著者
鈴木 正将
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.37-44, 1972

1971年国立科学博物館が行なった北海道幌尻岳生物調査の採集品のうち, ザイウムシ類の標本を検討し, 3亜目・4科・7属・7種を同定し得た。その種名は次のとおりである。1) ツムガタアゴザトウムシNipponopsalis yezoensis (SUZUKI) 2) マキノアゴザトウムシSabacon makinoi SUZUKI 3) トゲザトウムシOligolophus asperus (KARSCH) 4) スジザトウムシMitopus morio (FABRICIUS) 5) ユミヒゲザトウムシLeiobunum curvipalpi ROEWER 6) ナミザトウムシ Nelima genufusca (KARSCH) 7) アカマタテヅメザトウムシ Peltonychia akamai SUZUKI, n. sp. これまで北海道(クナシリ, エトロフ島を除く)からは, 2亜目・3科・8属・9種が知られているが, 今回の採集品のうち, アカマタテヅメザトウムシ以外の6種はすべて, 北海道の他産地と共通である。アカマタテヅメザトウムシは, 北海道から初の有鉤類の発見である。同種は本州の山梨・群馬両県からも発見されたが, 北海道と本州間には, 交尾器はもとより, サイズや形態的にも僅少の差しか認められない。有鉤類は熱帯に饒産するが, タテヅメザトウムシ科は例外で, ヨーロッパや日本・韓国を含む東アジアのみから知られ, かく現在の分布は旧北区に限られている。それは本来東洋区的な要素であるが, その祖先は非常に古い地質時代にヨーロッパやアジアに進出し, そこで分化したと推察される。しかし, いまでは遺跡的動物として, 両地方の洞窟や地中にわずかに残存しているにすぎない。他の6種はいずれも典型的な旧(全)北区系要素であり, しかもすべてが本州と共通である。もっともツムガタアゴザトウムシとスジザトウムシは極度の寒地性の種で, 本州ではいまのところ日本アルプスの高所(1,500m以上)のみから発見されている。アカマタテヅメザトウムシは, 西日本産のニホンタテヅメザトウムシや韓国産の Peltonychia coreana から, 第3,4趺節の爪の分枝のもよう, および交尾器の構造などで明瞭に識別することができる。