著者
寺尾 純二 長尾 昭彦
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.1075-1085,1199, 1999-10-20 (Released:2009-11-10)
参考文献数
74
被引用文献数
2 1

食事中に含まれるカロテノイドは消化管から吸収され, 体内の各組織に蓄積することが知られている。しかし, その生理機能については, プロビタミンA活性以外は明らかではない。フリーラジカル捕捉や一重項酸素消去などカロテノイドの抗酸化作用はよく研究されている。しかし, この抗酸化活性が生体内に存在する抗酸化防御系にどの程度寄与するかは明確ではない。一方, 動物実験におけるカロテノイドの抗腫瘍効果は, 細胞増殖抑制や細胞分化誘導作用で説明される。また, 細胞間ギャップ結合を強めることもその抗腫瘍効果に関与する可能性がある。食事由来のカロテノイドの生理機能を評価するためには, その吸収と代謝を理解することが重要である。ビタミンA活性発現に必要な15, 15'-ジオキシゲナーゼは生体組織に広く分布し, 消化管からのカロテノイドの吸収は食事に含まれる共存物により大きく影響される。さらに, その代謝経路は, 酸化反応プロセスが示唆されているものの, まだ明らかにされていない。
著者
長尾 昭彦 JASWIR Irwandi
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

食品由来の抗酸化性物質の摂取は各種の生活習慣病のリスクを低減するものと考えられている。しかし,1990年代に発表されたβ-カロテンの介入試験での否定的な結果及びその後の多くの研究から,抗酸化性物質の過剰投与はプロオキシダント作用により生体に障害を及ぼす危険性があることを示唆している。したがって,食品由来抗酸化性物質を効率的で安全に利用するためには,特に,摂取量あるいは生体内濃度に依存した生物活性の発現を解析する必要がある。本年度は培養細胞に高濃度のカロテノイドを蓄積させるためのカロテノイド可溶化法を開発し,細胞に蓄積されたカロテノイドの抗酸化性を高濃度領域まで範囲広げて解析した。液中乾燥法によりDMEM培地(10%牛胎児血清を含む)に80μMまでの高濃度のカロテノイドを可溶化する方法を構築した。テトラヒドロフラン(THF)に溶解させたカロテノイドをDMEM培地に分散した後,減圧下で細胞毒性を示すTHFを0.001%以下までに留去した。本法により高濃度のβ-カロテン,ルテイン,α-トゴフェロールのDMEM培地への再現性の良い可溶化が可能になった。得られた高濃度カロテノイド培地をヒト肝癌由来HepG2細胞とインキュベーションすると,カロテノイドが高濃度に集積し,ヒト肝臓カロテノイド濃度の約5倍以上のレベルに達することが分かった。このようにカロテノイドを集積させた細胞をtert-ブチルヒドロペルオキシドで酸化ストレスを負荷し脂質過酸化に対するカロテノイドの抗酸化性を調べた。β-カロテンは濃度依存的に抗酸化性を示し,調べた濃度範囲及び酸化ストレス負荷条件ではプロオキシダント作用は認められなかった。しかし,高濃度のカロテノイドは細胞障害を引き起こすことを見出した。その原因及びプロオキシダント作用との関連は不明であり,今後この点をさらに解析することによって,高濃度領域での生体影響を明らかにする必要がある。