著者
長尾 文子 岩田 知那 伊藤 晃 下 和弘 城 由起子 松原 貴子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0326, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】国民生活基礎調査において肩こり有訴者率は男女ともに非常に高い。肩こりには身体・心理・社会的要因が関与するといわれており,身体的要因としては肥満度が高いこと,運動量が少ないこと,社会的要因としては睡眠の質が悪いことなどが報告されている(大谷2008,岸田2001)。一方,心理的要因については,ストレスとの関係性が指摘されており(沓脱2010),肩こり有訴者はストレス下に曝露されていることが示唆される。ストレスと健康を調整する機能をストレスコーピングといい,適切なストレスコーピングがなされない場合,痛みや不安・抑うつといったさまざまなストレス応答が表出され(嶋田2007,牧野2010),心身の健康に影響を及ぼすことが予測される。そこで今回,身体的・社会的要因に加え,心理的要因としてはストレスコーピングに着目し,若年者を対象に肩こりの身体・心理・社会的特性について検討した。【方法】対象は大学生470名(19.9±1.4歳)で,頚肩部痛に対して受診歴がある者,肩こりの他に慢性痛を有する者,発症後3か月未満の肩こりを有する者は除外し,肩こりのある者(肩こり群)とない者(非肩こり群)に分類した。評価項目は肩こりの程度(VAS),初発年齢,初発原因,誘発要因,罹患期間,機能障害(NDI),心理的因子の疼痛自己効力感(PSEQ),破局的思考(PCS)を肩こり群のみで,健康関連QOL(EQ-5D),身体的因子の身体活動量(IPAQ),心理的因子のストレスコーピング(TAC-24),ストレス応答(PHRF-SCL),社会的因子の睡眠状態(睡眠時間,睡眠時間の満足度,睡眠の質),家庭環境(世帯構造,家庭生活の満足度)を両群で調査した。統計学的解析には,群間比較にMann-WhitneyのU検定,またはΧ2検定,相関にSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%とした。【結果】肩こり有訴者率は28.7%(肩こり群82名,非肩こり群204名)であった。肩こりの程度は42.8±21.9,初発年齢は16.1±2.5歳,罹患期間は3.0±2.1年,初発原因および誘発要因は同一姿勢が多かった。NDIは5.2±4.4点,PSEQは36.2±11.0点,PCSは「反芻」9.6±4.6点,「無力感」5.3±3.8点,「拡大視」3.6±2.8点であった。肩こり群は非肩こり群と比較して,PHRF-SCLの「疲労・身体反応」,TAC-24の「計画立案」,「責任転嫁」,「放棄・諦め」,「肯定的解釈」,家庭生活の満足度の「やや不満」が有意に高い一方,EQ-5Dの効用値,EQ VAS値,TAC-24の「カタルシス」,「気晴らし」が有意に低かった。IPAQ,睡眠時間,睡眠時間の満足度,睡眠の質,世帯構造に有意な差はなかった。肩こり群の各調査項目において中等度以上の有意な相関関係は認められなかった。【考察】今回,肩こりは中高生からの発症が多く,初発原因および誘発要因が同一姿勢であったことから,学業やVDT作業などの座位で同じ姿勢を保持する機会が増えることが肩こりの発症に関係すると考えられた。また成人(大谷2010)同様,若年者においても肩こりの存在が有訴者の健康関連QOLを低下させる可能性が考えられた。身体・心理・社会的特性を検討した結果,身体的要因は健常者と差がなかったが,心理的・社会的要因で特徴が認められた。社会的要因は,肩こり群で家庭生活に不満をもつ者が多かったことから,ストレッサーの一因となる可能性が考えられた。心理的要因のストレスコーピングでは,肩こり有訴者はストレッサーに積極的に対応しようと試みる一方,ストレッサーにより起こる情動の発散や調整ができないため,ストレッサーの解決が困難な場合はストレッサーを回避する傾向がうかがえた。回避系のストレスコーピングはストレス応答の表出を高めることが報告されており(坂田1989,尾関1991),今回の肩こり群で「疲労・身体反応」が強く表出されていたことから,肩こり有訴者はストレッサーを適切に対処できていない可能性が示唆され,また,身体面に表出されるストレス応答が肩こりを惹起,増悪させる要因となりうることが示唆された。適切なストレスコーピングにより肩こりやQOLの改善が期待されるため,若年者の肩こりマネジメントにはストレスコーピングスキルの向上を含め,心理社会的アプローチを加えることが必要と考える。【理学療法学研究としての意義】我が国で有訴者の多い肩こりに対して身体・心理・社会的側面から特性を検討した結果,肩こり有訴者は特徴的なストレスコーピングを有することがうかがえ,肩こりをマネジメントするうえで重要な所見と考える。
著者
五十嵐 友里 河田 真理 長尾 文子 安田 貴昭 堀川 直史
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.389-396, 2014-10-15 (Released:2017-11-22)
参考文献数
17

うつ病診療における精神科とプライマリケアの連携システムとして,先行研究において協同的ケアが提案されてきた。これまで,日本ではこの協同的ケアの実施報告はなかったが,今回実践したので症例を通してこの取り組みを報告する。協同的ケアでは,プライマリケア医による通常のうつ病診療に加えてケースマネージャーが患者の受療支援を行う。今回の実践では,ケースマネージャーは臨床心理士が担当して電話介入を実施し,精神科医はケースマネージャーに受療支援に関する定期的なスーパーバイズを行った。本稿では,薬剤や副作用に対する不安を訴えた2 例に対する支援を概観しながら今回の協同的ケアの実践を報告し,最後に,協同的ケアで行われた支援について考察した。