><BR>【方法】健常成人女性19名(平均年齢20.3±0.5歳、平均身長159.6±5.5cm、平均体重52.4±7.6kg)を対象とし、6週間の足把持力トレーニングを行った.トレーニングはタオルギャザーとし、タオルの上に0.5kgから2.0kgの重りを段階的に増加させながら実施した.運動頻度は週4日で、1日あたり10回×2セットとした.トレーニング前、トレーニング3週間後、6週間後に足把持力を測定し、各測定値は反復測定ANOVA検定、およびFisherの多重比較検定を行いトレーニング効果の判定を行った.<BR><BR>【結果】足把持力値はトレーニング開始前10.1±2.6kg、トレーニング開始3週間後12.8±2.6kg、6週間後では13.0±2.6kgであった.足把持力は3週間後では有意な増加がみられ、6週間後では3週間後と比較して有意な変化はみられなかった.<BR><BR>【考察】健常成人女性を対象に足把持力トレーニングとしてタオルギャザーを実施したところ、開始3週間後には有意な増加が認められたが、3週間から6週間の間では有意な増加は認められなかった.タオルギャザーを用いた足把持力のトレーニング効果について、開始後4週間で効果がみられたとする報告や、開始後10週間で訓練の効果がみられたとする報告などがある.しかし、トレーニング種目が複数であったり、トレーニング実施が被験者の自主性にゆだねられていたり、足把持力のトレーニング効果については必ずしも明確とはいえない.本研究では、トレーニングには験者が毎回立会い、確実に実施できているかを確認しながらおこなった.筋力増強訓練の効果について、筋力訓練を開始した直後の筋力増加は神経系の促通によるもので筋肥大は伴わないと考えられている.また、筋肥大を伴う筋力増加は最低6週間程度の運動の継続が必要であるといわれていることからも、今回、開始3週間で有意に増加した足把持力は神経系の影響によるものと考えられる.タオルギャザーによる足把持力トレーニングは比較的早期に訓練効果が得られることが示唆された.
著者
田中 雅侑 福留 千弥 藤田 直人 藤野 英己
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1353, 2012

【はじめに、目的】 肺高血圧症は進行性の肺動脈リモデリングを特徴とし,右心室の後負荷を増加させ,右心不全を惹起する.また,肺高血圧症の進行により顕著な運動制限を来す.その原因として骨格筋の運動耐容能の低下が指摘されており,運動耐容能の低下による身体活動量の減少は骨格筋の萎縮をさらに進めるとされている.近年,肺高血圧症に対する運動療法は運動耐容能の低下を改善させるとの報告がみられる.一方で,肺高血圧症における運動は肺動脈圧を上昇させ,右心室への負荷を高くするとされており,心筋への過剰な負荷は筋萎縮を誘発する炎症性サイトカインを発現させるという報告もある.このような報告から重度な肺高血圧症への運動療法は右心室に過負荷を与え,骨格筋の萎縮を助長する可能性も考えられる.本研究では,増悪期の肺高血圧症に対する運動が骨格筋の萎縮に及ぼす影響を遅筋と速筋で検証した.【方法】 4週齢のWistar系雄ラットを対照群(Con群),肺高血圧症群(PH群),肺高血圧症に運動を行った群(PHEx群)の3群に区分した.肺高血圧症はモノクロタリンの腹腔内投与(30mg/kg)によって惹起した.運動はトレッドミルを用いたランニング(速度;13.3m/min,30分間/日)を実施した.運動はモノクロタリンを投与した翌日から開始し,週5回の頻度で,4週間継続した.実験期間中は1週間毎に体重を測定した.4週間の実験期間終了後,ヒラメ筋及び前脛骨筋,並びに心臓を摘出し,湿重量を測定した.得られた骨格筋試料は急速凍結し,10µm厚の横断切片を作製した後にATPase染色(pH 4.5)を行った.ATPase染色の光学顕微鏡所見を用いて筋線維をタイプI線維,タイプIIA線維,及びタイプIIB線維に分別し,筋線維タイプ別の横断面積を測定した.また,体重に対する心重量比率を算出し,心肥大の指標とした.測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い,有意水準は5 %未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は,所属機関における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得たうえで実施した.【結果】 モノクロタリン投与4週目にPH群とPHEx群は体重減少を認めた.体重に対する心重量比率は,PH群及びPHEx群がCon群に比べて有意に高値を示し,PHEx群はPH群に比べて高値を示した.ヒラメ筋の湿重量及び全ての筋線維タイプにおける筋線維横断面積で,PH群とPHEx群はCon群に比べて有意に低値を示したが,PH群とPHEx群の間には有意差を認めなかった.前脛骨筋の湿重量はPH群とPHEx群はCon群に比べて有意に低値を示した.さらにPHEx群における前脛骨筋の湿重量はPH群に比べて有意に低値を示した.前脛骨筋の筋線維横断面積はタイプI線維では3群間に有意差を認めなかった.一方,速筋線維であるタイプIIA及びIIB線維では,PH群とPHEx群がCon群に比べて有意に低値を示した.さらにタイプIIB線維はPHEx群ではPH群に比べて有意に低値を示した.【考察】 肺高血圧症に対する運動は,遅筋であるヒラメ筋の萎縮には影響を及ぼさなかったにもかかわらず,速筋である前脛骨筋に対しては萎縮を進行させた.先行研究では,モノクロタリン投与後4週間で右心不全が惹起され,心臓悪液質によって骨格筋の萎縮を誘発するとされている.本研究でもモノクロタリン投与4週目に体重の減少を認めたため,ヒラメ筋と前脛骨筋の萎縮は肺高血圧症モデル動物が心臓悪液質に陥った事が原因であると考えられる.また,肺高血圧症の増悪期における運動は右心室への負荷を増大することで炎症を惹起するとされ,その炎症は腫瘍壊死因子などのサイトカインを過剰発現するとされている.本研究では運動に伴う心肥大を認めたため,運動によって心臓への負荷が増大し,右心室で炎症性サイトカインが過剰発現していた可能性がある.炎症性サイトカインは心臓悪液質に関与するとされ,悪液質による骨格筋異化作用は,遅筋線維に比べて速筋線維で大きいとされる.その理由の一つとして,遅筋と比較して速筋では,悪液質による骨格筋異化作用の抑制に関わっているとされるNO産生が少ないことが報告されている.本研究では肺高血圧症の増悪期においても運動療法を実施したことで,心臓悪液質による影響が増し,速筋である前脛骨筋の萎縮を助長した可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 増悪期の肺高血圧症に対する運動は,心臓に過度な負荷を与えるだけでなく,主として速筋の萎縮を助長することが明らかになった.このことから肺高血圧症に対する理学療法は,介入時期,及び心臓への負荷を考慮し,運動療法等の介入は慎重に行うべきであると考えられる.
著者
福留 千弥 田中 雅侑 藤田 直人 藤野 英己
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1101, 2012

【はじめに、目的】 心不全患者の特徴の一つに運動耐容能の低下が挙げられる。運動耐容能が低下する原因には心機能の低下だけでなく、骨格筋における退行性変化も関与しているとされている。心不全患者における骨格筋の退行性変化の一つに、骨格筋線維周囲における毛細血管数の減少がある。心不全患者は活性酸素種(ROS)の過剰発現によって酸化ストレスが亢進しているとされており、血管内皮細胞の機能不全や毛細血管の退行性変化をきたす。多くの栄養素は酸化ストレスを除去する能力を持つが、心不全患者は食欲不振による低栄養を伴うことが報告されており、心不全患者では酸化ストレスを除去する栄養素が欠乏していると考えられる。本研究では、心不全における骨格筋と心不全を伴わない低栄養のみの骨格筋を比較することで、心不全と低栄養が骨格筋内毛細血管の退行性変化に及ぼす影響の差異を検証した。また、心不全患者では速筋よりも遅筋において筋萎縮が起きやすいという報告から筋線維タイプによる違いも存在すると考え、速筋と遅筋の比較も併せて実施した。【方法】 4週齢のWistar系雄ラットにモノクロタリン(30mg/kg)を投与することで心不全を惹起した(CHF群)。また、同一週齢のWistar系雄ラットを用い、給餌量を自由にした対照群(Con群)と、給餌量をHF群と一致させた群(PF群)を設定した。4週間の実験期間終了後、ペントバルビタール(50mg/kg, <i>i.p.</i>)による深麻酔下で心臓、肺、足底筋およびヒラメ筋を摘出し、急速凍結した。組織切片のエラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色所見を用いて、心臓の線維化と肺動脈壁の厚さを観察した。足底筋とヒラメ筋はアルカリホスファターゼ染色にて毛細血管を可視化し、筋線維あたりの毛細血管比率(C/F比)を算出した。さらに、足底筋とヒラメ筋はジヒドロエチジウム染色にてROSを可視化し、その発現量を測定した。得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】 心臓と肺のEVG染色所見では、CHF群にのみ心筋線維の肥大と膠原線維の増殖、および肺動脈における中膜の肥厚を認めた。足底筋のC/F比は、CHF群ではCon群とPF群に比べて有意に低値を示したが、PF群とCon群間には有意差を認めなかった。一方、ヒラメ筋のC/F比は、PF群ではCon群に比べて有意に低値を示したが、CHF群とPF群の間には有意差を認めなかった。足底筋とヒラメ筋のROS発現量は、PF群ではCon群に比べて有意に高値を示し、CHF群はPF群に比べて有意に高値を示した。【考察】 速筋における骨格筋内毛細血管の退行性変化は主として心不全に起因するが、遅筋における骨格筋内毛細血管の退行性変化は、心不全だけでなく低栄養の影響を受けることが明らかになった。足底筋では低栄養によるROSの過剰発現を認めたものの、低栄養による骨格筋内毛細血管の退行性変化は生じていなかった。一方、ヒラメ筋では心不全によって低栄養以上にROSが発現していたにも関わらず、骨格筋内毛細血管の退行性変化は心不全を伴わない低栄養のみの状態と変わらなかった。このことから、心不全や低栄養によるROSの過剰発現だけで骨格筋内毛細血管の退行性変化が誘導されるわけではないということが示唆された。一方、心不全では血清中にTNF-αが過剰発現するとされている。TNF-αは血管内皮細胞の機能不全を誘発し、血管内腔の狭小化を引き起こすことで骨格筋への血液供給を減少させる。このことから、CHF群の速筋と遅筋における骨格筋内毛細血管の退行性変化にはTNF-αが関与していたのではないかと考えられる。また、PF群の遅筋における骨格筋内毛細血管の退行性変化には、低栄養に由来するROS以外の経路が関与していたと考える。しかし、足底筋とヒラメ筋における低栄養由来のROSの過剰発現に対する両筋の反応はそれぞれ異なっていた。この点については不明であるため、低栄養に由来するROSの発現に対する筋線維タイプによる反応については今後検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 心不全患者における骨格筋内毛細血管の退行性変化には、心不全による因子だけではなく、栄養状態も関係していることが明らかになった。本結果より心不全患者における骨格筋の退行性変化を予防するには栄養状態のコントロールも重要であると考える。
著者
富島 奈々子 田中 雅侑 金指 美帆 前沢 寿亨 藤野 英己
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】肥満は生活習慣病の重要な要因であり,社会問題になっている。肥満には低強度走行運動等の有酸素運動が代謝や体重軽減に有効で推奨されている。代謝向上にはミトコンドリア数増加やコハク酸脱水素酵素(SDH)活性の上昇,毛細血管新生等の適応があり,有酸素運動は代謝向上に好影響がある。近年,無酸素性エネルギー代謝が起こる高強度インターバルトレーニング(HIIT)でもミトコンドリア数の増加が報告されている(Hoshino,2013)。一方,継続的な運動後の血中乳酸値濃度が乳酸性作業閾値(LT)以下の低強度運動とLT以上の高強度運動が代謝に与える影響を比較した研究は皆無である。HIITは有酸素運動よりも代謝が向上するという先行研究(Laursen,2002)から,ミトコンドリア機能亢進には有酸素運動よりもLT以上の高強度運動の方が好影響ではないかと仮説を立て,低強度及び高強度走行運動がラットヒラメ筋の代謝及びミトコンドリア数に与える影響の検証した。【方法】5週齢のWistar系雄性ラットを対照群(CON群,n=8),低強度運動群(LI群,n=7),高強度運動群(HI群,n=7)の3群に分けた。運動介入としてトレッドミルを用いた走行運動を1日1回,週に5回の頻度で実施し,LI群では速度15m/分,継続時間60分間,傾斜0°,HI群では速度20m/分,継続時間30分間,昇り傾斜20°の運動を負荷した。運動後の血中乳酸値濃度は運動前に比べて,HI群でのみ有意な上昇を認めた。3週間の実験期間終了後,サンプルとして精巣上体周囲脂肪及びヒラメ筋を摘出し,湿重量を測定した。ヒラメ筋は急速凍結し,-80℃で凍結保存した。ミトコンドリア数の指標としてTaqmanプローブによるリアルタイムPCR法を用いてヒラメ筋のmtDNAコピー数を相対的に測定した。また,薄切したヒラメ筋横断切片を用いてSDH染色によりヒラメ筋のSDH活性を測定した。ATPase染色(PH4.3)で筋線維をType IとType IIAに分け,筋線維タイプ比とタイプ別筋線維横断面積(CSA)を測定した。アルカリフォスファターゼ(AP)染色により筋線維数に対する毛細血管数(C/F比)を測定した。全ての測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を行い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を得た上で実施した。【結果】体重はLI群及びHI群共にCON群に対し有意に低値を示したが,脂肪量/体重比はHI群がCON群及びLI群に対し有意に低値を示した。ヒラメ筋/体重比はLI群及びHI群と共にCON群に対し有意に高値を示した。筋線維タイプ比とCSAはLI群及びHI群共にCON群との有意な差を認めなかった。また,mtDNAはLI群がCON群に対し,HI群がCON群及びLI群に対し有意に高値を示した。C/F比も同様にLI群がCON群に対し,HI群がCON群及びLI群に対し有意に高値を示した。また,SDH活性は,Type IではLI群がCON群に対し,HI群がCON群及びLI群に対し有意に高値を示し,Type IIAではHI群がCON群及びLI群に対し有意に高値を示した。【考察】HI群ではmtDNA増加とSDH活性上昇,C/F比増加がLI群より有意であった。運動によるミトコンドリア数増加やSDH活性上昇が知られており,異なる強度の走行運動では強度が高いほどミトコンドリア新生及び酵素活性の上昇が示された。運動強度が高いほど酸素需要が増大するという先行研究(Sasaki,1965)から,酸素需要増大に適応するためミトコンドリア機能向上が促されたと考えられる。また,運動によるミトコンドリア新生や酸化的リン酸化酵素活性上昇に伴う酸素需要増大が毛細血管新生を促すことが報告(Suzuki,2001)されている。C/F比もLI群よりHI群で有意に高値を示したため,毛細血管新生に与える影響の違いは,HI群がミトコンドリア新生や酵素活性に与える影響の大きさが反映していると考えられる。また,CSAとタイプ比に有意な差が見られないことやHI群のみ脂肪が減少したことから,HI群では筋力増強効果はないがミトコンドリア内での脂肪酸分解が活性化され,LI群より脂質代謝が活性化したと考えられる。これらの結果から本研究ではLI群よりHI群でミトコンドリア機能が向上し,代謝亢進に効果的であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】骨格筋の代謝活性の増加には低強度,高強度走行運動ともに有力な手段となるが,LT以上がより効果的であり,肥満の改善や予防に有効な手段となり得ることを示した点で意義があると考える。
著者
近藤 浩代 藤野 英己 石原 昭彦
出版者
名古屋女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

糖尿病合併症は微小血管障害に起因する臓器の機能不全による. また, 微小血管において慢性炎症を引き起こし,毛細血管を退行させる. 一方, 運動による血流増加は毛細血管の退行を抑制させることができる. また, 経皮的な二酸化炭素の吸収はボーア効果による血流促進効果をもつことが報告されている. そこで本研究では二酸化炭素経皮吸収による筋毛細血管退行の予防効果を検証した.さらに超音波照射による炎症抑制や代謝促進効果についても検証する計画である.平成29年度は二酸化炭素経皮吸収による糖尿病性毛細血管退行の予防効果について検証した.慢性的な高血糖曝露は骨格筋のクエン酸シンターゼ(CS)活性の低下や毛細血管の退行を引き起こした.一方,経皮的二酸化炭素吸収は高血糖曝露によるCS活性低下や毛細血管退行を抑制し,血糖の上昇を抑制した.さらに骨格筋の代謝や血管新生に関するeNOS, PGC-1α, COX Ⅳ, VEGFタンパク質発現量を増加させ,血管新生抑制因子(TSP-1)の低下が認められた.これらの結果から経皮的二酸化炭素吸収は骨格筋の代謝や血管新生に関わる因子を増加させ,血管新生抑制因子を低下させることで高血糖曝露による骨格筋の酸化的リン酸化機能低下や毛細血管退行を抑制することが明らかとなった.また,超音波照射による効果を検証するためにC2C12筋芽細胞を使用して予備検討を実施した.C2C12筋芽細胞の超音波照射ではインテグリン/focal adhesion kinase (FAK)のリン酸化の増加が観察され,P38MAPKリン酸化が減少させ, 炎症モデルにおいてTNFaの発現を超音波照射で軽減させる効果を観察した.
著者
藤野 英己 祢屋 俊昭 武田 功
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.218-224, 1997
参考文献数
10
被引用文献数
3

嚥下第2相では,呼吸運動と特に密接な関係が必要であると考えられている。そこでフォーストランスジューサおよび呼吸ピックアップセンサーを用いて,喉頭運動曲線,呼吸曲線を記録し,嚥下と呼吸の相互連関について検討した。嚥下時には安静呼吸に比較して,小さな呼吸が喉頭挙上に同期して生じた。この呼吸と喉頭運動の時間的相互連関を明らかにすることによって,正常嚥下の生理学的反応を推定した。その結果,喉頭挙上の開始直後に嚥下呼吸が発生し,喉頭が降下開始後に嚥下呼吸は呼息相に移行した。これは喉頭が挙上した後に嚥下呼吸の吸息が生じることによって気道内圧が下降し,気道閉鎖を完全な状態とすることを意味すると推測された。また,"むせ"の状態では嚥下呼吸が喉頭挙上に先行した。さらに,姿勢による影響について背臥位(頸中間位,頸前屈位,頸後屈位)で測定し,比較検討した。一方,この測定方法が嚥下の定量的評価として有用かについても考察を加えた。
著者
田中 孝平 田中 稔 竹垣 淳也 藤野 英己
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0361, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】心不全,慢性閉塞性肺疾患,腎臓病等の慢性疾患では,呼吸循環器系の機能低下に伴い身体活動量が減少し,骨格筋の代謝機能の低下が生じる。さらに,疾患の重症化により炎症性サイトカインの血中濃度が上昇し,代謝異常症候群である悪液質を呈する。悪液質では,身体活動量の低下だけでなく炎症性サイトカインの増加が骨格筋の代謝機能を低下させる主要な原因となる。炎症性サイトカインはミトコンドリア新生やTCA回路における酵素活性を抑制し,骨格筋の有酸素性代謝能力を低下させることが知られている。一方,治療的電気刺激(TES)は積極的な運動療法が困難な場合に筋活動を代償するための代替手段として注目されており,骨格筋の代謝機能を改善する効果が多く報告されている。骨格筋の有酸素性代謝能力の維持は,効率的なATP産生により運動耐容能を維持する効果が期待できるが,これまで悪液質状態の骨格筋に対するTESの効果は検討されていない。そこで,本研究では悪液質モデルマウスを用いて,炎症性サイトカインによるミトコンドリア機能障害に対するTESの効果を検討することを目的とした。【方法】5週齢の雄性ICRマウス(n=15)を使用し,対照群(Cont群),リポポリサッカリド(LPS)投与により悪液質を惹起した群(LPS群),LPS投与期間中にTESを行った群(LPS+TES群)の3群を設けた。LSPは1日あたり10μg/gを腹腔内に投与した。TESは前脛骨筋に対して超最大収縮の刺激強度にて実施した。刺激波形には2500Hzの中周波を100Hzに変調した変調波を使用し,1秒間の刺激を2秒毎に20回行い,5分間の休憩を設けて6セット行うセッションを1日2セッション行った(Kim, 2007)。介入期間は4日間とし,介入期間終了後に前脛骨筋を摘出し,体重,筋湿重量を計測した。悪液質の指標として血液サンプルを採取し,血清中の腫瘍壊死因子(TNF-α)産生量をELISA法にて測定した。また,ミトコンドリア機能の指標としてコハク酸脱水素酵素(SDH)活性をSDH染色より計測し,クエン酸合成酵素(CS)活性をSrere法にて測定した。ミトコンドリア新生因子であるPGC-1α発現量,炎症性サイトカインからのシグナルを受けるp38のリン酸化蛋白及び総蛋白発現量をWestern blot法にて測定した。得られた結果の統計処理には一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を使用し,有意水準は5%とした。【結果】LPS群及びLPS+TES群の体重はCont群と比較して低値を示した。また,LPS群及びLPS+TES群の筋湿重量はCont群と比較して低値を示したが,LPS+TES群はLPS群と比較して高値を示した。TNF-αはCont群では検出されなかったが,LPS群及びLPS+TES群では発現が認められ,2群間で発現量に有意差は認められなかった。また,LPS群のSDH及びCS活性はCont群と比較して低値を示したが,LPS+TES群はLPS群と比較して高値を示した。さらに,LPS群及びLPS+TES群のPGC-1α発現量はCont群と比較して低値を示したが,LPS+TES群はLPS群と比較して高値を示した。また,LPS群のp38のリン酸化割合(リン酸化p38/総p38)はCont群と比較して高値を示したが,LPS+TES群はLPS群と比較して低値を示した。【考察】LPS投与による悪液質では,TCA回路の律速酵素であるSDH活性やCS活性の低下が認められた。SDH活性やCS活性等のミトコンドリア酵素活性はミトコンドリア数と密接に関係すると報告されており,本研究ではLPS投与によりミトコンドリア新生に重要な蛋白であるPGC-1α発現量の減少が認められた。また,LPS投与によりTNF-α発現量やp38リン酸化割合が増加した。悪液質において産生が亢進するTNF-α等の炎症性サイトカインは,p38のリン酸化を促進し,PGC-1αの発現を抑制すると報告されている。本研究では,TNF-αによってリン酸化したp38がPGC-1αの発現を抑制し,ミトコンドリア新生が抑制され,ミトコンドリア数が減少し,TCA回路の機能低下が惹起されたと考えられる。一方,TESによる介入はp38のリン酸化を抑制すると報告されている。本研究では,TESによって炎症性サイトカインによるp38のリン酸化を介したPGC-1α発現量の減少を抑制した。PGC-1α発現量の維持によりミトコンドリア新生が促進され,一定のミトコンドリア数が保たれた為,ミトコンドリア酵素活性が維持されたと考えられる。本研究の結果より,TESは悪液質におけるTCA回路の機能低下を予防する介入方法として有効であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】活動量の低下をもたらす背景となる慢性疾患特有の病態である悪液質に対する治療的電気刺激の有効性を示した点で理学療法研究として意義を持つと考える。
著者
奥村 裕 金指 美帆 金澤 佑治 藤田 直人 近藤 浩代 藤野 英己
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2069, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】廃用性筋萎縮が起こると筋線維毎の毛細血管数や毛細血管径が減少する。このような毛細血管の退行には活性酸素種が関与していると考えられている。活性酸素により毛細血管の退行が生じれば、骨格筋細胞の代謝活性に影響を与える。一方、筋萎縮に伴う骨格筋毛細血管の退行に対する酸化ストレスを軽減させる方法や毛細血管退行と骨格筋細胞の代謝活性を考慮した研究はみられない。そこで、本研究では骨格筋線維と毛細血管のクロストークに焦点をあて、抗酸化力の高い抗酸化物質摂取による毛細血管への影響と骨格筋細胞の代謝という観点から、廃用性筋萎縮筋の筋線維タイプ別の毛細血管及び酸化的リン酸化系の代謝変化について検討した。【方法】12週齢のWistar系雄ラットを対照群(Cont群)、栄養サポートのみを行った群(CA群)、一週間の後肢懸垂を行った群(HU群)、及び後肢懸垂期間中に栄養サポートを行った群(HA群)の4群に区分した。栄養サポートにはアスタキサンチン(富士化学工業株式会社より提供)を毎日50mg/kgを1日2回経口摂取させた。実験期間終了後、足底筋を摘出し、急速凍結して保存した。摘出した筋試料は10μm厚に薄切し、ミオシンATPase染色(pH4.3)、アルカリフォスファターゼ(AP)染色、コハク酸脱水素酵素(SDH)染色後に光学顕微鏡で観察を行った。ATPase染色像を用いて足底筋を遅筋線維の多い深層部と速筋線維の多い浅層部に分別し、筋線維毎の毛細血管数の割合、単一筋線維の周囲の毛細血管数、筋線維のSDH活性を計測した。統計処理は一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を行い、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】一週間の後肢懸垂によりラット足底筋の筋湿重量は12%減少した。また、後肢懸垂期間中にアスタキサンチンを摂取したHA群においても同様に減少した。一方、深層部における筋線維毎の毛細血管数は、HU群ではCont群に比べ有意に減少を認めた。しかし、アスタキサンチンを経口摂取したCA群及びHA群は、それぞれCont群、HU群と比較して有意な増加を認めた。また、浅層部では4群間における有意な差は認められず、後肢懸垂の影響、アスタキサンチンの摂取有無に関係はみられなかった。また、単一筋線維周囲の毛細血管数は、遅筋線維ではCont群に比べHU群では有意な減少を認めたが、アスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では、単一筋線維周囲の毛細血管数の有意な増加を認めた。一方、速筋線維は4群間における有意な差は認められなかった。SDH活性をみると深層部の遅筋線維はCont群に比べHU群では有意に減少を認め、アスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では有意に増加を認めた。これらの結果からアスタキサンチンは遅筋線維のSDH活性を増加させ、廃用に伴う遅筋周囲の毛細血管退行を減衰させるものと考えられる。【考察】一週間の後肢懸垂により足底筋の深層部では、筋線維毎の毛細血管数や遅筋線維周囲の毛細血管数の減少、SDH活性の低下を認めた。これらの結果は、後肢懸垂で筋活動が低下し、筋細胞内のミトコンドリアにおけるエネルギー代謝が低下したために生じる現象であると考えられる。廃用性筋萎縮により骨格筋内の活性酸素種産生が増加するが、アスタキサンチン摂取により活性酸素種の産生を抑制し、酸化ストレスを減少できるとの報告がみられる。(Wolf, 2010)。本研究では、足底筋の深層部でアスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では、筋線維毎の毛細血管数や単一筋線維周囲の毛細血管数の有意な増加を認めた。また、遅筋線維でSDH活性の増加を認めた。これはアスタキサンチン摂取により活性酸素種が減少し、骨格筋線維周囲の毛細血管退行を防止できたために骨格筋細胞の代謝が阻害されなかったものと考えられる。また、その裏付けとして毛細血管の退行を抑制できた遅筋線維ではSDH活性が増加した。本研究では、速筋線維周囲の毛細血管には変化がなく、遅筋線維周囲で廃用の影響や毛細血管の変化が観察された。この結果は、遅筋線維の方が酸化的リン酸化による代謝に依存して、毛細血管からの酸素の供給に影響されることに起因するものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】骨格筋における毛細血管ネットワークは骨格筋細胞への酸素供給や糖・代謝産物輸送に重要である。骨格筋細胞の環境を最適化するために毛細血管の役割は必要不可欠である。また、本研究から、抗酸化物質を用いた栄養サポートは骨格筋の毛細血管退行に予防的な効果を示した。長期臥床などに伴う筋力増強運動などを実施する際に栄養面でのサポートを組み合わせて行っていく必要性があると考える。