著者
近藤 尚己 石川 善樹 長友 亘 齋藤 順子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

疾病予防行動の社会経済格差是正に向け、人の持つ認知バイアス効果を応用した行動科学アプローチの枠組みを整理したのち、実証研究を行った。健康チェックサービス事業者のデータを用いて、サービス利用の勧誘の際、従来の健康リスクの理解を促す方法と、サービスへの興味関心を引きやすい感性に訴える方法を用いた場合の利用者の属性を比較したところ、後者の方が社会的に不利な状況(無職者など)の割合が高かった。足立区と区内26のレストランと合同で行った、野菜増量メニュー注文者に対する50円割引キャンペーンの効果検証の結果、普段昼食に支払う価格が最も少ない人々でキャンペーンの効果が最も高まり、店舗の売り上げも増加した。
著者
近藤 尚己 近藤 克則 横道 洋司 山縣 然太朗
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.91-101, 2012 (Released:2012-04-28)
参考文献数
24

物質的に困窮していなくとも,他者と比較して自身の所得や生活の水準が相対的に低いことが心理社会的なストレスとなり健康を蝕む可能性があり,これは相対的剥奪仮説とよばれる。日本人高齢者において相対的剥奪が死亡リスクを上昇させるかを検証した。愛知老年学的評価研究(AGES)2003年ベースラインデータに介護保険給付データに基づく2007年までの死亡に関する情報を個人単位で結合した。調査参加者は愛知県および高知県内の8市町村に住み,要介護認定を受けておらず,基本的なADLが自立している高齢者とした。21,047名のうち主要変数に欠損のなかった16,023名を解析対象とした。同性・同一の年齢階級・同一市町村内在住の3項目の組み合わせで定義した集団内における所得の相対的剥奪をYitzhaki係数の変法で評価してCox比例ハザード分析を行った。平均1,358日間の追跡期間中1,236名の死亡を認めた。性・年齢階級・居住市町村を同じくする集団内における相対的剥奪1標準偏差増加ごとのハザード比(95%信頼区間)は,男性で1.20(1.06-1.36),女性で1.17(0.97-1.41)であった(絶対所得・年齢・婚姻状況・学歴・疾病治療有無で調整)。生活習慣(喫煙・飲酒・健診受診)でさらに調整したところ,ハザード比はわずかに減少した。所得水準にかかわらず,他者に比べて相対的に貧しいことが死亡リスクを高め,特に男性で強い関連がある可能性が考えられた。
著者
近藤 尚己 山縣 然太朗 大西 康雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

地域のソーシャル・キャピタル、即ち人々の結束や信頼を高めるような社会的ネットワーク資源の醸成が、高齢者の健康維持に貢献することが期待されている。しかし、健康資源が人的ネットワークを介してどのように伝達し、個人の健康へと影響していくかについては明らかになっていない。本研究では、数理社会学の「ネットワーク分析」手法を用いて、高齢者のネットワークのダイナミズムと健康との関連を理解することを目的として、ネットワーク分析手法の公衆衛生領域への応用を試み、また、そのための課題整理を行った。初年度に山梨県A町の全高齢者を対象に健康状態、社会経済状況、心理社会状況、生活習慣、および社会的ネットワーク等に関する郵送質問紙調査を行った。2年目以降は、山梨県内で歴史的に継続実施されてきている無尽講(回転型貯蓄金融講)やその他の地域活動へ参加している人を対象に訪問調査を実施し、各無尽講のグループ内、およびグループ間の関係性に関する量的・質的データを構築した。このデータを日本老年学的評価研究データと個人リンケージして分析した結果、ソーシャル・キャピタルが、個人のメンタルヘルス(抑うつ傾向)に対して抑制的に関与し、ネットワーク内における情緒サポートの授受の関与が示唆された。また、無尽講への参加には二面性があり、楽しみながら高強度に参加している場合死亡リスクを下げるが、掛け金が高すぎるストレスフルなグループへの参加は逆効果となることが明らかになった。本研究により、地域組織を媒体としたネットワークデータが公衆衛生研究へと応用可能であることがわかった。また、大規模調査においてネットワークデータを取得する際の課題が整理できた。本研究は基盤研究A「高齢者における健康の社会的決定要因に関する大規模パネル調査(代表:近藤尚己)」へと引き継がれ、今後長期の縦断的な分析を進めていく。
著者
大曽 基宣 津下 一代 近藤 尚己 田淵 貴大 相田 潤 横山 徹爾 遠又 靖丈 辻 一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.15-25, 2020-01-15 (Released:2020-02-04)
参考文献数
33

目的 健康日本21(第二次)の目標を達成するため,各自治体は健康課題を適切に評価し,保健事業の改善につなげることを求められている。本研究は,健康日本21(第二次)で重視されるポピュレーションアプローチに着目して,市町村における健康増進事業の取組状況,保健事業の企画立案・実施・評価の現状および課題について明らかにし,さらなる推進に向けたあり方を検討することを目的とした。方法 市町村の健康増進担当課(衛生部門)が担当する健康増進・保健事業について書面調査を実施した。健康増進事業について類型別,分野別に実施の有無を尋ねた.重点的に取り組んでいる保健事業における企画立案・実施・評価のプロセスについて自記式調査票に回答してもらい,さらに参考資料やホームページの閲覧などにより情報を収集した。6府県(宮城県,埼玉県,静岡県,愛知県,大阪府,和歌山県)の全260市町村に調査票を配布,238市町村(回収率91.5%)から回答を得た。結果 市町村の健康増進事業は,栄養・食生活,身体活動,歯・口腔,生活習慣病予防,健診受診率向上などの事業に取り組む市町村の割合が高かった。その中で重点的に取り組んでいる保健事業として一般住民を対象とした啓発型事業を挙げた市町村は85.2%,うちインセンティブを考慮した事業は27.4%,保健指導・教室型事業は14.8%であった。全体では,事業計画時に活用した資料として「すでに実施している他市町村の資料」をあげる市町村の割合が52.1%と半数を占め,インセンティブを考慮した事業においては,89.1%であった。事業計画時に健康格差を意識したと回答した市町村の割合は約7割であったが,経済状況,生活環境,職業の種別における格差については約9割の市町村が考慮していないと回答した。事業評価として参加者数を評価指標にあげた市町村は87.3%であったのに対し,カバー率,健康状態の前後評価は約3割にとどまった。結論 市町村における健康増進・保健事業は,全自治体において活発に取り組まれているものの,PDCAサイクルの観点からは改善の余地があると考えられた。国・都道府県は,先進事例の紹介,事業の根拠や実行可能な運営プロセス,評価指標の提示など,PDCAサイクルを実践するための支援を行うことが期待される。
著者
黒谷 佳代 新杉 知沙 千葉 剛 山口 麻衣 可知 悠子 瀧本 秀美 近藤 尚己
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.593-602, 2019-09-15 (Released:2019-10-04)
参考文献数
24

目的 子ども食堂はボランティア等に運営され,子どもの社会的包摂に向けた共助のしくみとして注目されている。主なターゲット層である小・中学生の保護者を対象とした子ども食堂の認知に関する調査により,子ども食堂の地域における活用に関連する要因を明らかにすることを目的とした。方法 小学校1年生から中学校3年生の保護者3,420人(平均年齢42.6歳)を対象に,2018年10月にインターネット調査を実施した。属性,子ども食堂の認知と認識,利用経験,今後の利用希望とその理由を質問項目とした。対象者を二人親低所得(世帯年収400万円未満)世帯父親,二人親中高所得(400万円以上)世帯父親,二人親低所得世帯母親,二人親中高所得世帯母親,ひとり親世帯父親,ひとり親世帯母親に分け,群間の差は χ2 検定により検定を行った。結果 子ども食堂の認知割合は全体の69.0%で,男性に比べ女性で高く,とりわけ二人親中高所得世帯母親で79.7%と高かった(P<0.001)。メディアで子ども食堂を知った者が87.5%で,子どもが一人でも行けるところ・無料または数百円で食事を提供するところ・地域の人が関わって食事を提供するところという認識や,安い・賑やか・明るいなどポジティブなイメージを持つ者が多かった。しかし,子ども食堂を知っている者のうち,子ども食堂に本人もしくはその子どもが行ったことのある者はそれぞれ4.5%,6.3%であった。今後,子ども食堂に子どもを行かせてみたいと思うと回答した者は全体の52.9%で,世帯構成による利用希望に違いがみられ,低所得世帯とひとり親世帯母親では利用希望者が過半数である一方,中高所得世帯とひとり親世帯父親では過半数が利用希望しなかった(P<0.001)。その主な理由として,必要がない・家の近くに子ども食堂がない・家で食事をしたいなどがあったが,少数意見として生活に困っていると思われたくない・家庭事情を詮索されそう・恥ずかしいという理由があった。また,中高所得世帯では子ども食堂にかわいそうというイメージを持つ者が多かった。結論 本研究の小・中学生の保護者は子ども食堂に対してポジティブ・ネガティブの両方の認識をしており,その内容は世帯状況により異なっていた。理解の定着と普及のためには子ども食堂への負のイメージの払拭や子ども食堂へのアクセスの確保などの対応が必要と思われる。