著者
釘貫 亨
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

形容詞は名詞修飾に主たる機能を持つ。形容詞に限らず、名詞を状態的に修飾する揚合は形容詞的用法である。動詞の形容詞的用法には「流れる水」のような現在分詞的なものと「忘れられた事実」のような過去分詞的なものとがある。このうち前者の用法は、奈良時代から自動詞を資源として発達したが、後者は日本語独自のヴォイスの仕組みと受け身文の特徴が干渉して、成立が大幅に遅れた。本研究では、「失われた時間」「破られた記録」のような、他動詞を資源とし、これに受け身助辞が接続して自動詞に転換する過去分詞的用法の歴史的成立を通史的に解明した。かかる観点での研究は従来になかったものである。「他動詞・受け身・過去(タル)・名詞」の連接は、助辞ユ・ラユが未発達だった奈良時代に存在せず、ル・ラル成立後の平安時代に成立したが、文脈から自立した「忘れられた事実」のような形容詞的用法は成立しなかった。本研究ではその成立が近世期に下ることを明らかにしたが、それでも伝統的受け身文が干渉して「離縁された嫁」のような迷惑文の枠組みの中での成立であった。迷惑と無関係な「開かれた社会」のような広い用法を確立するのが明治期の欧文翻訳における過去分詞による名詞修飾の翻訳を通じてであったことを最終的に証明した。かかる観点からの研究は、従来に存在しない。
著者
釘貫 亨
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.76-88, 2002-04-01

本居宣長と上田秋成の間で交わされた古代日本語音韻に関する『呵刈葭』論争において、上田秋成はその学問的根拠の大半を友人礪波今道に依拠したことを表明している。今道の名は宣長の裁断によって学説史から消滅したが、彼の著書『喉音用字考』(静嘉堂文庫蔵)を検討すると次の諸点において没却し得ない内容を持っている。(1)「近世仮名遣い論の要諦「喉音三行弁」を『韻鏡』開合、声母、等位を組み合わせた説明に成功した。」(2)「古代日本語に存したア行の「衣」とヤ行の「延」の区別を予見した。」(3)「上代漢字音に存した唇内撥韻尾mと舌内撥韻尾nの区別を発見、論証した。これは従来その創見を言われる東条義門『男信』に数十年先行する。」しかし、上田秋成は今道の画期的な業績を正しく理解せず、宣長が言う半濁音pをいわゆるハ行転呼音と誤解して宣長説を論い、さらに今道が上代の漢字音だけに絞ったmn韻尾の区別を当時の大和言葉に拡大解釈して主張した。宣長は秋成との論争を通じて今道説を知るに過ぎなかったので、秋成もろともに今道を葬り去る結果となった。
著者
釘貫 亨
出版者
名古屋大学
巻号頁・発行日
1997

identifier:http://hdl.handle.net/2237/16644
著者
釘貫 亨
出版者
和泉書院
巻号頁・発行日
1996-10-20

名古屋大学博士学位論文 学位の種類:博士(文学) (論文) 学位授与年月日:平成9年2月19日 釘貫亨氏の博士論文として提出された