著者
長井 彩綾 根元 裕樹 松山 洋 藤塚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.256, 2023 (Released:2023-04-06)

2011年に発生した東日本大震災の,地震後の津波は甚大な被害をもたらした.高田ほか(2012)は,東日本大震災の津波による神社の被害調査によって,スサノオノミコトを祀る神社,熊野系,八幡系の神社の多くは津波被害を免れた一方,アマテラスオオミカミを祀る神社や稲荷系の神社の多くが津波被害を受けていたことを明らかにした. 長井ほか(2022)では,先行研究で挙げられた「スサノオノミコトを祀る神社は津波被害を回避できる」という点に着目し,東京都を対象にスサノオノミコトを祀る代表的な神社である氷川神社の鎮座地の地形的特徴を調査した.氷川神社は武蔵一宮であり,埼玉県にも多い神社であることから,本研究では旧武蔵国を対象範囲を広げて氷川神社鎮座地の立地特性を調べた.さらに,神社と洪水浸水想定区域との位置関係を調べることで氷川神社の被災リスクについて考察した.本研究では,埼玉県神社庁ホームページ,『東京都神社名鑑(上・下)』(東京都神社庁1986),神奈川県神社庁ホームページに記載された神社のうち,旧武蔵国に該当する埼玉県、東京都、神奈川県横浜市と川崎市の土地条件図がある範囲に鎮座する2,848社(うち氷川神社195社)を対象として分析を行った(東京都の島しょ部,他社の境内神社を除く). 対象とした神社の鎮座地住所を緯度経度へ変換した後,ArcMapにて,航空写真を用いて社殿の位置へ合わせた.傾斜地に関する分析は,基盤地図情報数値標高モデル5mメッシュを用いて,神社が傾斜地付近に鎮座するか確認した.高低差を調べるために,ArcMapのフォーカル統計機能を用いて半径10メッシュ(50m)の標高の最大値と最小値を算出し,比高を求めた.比高1m未満は平坦地とした.地形分類は,数値地図25000の土地条件図を用いて,神社鎮座地の地形分類を抽出した.神社から河川までの距離は,現在の国土数値情報河川データの他,地形分類のうち,低地の一般面,凹地・浅い谷,頻水地形,水部を河川として神社との距離を算出した.洪水浸水想定区域との位置関係は,国土数値情報の関東地方整備局,埼玉県,東京都,神奈川県のデータを用いて,洪水浸水想定区域と重なる神社があるかを調べた.旧武蔵国の神社は比高の大きい場所に沿って鎮座していたが,氷川神社は,その他の神社と比較すると,鎮座する場所の比高は特別大きいものではなかった.地形分類の分析で,旧武蔵国の神社は,台地・段丘や低地の微高地といった浸水しにくい場所に多く鎮座しており,氷川神社は特に台地・段丘に鎮座するものが多かった.河川までの距離について,旧武蔵国の神社の多くが河川まで100m未満に鎮座しており,氷川神社とその他の神社で平均値の差の検定を行ったところ有意差はなかった.神社と洪水浸水想定区域との位置関係では,荒川沿いの低地や大宮台地より東側の低地で多くの神社が浸水した.氷川神社は,荒川沿いの低地にも多く鎮座する.そこでは,浸水するおそれのある氷川神社がその他の神社よりも多く,浸水深も深い場所にあることが明らかになった.なお,荒川の支流沿いの氷川神社は浸水しにくいことがわかった.