著者
石田 高志 関口 剛美 川真田 樹人
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.53-62, 2018-06-25 (Released:2018-06-29)
参考文献数
57

変形性関節症をはじめとする関節炎は,移動時に痛みが増強するため移動機能障害を招き,患者のQOLを著しく低下させることが問題となっている.関節炎の痛みの薬物療法として消炎鎮痛薬が用いられるが,長期投与による腎臓や消化管への副作用から,関節炎による痛みのメカニズムに基づいた,有効かつ安全な新たな治療法の開発が求められている.関節炎では,滑膜線維芽細胞や軟骨細胞からのIL-1やTNF-αをはじめとする各種炎症性サイトカインの放出が起こり,軟骨の変性や骨増生が起こる.炎症は関節内のみにとどまらず,関節周囲組織にも広範囲に波及する.慢性的な炎症に末梢神経や中枢神経における可塑的変化が生じ神経障害性疼痛の側面も持つようになり,痛みのメカニズムは複合的となる.さらに関節炎患者では,関節内の炎症や骨破壊だけでなく,骨髄内病変の出現により痛みが増強することが知られている.したがって関節炎では,関節・骨・骨髄の病変が相互に作用し,複合的なメカニズムにより痛みが増強する.本稿ではまず関節炎に伴う複合的な痛みのメカニズムを概説する.次いで,痛みのメカニズムに基づいた新たな鎮痛薬・鎮痛法について解説する.
著者
平田 史哉 稲垣 郁哉 小関 博久 財前 知典 関口 剛 大屋 隆章 多米 一矢 松田 俊彦 平山 哲郎 川崎 智子
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.31, 2012

【目的】<BR>臨床において明らかな外傷がないにも関わらず手関節痛をきたし,日常生活を大きく制限されている症例を多く見受ける.これらの症例の特徴として安静時に尺屈位を呈していることが多い.尺屈の主動作筋である尺側手根屈筋は豆状骨を介し小指外転筋との連結が確認でき,双方の筋が機能的に協調することは既知である.小指外転筋は小指外転運動や対立機能,手指巧緻動作に関与し,筋出力低下に伴い手関節周囲筋群の筋バランスの破綻に繋がると考える.そこで尺側手根屈筋との連結がみられる小指外転筋の筋出力低下を,尺屈位で補償し小指外転筋機能を代償しているのではないかと仮説を立てた.そこで本研究では手関節を中間位,尺屈位の二条件にて,各肢位の小指外転運動(以下AD)時における小指外転筋及び手関節尺側筋活動の違いについて表面筋電図を用いて比較検討した.<BR>【方法】<BR>対象はヘルシンキ宣言に沿った説明と同意を得た健常成人6名12手であった(男性5名,女性1名:平均年齢28.6&plusmn;3.77歳).測定肢位は端座位とし,上肢下垂,肘関節90度屈曲,前腕回外位にて計測した.前腕を台に置き,他動的に中間位,尺屈位を設定し各肢位でADを行った.尺屈位は手関節掌背屈が出現しない最大尺屈位と規定した.被検筋は小指外転筋(以下ADM),尺側手根伸筋(以下ECU),尺側手根屈筋(以下FCU)とした.各被検筋に対して5秒間の最大等尺性随意収縮を行い,安定した2秒間の筋電積分値(以下IEMG)を基準として各筋におけるAD時の%IEMGを算出した. 統計処理には,対応のあるt検定を用い,中間位,尺屈位における各筋のAD時の%IEMGに対して比較検討を行った. なお有意確率は5%とした.<BR>【結果】<BR>尺屈位においてADM,ECUの活動に有意な増加を認めた(ADM:p<0.01 ECU :p<0.01).しかし,同肢位ではFCUの活動に有意な増加は認められなかった.<BR>【考察】<BR>本研究によりFCUの活動増加を伴わない手関節尺屈位においてADMの活動が有意に増加することが示唆された.ADMは豆状骨から起始し,近位手根骨列と機能的に協調する.手関節尺屈位において,豆状骨は三角骨と共に橈側へ滑り,かつ尺側近位へひかれる.これにより豆状骨の腹側部に起始するADMは中枢へ牽引され筋張力により豆状骨が安定し,ADMの筋活動が向上したと考える.これらのことから日常生活を尺屈位で過ごすことでADMの筋出力を補償しうる可能性があるのではないか.<BR>【まとめ】<BR>手関節尺屈位が手関節筋群に影響を与えることが示唆された.ADM筋出力低下は,代償的な手関節尺屈位をもたらし,手関節構成体にメカニカルストレスを与える可能性が示唆された.また肘関節,肩関節への影響も考慮した追加研究を行う.