著者
長坂 政信
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.50-68, 1991-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

本論は日本におけるブロイラー産業の産地形成過程を考察し,産地形成の地域的条件を明らかにすると共に,それに基づいてブロイラー産業の産地形成の一般的条件を明らかにすることを研究課題とする。 本研究の事例調査地域として,先進的産地である大都市圏周辺地域からは,西日本でブロイラー産業が最初に成立し,現在も大都市圏周辺地域の中で最大の産地である兵庫県但馬地方と,東日本の大都市圏周辺地域で最大の産地である静岡県富士地方とを取り上げた。遠隔地域からは,日本のブロイラー産業の主産地を形成している宮崎県児湯地方と岩手県北地方を選定した。 その結果,ブロイラー産業の産地形成において,次の一般的条件が明らかになった。第1に,総合商社などの農外資本と系統農協がブロイラー産業に参入し,複数の処理場の立地によって契約飼育農家の獲得競争を行った。この結果,飼育農家が空間的拡大を遂げつつ,次第に主業化・専業化するたあの規模拡大が図られてきたこと。第2に,インテグレーターがブロイラー産業に進出した地域は,土地条件の悪い山間地や丘陵地で, 1 ha未満の零細農家が多く存在していた。このたあ,これらの農家では地味に左右されず,高収益と経営の安定が期待できる農業として,施設型畜産を取り入れようとしたこと。第3に,素人でも経営し易く,設備投資額が相対的に少なくて済むプロイラー経営が最も高所得が得られたことから,これを取り入れる農家が増大したこと。
著者
長坂 政信
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.239-257, 1988-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

岩手県におけるブロイラー産業は1960年代前半に大船渡市で開始され,その後半には県南地域に波及した.その担い手は飼料資本の地元飼料特約店であり,処理加工場を設立しつつ,地元の生産者を確保するために主に委託契約方式を採用してブロイラー飼養を行なわせた. 1960年代後半から70年代前半にかけ,次第に県北地域へとブロイラー産業は地域的に拡大した.その担い手は地元飼料商のほか,総合商社・飼料資本の子会社,単位農協地元農民など多様であった. 1970年代後半には大手のローカル・インテグレーターを中心に,種鶏・ふ卵場の設置,直営農場によるブロイラー飼養,荷受・卸売部門への進出を通して,生産から販売に至る一貫した自己完結型のインテグレーションを形成し,また飼養農家の強い生産意欲にも支えられて市場競争力を強め,南九州産地と並ぶ日本のブロイラー産業の生産地を確立した. 岩手県のブロイラー産業の主産地を形成している南東部地域と北部地域では,零細農家が収益の相対的優位性を最大の要因としてブロイラー飼養を選択し,また,複数のインテグレーターが地域の農業経営や農家経済の状況に対応して,ブロイラー産業への地域的条件整備の役割を果たしてきたという共通の存立基盤のあることが判明した.