著者
田所 光男 長畑 明利 藤井 たぎる 布施 哲
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

今回の共同研究では、20世紀に飛躍的な発展を遂げたポピュラー音楽の歌詞を分析し、それが、一方で、「高級文化」に属する諸テクスト(文学、哲学、宗教、など)と相互浸透し、他方、特定の時代や集団の記憶、政治的・社会的意識(戦争、世代、マイノリティ、性、他者、差別、失業、暴力、人種、移民、植民、などの問題に関わるもの)とネットワークを築いている様を解明した。20世紀ポピュラー音楽は、国境を越えて地球的規模で受容されたが、音楽複製技術や音楽産業、マス・メディアが高度に発展した地域が、その重要な発信地となった。そこで、各研究分担者は、おもにアメリカ・イギリス・ドイツ・フランスの代表的なポピュラー歌手(ボブ・ディラン、ビートルズ、ローレン・ニュートン、エンリコ・マシアス、など)の歌を中心対象にして、ポピュラー音楽の言葉にかかるテクスト連関性を解明した。また、この解明に基づいて、歌詞の日本語への翻訳も試みた。市場に出回るいわゆる訳詞には、明らかに誤訳と呼ぶべきものが少なくなく、その原因のひとつは、上記のような二方面でのテクスト連関性を十分に理解していないところに求めらるからである。外部機関の研究者および所属大学院の博士課程の学生の協力も得て、ポルトガル語・アラビア語・中国語圏のポピュラー音楽も研究領域に加え、ジャンルとしても、20世紀先進諸国のロックンロールやフォーク・ソングばかりではなく、ほかの諸地域における特色ある音楽(アルジェリアのライ、上海の歌謡曲、など)を研究対象にした。
著者
長畑明利
出版者
名古屋大学
雑誌
言語文化論集
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, 2006-03-10
著者
長畑 明利
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、T・S・エリオットの詩と詩論を、同時代の詩人や芸術家たちが展開した「抽象」についての言説に照らし合わせて再検討し、また、彼の詩に現れる死者の声の再現の意味をその「抽象」観との関連から明らかにしようとすることであった。このため、エリオットの詩作品、評論および書簡等における「抽象」および「死」への言及を分析し、また、ニューヨーク市立図書館にて、エリオットの詩草稿に加えられたパウンド、エリオット両者の欄外書き込みを調査した。調査・分析の結果、エリオットと抽象の関係について、概略次のことが明らかになった。(1)パウンド同様、エリオットも「抽象」を批判的に見る傾向がその博士論文などに見られること。しかし、(2)エリオットの初期の詩・詩論においては、パウンドの「漢字的抽象」と通底する構成主義的な抽象観も見られること。しかし、(3)エリオットには宗教意識に根ざすと考えられる形而上世界及び死後世界への強い関心があり、これが彼の普遍主義的、もしくは有機体的・全体論的(holistic)な「統合」への関心に連結されていること。(4)その形而上世界への関心は、構成主義的抽象に対するエリオットの関心が低減した後にも維持され、彼の後期の詩と詩論の一つの核をなすこと。以上の研究結果をもとに、研究成果報告書を作成した。またエリオットとパウンドの関係について、共編著書『記憶の宿る場所--エズラ・パウンドと20世紀の詩』(思潮社)所収の論考にその一部を記述した。なお、研究成果はさらに研究論文として別途公表の予定である。今後は本研究、そして、すでに一部考察を終えているスティーヴンズ、スタイン、パウンド、クレインと抽象に関する研究に加え、他のモダニズム詩人の抽象理解についての研究にも取り組み、アメリカのモダニズム詩と抽象をテーマにした包括的研究を進展させる計画である。