著者
西尾 麻里沙 長谷田 真帆 金森 万里子 荒川 裕貴 近藤 尚己
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.338-356, 2022-05-15 (Released:2022-05-24)
参考文献数
41

目的 健康格差の縮小が公衆衛生上の課題となっている。世界保健機関の「健康の社会的決定要因に関する委員会(CSDH)」は,1. 生活環境の改善,2. 権力・資金・資源の不公正な分配への対応と多部門連携,3. 課題の評価(健康格差のモニタリング)と活動のインパクトアセスメントの3項目の実行を推奨し,「健康の公正性サーベイランスの枠組み」の中でモニタリング項目を提案した。日本と諸外国のヘルスプロモーション施策を分析し,CSDHの提言との適合性を検討するとともに,日本のヘルスプロモーション施策に資する社会環境を整備するための提言を行うことを目的とした。方法 日本,アメリカ,イングランド,スウェーデン,タイのヘルスプロモーション施策に関する文書をレビューした。健康格差の定義とそのヘルスプロモーション施策における位置付け,評価指標を抄出し,CSDHが推奨する上記3項目と「健康の公正性サーベイランスの枠組み」に基づき各文書の内容を分類し,それぞれの内容について各国間の類似点と相違点を分析した。結果 健康格差の定義は,日本,アメリカ,イングランド,スウェーデンで概ね類似していたが,日本では健康格差対策がなぜ必要であるかといった具体的な記述が少なかった。生活環境の改善に向けたアプローチの位置づけや重視する点は各国で異なっていた。日本は社会参加の機会と社会資源へのアクセスの確保,アメリカは客観的指標による評価,イングランドは社会的に恵まれない個人や地区への重点支援,スウェーデンはライフコースにわたるユニバーサルな介入,タイは多部門連携を計画していた。すべての国が権力・資金・資源の不公正な分配への対応と多部門連携に関する活動の実施を計画していた。アメリカはレビューした国の中で最多である187項目の社会的要因をモニタリングしており,所得や障害などの健康格差に関する幅広い視点や,保健分野以外の情報を用いた評価,個人,地域,国の政策など多様なレベルの評価項目が含まれていた。結論 上記レビュー結果より,日本における健康格差縮小に向けた社会環境整備とその評価の充実に向けて次の3つを提案する。すなわち(1)健康格差をより多面的に捉え,対策の必要性を訴求し推進すること,(2)健康の決定要因の構造とその多面性を考慮して目標を設定すること,(3)保健分野以外の組織と協働した取り組みや指標の活用を行うことである。
著者
中村 有里 長谷田 真帆 西岡 大輔 雨宮 愛理 上野 恵子 近藤 尚己
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.21-118, (Released:2022-07-29)
参考文献数
40

目的 人とのつきあいのわずらわしさなど対人関係上のストレスから対人関係や社会的場面を避け,たとえ危機に陥っても他者に援助を求めない傾向が若者を中心に見られている。他者に援助を求める行動には,子ども期に両親に援助を求めた経験が関係することが報告されている。しかし,家族への援助の要請が難しい場合でも,近隣住民との関係の中で,他者に援助を要請するようになることも考えられる。そこで本研究では,子ども期の両親への援助要請の経験と成人期の対人関係の忌避傾向の関連における地域交流の経験による効果の修飾の有無を検討した。方法 名古屋市の18~39歳を対象にした調査より,1,274人のデータを分析した。修正ポアソン回帰分析を用いて,子どもの時に父親・母親に対して援助を要請した経験,小・中学校の時の地域行事に参加した経験,およびこれらの交互作用項による対人関係の忌避の割合の比を男女別に算出した。年齢・両親の最終学歴・子どもの時の母親の就労状況および主観的経済状況,もう片方の親への援助要請経験を調整した。また,援助を要請した経験,地域行事に参加した経験それぞれの有無別に対人関係の忌避の状態にある者の割合の予測値を算出し,効果の修飾の有無を評価した。結果 父親への援助要請経験と地域行事への参加経験の交互作用項を入れた多変量解析および算出された予測値からは,地域行事への参加経験による効果の修飾は男女とも観察されなかった。母親への援助要請経験に関しては,男性で,地域行事への参加経験による効果の修飾が観察され,母親への援助要請経験があり,かつ地域行事への参加経験があった場合は,なかった場合の予測値よりも低い傾向があった。女性では,地域行事への参加経験による効果の修飾は観察されなかった。結論 対人関係の忌避を抑制する上で,とくに男性では,子ども期の母親への援助要請経験があった場合に,地域行事への参加経験があることの重要性が示唆された。親からの適切な援助を得ることに加えて子どもの地域交流を促すことで,将来の社会生活で困難に陥るリスクを緩和できる可能性がある。
著者
水本 潤希 小松 真成 長嶺 由衣子 長谷田 真帆 藤原 和成
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.36-39, 2022-03-20 (Released:2022-03-23)
参考文献数
9
被引用文献数
1

新・家庭医療専攻医制度では,新たなポートフォリオ領域として「健康の社会的決定要因(SDH)とアドボカシーおよびアクセス」が追加された.様々なSDH上の臨床課題とその対応についてセッティングごとに具体例を示すことで,SDHポートフォリオ執筆のコツを伝えることが本稿の目的である.日本のプライマリケアが健康格差に対してその社会的責務を果たすために,SDHに関する学習の機会と質を担保することが重要である.