著者
大屋 隆章 財前 知典 小関 博久 田中 亮 多米 一矢 樋口 亜紀 星 唯奈 三浦 俊英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P3400, 2009

【目的】臨床場面において、肩甲骨下制位により肩関節に疼痛を訴える患者を体幹からアプローチすることで、良好な結果が得られることを多く経験する.これらの経験から、今回は腹斜筋群を促通し、肩甲骨脊椎間距離(以下、SSD)に着目し、肩甲骨の位置関係に変化がみられるか検証した.<BR><BR>【方法】対象は、本研究の趣旨を理解し同意が得られた肩関節に疾患を有さない健常男性12名とした.対象の平均年齢は23.5±2.8歳であった.測定は安静坐位での肩甲骨位置と外腹斜筋促通後の位置変化をみた.SSDは坐位にて、肩甲骨脊椎-肩甲骨上角及び下角を結ぶ線をメジャーにて測定した.腹斜筋群の促通方法は背臥位にて、臀部にred cord社製エアスタビライザーを置き、下肢体幹を軽度回旋させ促通し、腹斜筋群の求心性収縮を目的とした.促通の際、上部体幹・肩甲骨の動きが出ないこと、また体幹側面の第5・6肋骨周囲で腹斜筋群の収縮を確認しながら促通を行った.<BR><BR>【結果】上角におけるSSD差は、腹斜筋群促通前と促通後において12名中7名が内方へ位置移動がみられたが0.20±0.63cm、2群間での有意差は認められなかった(p>0.05).下角におけるSSD差は、促通前に比べ促通後では12名中全被検者において内方への位置移動がみられ0.58±0.38cm、2群間に有意差が認められた(p<0.05).<BR><BR>【考察】本研究の結果から体幹筋である腹斜筋群の収縮によって、肩甲骨下角の内方移動がみられた.外腹斜筋と前鋸筋は解剖学上第5肋骨から第8肋骨までで強固に筋連結しているため、前鋸筋による肩甲骨を胸郭へ引きつけ作用が起こったと考える.しかし今回促通されたと考える第4肋骨から第9肋骨に起始する前鋸筋線維は肩甲骨下角に集中して停止しており、作用としては肩甲骨上方回旋である.肩甲骨が内転、下方回旋するには前鋸筋でも上位にある第1・2肋骨に付着する線維の作用が必要である.肩甲骨内転、下方回旋は前鋸筋作用ではなく、他の筋連結作用により起こったものと考えられ、前鋸筋は菱形筋とも筋連結しているため菱形筋作用により今回の結果である肩甲骨内転、下方回旋が起こったものと考える.体幹、肩甲骨周囲では多数の筋連結作用があり、今後は筋電図などで筋を区別し、関与する筋の検証をする必要がある.
著者
川﨑 智子 平山 哲郎 多米 一矢 西田 直弥 小関 泰一 藤原 務 稲垣 郁哉 小関 博久 石田 行知 柿崎 藤泰
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0994, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】頚椎は胸郭上に位置しており,頚椎肢位や運動は胸郭のコンディションに依存する。特に胸郭は,前額面において左側方に偏位している割合が多いとの石塚ら2011)の報告があり,その要因から考えても頚椎肢位や運動に影響を及ぼすことが十分予測される。日常の臨床のなかで,胸郭の定型的な形状の定着により,頚椎肢位や運動のバリエーションの低下を引き起こす現象も多く観察している。そこで本研究では,頚椎側屈運動における水平面上の胸郭形状変化と左右座圧分布を観察するため,3次元動作解析装置と床反力計を用いて胸郭形状と頚椎運動の左右特性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,整形外科的疾患の既往がない健常成人男性10名(平均年齢27.7±3.6歳)とした。頚椎側屈運動における上下部胸郭前後径変化を観察するため,3次元動作解析装置VICON-MX(VICON社製)を用いた。赤外線反射マーカー貼付位置は,頭部マーカーを前後左右の計4点,上下部胸郭マーカーをそれぞれ左右第3胸肋関節の中点と剣状突起(A点),A点を背面に投影した棘突起上の点(B点),A点を通る水平線上に左右等距離に位置する点(C点,各3点)の計16点とした。また,同時に座圧分布を床反力計(Zebris社製)を用いて計測した。測定肢位は上肢をscapular plane上で腋窩レベルまで挙上した安静座位とし,上肢の影響を最小限に,また肩甲帯や体幹による代償が生じないよう考慮した。測定課題は安静呼気位における頚椎最大右側屈,頚椎最大左側屈の2条件とした。メトロノームに合わせて3秒間で最終域に達するよう指示し,実施前に十分な練習を行った。得られた標点の位置データから上部胸郭前後径をB-C点間,下部胸郭前後径をA-C点間の距離としてそれぞれ算出した。また,左右座圧分布は得られた床反力データからそれぞれ相対値を算出した。統計処理は安静時における上下部胸郭前後径と座圧分布の左右比較,頚椎右側屈と左側屈時における上下部胸郭前後径と座圧分布の左右差の比較に対応のあるt検定を用いて検討した。解析には統計ソフトウェアSPSS18J(SPSS社製)を使用し,有意水準はそれぞれ5%未満とした。【結果】安静時,頚椎右側屈,左側屈において,上部胸郭前後径と座圧分布の左右における変化に一様の傾向が示された。上部胸郭前後径と座圧分布は,安静時において全例で右側と比較して左側が有意に大きかった(p<0.01,p<0.01)。また,その差は頚椎右側屈時において有意に減少し,左側屈時においては有意に増加した(p<0.01,p<0.01)。しかし,下部胸郭前後径は,安静時において全例で左側と比較して右側が有意に大きかったものの(p<0.05),頚椎側屈時においては有意差がみられなかった。なお,頚椎最大側屈角度には左右で有意な差がみられなかった。【考察】本研究の検討から,全例において胸郭は左側方偏位していることが安静時座圧分布より観察され,石塚ら2011)の報告と同様の特徴が示された。また,胸郭形状においても臨床で観察される定型的な非対称性がみられた。この特徴が定着した状態で頚椎側屈運動を行うと,頭部質量の側方移動にともない,右側屈時には上半身質量中心の正中化が生じ,左側屈時には左側方偏位の増大が生じることがわかった。また,上半身質量中心の左側方偏位は上部胸郭形状の非対称性を増加させるものと考えられる。これらのことから,上部胸郭の定型的な形状や側方偏位の定着は,頚椎肢位や運動の多様性に影響を及ぼすことが考えられる。また,その結果として生じる頚椎運動の左右特性にともない,上部胸郭形状に一様の変化をもたらすことが示唆された。上部胸郭の可動性低下や上半身重心のコントロール機能低下は,頚椎側屈運動の制限因子となることが考えられ,疼痛やメカニカルストレスの原因となることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の検討から,頚椎側屈運動における上部胸郭形状と座圧の変化には左右特性が存在することが示された。これは健常人においてもみられる特徴であり,ヒトに共通する形態や運動特性が存在することが考えられる。これらの強調や逆転は,整形外科疾患における病態や機能低下の一要因となることが考えられ,頚椎疾患をはじめとするあらゆる運動器疾患に対する理学療法に応用できるものと考えられる。
著者
多米 一矢 廣中 丈 小関 博久
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.265-268, 2021 (Released:2021-04-20)
参考文献数
12

〔目的〕安静座圧の偏りから右座圧群と左座圧群に分類し,座圧と体幹側屈動作の関係について検討した.〔対象と方法〕健常成人男性20名(各座圧群10名)とした.座圧は床反力計を用い,体幹角度をkinoveaにて計測した.上下部体幹側屈角度の比較と座圧と体幹側屈角度の関係性を検証した.〔結果〕左座圧群は,上下部左右体幹側屈角度に差を示した(p<0.05).右座圧群と下部体幹右側屈角度,上部体幹左側屈角度に有意な相関を示した(| r |=-0.7~-0.65).左座圧群は,上部体幹左右側屈角度に有意な相関を示した(| r |=-0.65~0.82).〔結語〕座圧側への体幹側屈動作では上部体幹,非座圧側への側屈動作では下部体幹が生じることが示唆された.
著者
平田 史哉 稲垣 郁哉 小関 博久 財前 知典 関口 剛 大屋 隆章 多米 一矢 松田 俊彦 平山 哲郎 川崎 智子
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.31, 2012

【目的】<BR>臨床において明らかな外傷がないにも関わらず手関節痛をきたし,日常生活を大きく制限されている症例を多く見受ける.これらの症例の特徴として安静時に尺屈位を呈していることが多い.尺屈の主動作筋である尺側手根屈筋は豆状骨を介し小指外転筋との連結が確認でき,双方の筋が機能的に協調することは既知である.小指外転筋は小指外転運動や対立機能,手指巧緻動作に関与し,筋出力低下に伴い手関節周囲筋群の筋バランスの破綻に繋がると考える.そこで尺側手根屈筋との連結がみられる小指外転筋の筋出力低下を,尺屈位で補償し小指外転筋機能を代償しているのではないかと仮説を立てた.そこで本研究では手関節を中間位,尺屈位の二条件にて,各肢位の小指外転運動(以下AD)時における小指外転筋及び手関節尺側筋活動の違いについて表面筋電図を用いて比較検討した.<BR>【方法】<BR>対象はヘルシンキ宣言に沿った説明と同意を得た健常成人6名12手であった(男性5名,女性1名:平均年齢28.6&plusmn;3.77歳).測定肢位は端座位とし,上肢下垂,肘関節90度屈曲,前腕回外位にて計測した.前腕を台に置き,他動的に中間位,尺屈位を設定し各肢位でADを行った.尺屈位は手関節掌背屈が出現しない最大尺屈位と規定した.被検筋は小指外転筋(以下ADM),尺側手根伸筋(以下ECU),尺側手根屈筋(以下FCU)とした.各被検筋に対して5秒間の最大等尺性随意収縮を行い,安定した2秒間の筋電積分値(以下IEMG)を基準として各筋におけるAD時の%IEMGを算出した. 統計処理には,対応のあるt検定を用い,中間位,尺屈位における各筋のAD時の%IEMGに対して比較検討を行った. なお有意確率は5%とした.<BR>【結果】<BR>尺屈位においてADM,ECUの活動に有意な増加を認めた(ADM:p<0.01 ECU :p<0.01).しかし,同肢位ではFCUの活動に有意な増加は認められなかった.<BR>【考察】<BR>本研究によりFCUの活動増加を伴わない手関節尺屈位においてADMの活動が有意に増加することが示唆された.ADMは豆状骨から起始し,近位手根骨列と機能的に協調する.手関節尺屈位において,豆状骨は三角骨と共に橈側へ滑り,かつ尺側近位へひかれる.これにより豆状骨の腹側部に起始するADMは中枢へ牽引され筋張力により豆状骨が安定し,ADMの筋活動が向上したと考える.これらのことから日常生活を尺屈位で過ごすことでADMの筋出力を補償しうる可能性があるのではないか.<BR>【まとめ】<BR>手関節尺屈位が手関節筋群に影響を与えることが示唆された.ADM筋出力低下は,代償的な手関節尺屈位をもたらし,手関節構成体にメカニカルストレスを与える可能性が示唆された.また肘関節,肩関節への影響も考慮した追加研究を行う.
著者
財前 知典 小関 博久 小関 泰一 小谷 貴子 田中 亮 平山 哲郎 多米 一矢 川崎 智子 清川 一樹 川間 健之介
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.615-619, 2010 (Released:2010-09-25)
参考文献数
13
被引用文献数
3 2

〔目的〕本研究は,入谷式足底板における長パッドが歩行および筋力に与える影響について,歩行時の骨盤加速度,大腿部筋活動,荷重応答期の時間的変化及び,静止時股関節内外転筋力変化を計測することにより明確にすることが目的である。〔対象〕健常成人男性15名(平均年齢25.1±3.2歳)を対象とした。〔方法〕表面筋電図,加速度計,Foot Switch,およびHand Held Dynamometerを用いて,歩行時大腿部筋活動,前額面上における加速度,並びに荷重応答期時間変化,股関節内外転筋力変化を自由歩行と長パッド貼付後で測定し,得られた測定値を対応のあるt検定を用いて分析した。〔結果〕長パッド貼付により,荷重応答期は早期に生じ,内側加速度の増大がみられ,立脚期初期における大腿二頭筋の活動減少,大腿直筋および大殿筋の活動増大,立脚期後半において長内転筋活動減少がみられた。また,長パッド貼付側の股関節外転筋筋力は増大した。〔結語〕長パッド貼付は,内側加速度及び歩行時大腿部筋活動を変化させ,股関節外転筋筋力を増大させる可能性が示された。
著者
財前 知典 小関 博久 田中 亮 多米 一矢 川崎 智子 小谷 貴子 小関 泰一 平山 哲郎 川間 健之介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI1023, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】歩行は個人によって特徴があり、それは健常成人においても同様である。健常成人における歩行の特徴を把握することは運動器疾患の予防の観点からも大変重要であると考える。そこで今回、踵離地(以下HL)において早期群と遅延群に分類し、両群における歩行時下肢筋活動の違いについて調査し、中足骨後方部分の横アーチ挙上における下肢筋活動変化と主観的歩きやすさの変化について比較検討した。【方法】被験者は健常成人17名24脚(男性16脚、女性8脚、平均年齢24.7±2.2歳)とした。各被検者の自然歩行をFoot switchにて計測し、その信号を基に立脚期を100%として時間軸の正規化を行った。Perryの歩行周期を基に49%をHL標準値として、49%よりHLが早い群を早期群、遅い群を遅延群に分類した。入谷式足底板における中足骨後方部分の横アーチパッドの貼付位置に準じて、パッドなしから2mmまでを0.5mm刻みで貼付し、その時の下肢筋活動と膝関節及び骨盤前方加速度を多チャンネルテレメータシステムWEB7000(日本光電社製)にて測定した。なお、それぞれの歩行距離は40mとした。被検筋は腓腹筋内外側頭(以下GM・GL)・前脛骨筋(以下TA)・後脛骨筋(以下TP)・長腓骨筋(以下PL)・大腿直筋(以下RF)・内外側ハムストリングス(以下MH・LH)とした。サンプリング周波数は1kHzとし、得られた加速度波形ならびに筋電図波形をBIMUTAS-Video for WEB(キッセイコムテック社製)で取り込み、筋電図波形では30~500Hz、加速度波形は0~10Hzの周波成分を抽出した。また、各被検筋に対して最大等尺性随意収縮を行い、安定した2秒間の筋電積分値(以下IEMG)を基準として各筋における歩行中の%IEMGを算出した。各被検筋における%IEMGを1%階級に分割したうえで、HL前10%、HL後10%の%IEMGを比較検討した。なお、加速度に関してはHL前10%、HL後10%及びHL時の加速度も併せて算出した。また、早期群及び遅延群におけるパッドの高さによる主観的歩きやすさの違いに関してはマグニチュード推定法(以下ME法)を用いて比較検討した。統計処理にはJava Script-STAR version 5.5.4jを用いて2要因5水準の混合配置の分散分析を行い、有意確率は5%未満とした。【説明と同意】被験者にはヘルシンキ宣言に沿った同意説明文書を用いて本研究の趣旨を十分に説明し、同意を得たうえで実施した。【結果】 HL早期群と遅延群では、遅延群においてHL前10%でGLの筋活動増大がみられ〔F(1,20)=11.11〕、HL後10%でTP、PLの有意な筋活動増大がみられた〔TP:F(1,20)=5.75、PL:F(1,20)=5.99〕。膝関節前方加速度に関しては、HL後10%で早期群に比較して遅延群において有意な増大がみられたが〔F(1,20)=7.51〕、骨盤の前方加速度においては有意差がみられなかった。また、ME法における歩きやすさの主観的評価については、早期群と遅延群において有意な差はみられなかったものの早期群において1.5mm以上のパッドを歩きやすいと感じ、遅延群においては1mm以下のパッドが歩きやすいと感じる傾向にあった〔F(1,20)=2.35〕。【考察】本研究の結果により、HL遅延群ではHL前10%においてGLの筋活動が増大し、HL後10%においてTPとPLの筋活動が増大した。これは遅延群ではHLが遅く、下腿前傾が増大するために制御作用として働くGLの筋活動が増大するものと推察する。また、HL後に生じるTPとPLの筋活動増大は、HLが遅延することにより、その後の身体前方推進力を増大する作用としてTPやPLの筋活動を増大させた事が考えられる。このことは、遅延群においてHL後の膝関節前方加速度の増大がみられたことと関連があるものと思われる。 また、ME法における歩きやすさの主観的評価に関しては有意差がみられなかったものの早期群では高めのパッドが歩きやすいと感じ、遅延群では低めのパッドを歩きやすいと感じる傾向にあった。中足骨後方部分の横アーチパッドは高く処方するとHLが遅延し、低めに処方するとHLが早期に生じるとされている。早期群ではパッドの高さを高く処方することで、HLが遅延した結果、主観的歩きやすさが増大し、遅延群ではパッドの高さを低く処方することでHLが早期に生じ、主観的歩きやすさが増大したものと推察される。【理学療法学研究としての意義】本研究ではHLを基準に健常成人を早期群と遅延群に分類し、歩行時下肢筋活動の違いを検証し、かつHLの速さに影響を及ぼすと考えられる中足骨後方部分の横アーチパッドの高さの変化によって両群の主観的歩きやすさの変化を比較検討した。健常成人は今後運動器疾患になる可能性があり、健常成人の歩行の特徴を明らかにすることは、運動器疾患の予防を行う上で非常に重要であると考える。
著者
藤原 務 平山 哲郎 小関 泰一 多米 一矢 川﨑 智子 稲垣 郁哉 小関 博久 石田 行知 柿崎 藤泰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0455, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腹直筋,側腹筋群は,胸郭と骨盤を連結し体幹の安定性に重要な役割を果たす。また恒常的な胸郭可動性の維持や強制呼気に重要な作用を担う。体幹側方偏位の増大は胸郭形状の左右非対称性が助長され胸郭に付着する腹直筋,側腹筋群の長さ,張力関係にも変化を来たし体幹機能に影響を及ぼすと考えられる。したがって収縮活動の左右差を可及的に最小限にすることは臨床結果を判定する指標になり得る。本研究の目的は体幹の側方偏位が腹直筋,側腹筋群筋厚および呼吸機能への影響を検討することとした。【方法】対象は健常成人男性15名であった。測定肢位は安静背臥位とした。体幹偏位の測定はデジタルカメラを用い,得られた画像を画像解析ソフトImageJにて体幹偏位量を算出した。この値を元に,他動的にベッドをスライドさせ安静位,正中位,偏位量増大位の3条件で検討した。腹直筋および側腹筋群筋厚の測定は超音波診断装置を用いた。課題動作は安静呼気,努力呼気とし,腹直筋の測定は第3筋区画の中央点にプローブを位置させ,側腹筋群筋厚の測定は第10肋骨下端と骨盤の中央点にプローブを位置させ短軸像を抽出した。それぞれの呼気終末時で得た画像は画像解析ソフトImageJを用いて筋膜間距離を筋厚として算出した。呼吸機能の測定は,呼気ガス分析装置とスパイロメーターを用いて測定した。統計処理は各項目における代表値を対応のあるt検定を用いて比較検討した。なお,危険率5%未満を有意とした。【結果】体幹偏位は有意に左側へ偏位していた(p<0.01)。腹直筋および側腹筋群筋厚は,安静呼気において偏位量増大位で左側が有意に減少した(p<0.01,p<0.01)。また努力呼気でも両筋は偏位量増大位で左側が有意に減少した(p<0.05,p<0.05)。正中位は,安静呼気および努力呼気で両筋に有意な差がみられなかった(n.s.)。呼吸機能は,TVにおいて偏位量増大位で有意に減少した(p<0.05)RRは偏位量増大位で有意に増大した(p<0.01)。MVは有意な差がみられなかった(n.s.)。VC,FVC,PEFR,%VCおよびV25においては偏位量増大位で有意に減少した(p<0.05)。FEV1.0においては有意な差がみられなかった(n.s.)。また,FEV1.0%は偏位量増大位で有意に増加した(p<0.05)。【結論】今回の結果から安静背臥位では,骨盤に対して体幹は有意に左側へ偏位し左側方偏位が増大すると左右の腹直筋,側腹筋群筋厚に左右差が生じ呼出機能低下に通ずることが示された。体幹側方偏位の改善は,胸郭のニュートラル化に寄与し付着する左右腹直筋,側腹筋群の均等な張力の再建に結びつき,呼吸運動における左右対称性の胸郭運動や筋活動により呼出機能改善が図れたと考察する。また,強制呼気に関与する協調的な腹直筋,側腹筋群機能の発揮が得られ,効率的な呼出機能が獲得できたと考察する。体幹側方偏位に伴う胸郭機能低下は,呼吸機能低下の一要因に関与し,呼吸器疾患をはじめ多くの臨床応用ができるものと考察する。