著者
山口 高弘 麻生 久 渡邊 康一 長谷川 喜久
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、骨格筋形成を負に制御するミオスタチン(Myostatin:MSTN)が生まれつき欠損することにより、優れた産肉形質を有する日本短角種牛(Double muscled Cattle:DM牛)の産肉向上機構の全容を解明するために計画された。平成17-19年度の3年間の研究により、下記の結果を含む多くの新知見が得られた。1)日本短角種DM牛由来の筋細胞で、HGFとIGFIIの発現が変化し、MSTNはIGFII発現を抑制し、HGFはMSTN発現を抑制すること、DM牛ではHGFによるMSTN産生が欠如するため筋肥大が生ずることが明らとなった。2)マイクロアレイ結果、DM牛で4.5倍発現低下するMSTNシグナル伝達系に関与するTBF-β inducible early gene family(TIEG1,2)が見出され、siRNA法等でTIEG1機能を欠損させたところ、細胞増殖と筋管形成が著しく増強し、MyoD familyのMRL4と増殖因子であるIGF-II発現が増加した。このことより、TIEG1がMSTN特異的シグナル伝達因子として関与することが明らかとなった。3)DM牛から成熟型MSTN欠損のクローン化筋芽細胞(Cloned Double muscled myoblasts:DMc)を樹立した。さらに、DMcからウシ不死化筋芽細胞(DMc-t)の作成に成功した。これらの細胞は、ウシ筋細胞でのMSTN作用を初めとする筋分化機構の解明に極めて有用である。4)骨格筋の分化過程において、MSTNとIGF2は関連しながら相反して作用し、MSTNとIGF1は独立して作用することが判明した。5)ウシとブタの下垂体前葉で、MSTNがTSH細胞に、MSTNレセポターアクチビン受容体IIがACTH細胞に発現することを明らかにした。6)マウス下垂体前葉でNSTNとそのレセプターがACTH細胞に発現し、MSTNがACTH細胞でのホルモン合成を抑制することを明らかにした。