著者
阪本 公美子
出版者
宇都宮大学
雑誌
宇都宮大学国際学部研究論集 (ISSN:13420364)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.33-54, 2007-03

本論文は、アフリカにおいて貨幣経済の影響を受け、相互扶助の形態やジェンダーがどのように変容したかをタンザニア南東部農村の事例において考察したものである。リンディ州の2つの農村で行なった男女に対するインタビューから以下の6点が明らかとなった。第1に、人びとは食べ物の生産など自給自足的な側面も保持している。しかし、過去と比較して、生活において病気に対処するためなど貨幣の必要性が増した状況となりつつある。第2に、貨幣経済の影響を受けその形態は変容しつつも、相互扶助関係は現存している。過去には食糧を中心とした相互扶助関係であったが、現在は食糧不足に陥った場合、現金のある者が臨時に雇用するなど、現金と食糧による相互扶助関係へと変化している。第3に、そのような相互扶助の関係は男女によって異なり、一面においては女性が家族・近隣関係に限定され、男性が家族・近隣関係とともにグループ、友人関係にもネットワークを広げている。しかし、女性独自に展開している相互扶助関係もある。第4に、土地や家畜の所有方法は、女性が個人で所有しているのに対し、男性は妻と所有していることが多い。この背景には、農村に住んでいる殆どの男性が妻と住んでいるが、女性は必ずしも夫と住んでいるとは限らない事があげられる。その理由はさまざまであるが、このことが女性の独立に繋がるのか、脆弱性に繋がるのかは、注意が必要な点であろう。第5に、農業における男女分業は、イスラム教の伝授、殖民地などを経て現在に至っており、男性が換金作物、女性が野菜の栽培を担当していることは従来の先行研究に沿う結果であった。しかし、男性が主にモロコシ・雑穀・キャッサバなどの穀物を、男女がともに米を栽培している点は、従来の研究と必ずしも一致しない。最後に、貨幣経済の浸透に伴い男性が換金作物や商売、女性が家事を担当している傾向があり、男性を生産活動、女性を再生産活動に隔離している現状もみられた。他方、男女ともに食糧生産には従事しており、この点は、生産活動と再生産活動が一体化した経済のもと、男女の健全な関係を表している。以上のことから、本事例では貨幣経済の影響を受け変容しつつも、相互扶助の機能及び自給自足的な側面も保持しており、もうひとつの内発的発展のあり方も示している。他方、男女分業については、貨幣経済の影響を受け、男性が生産活動に、女性が再生産活動に隔離されつつある状況がみられ、このことは、世界的にも見られる現象でもある。生産活動と再生産活動が一体化した自給自足的な活動における男女分業と異なり、貨幣経済の浸透による男女分業は生産活動と再生産活動が分離させられ、資本主義経済による人間性の剥奪とも深く関連している。今後、更なる貨幣経済の浸透による生産活動と再生産活動の分離をすすめるか、貨幣経済の影響を受けつつも人間疎外を克服し、アフリカ独自の内発的発展のあり方を示すか、過渡期にあると言えよう。
著者
阪本 公美子
出版者
宇都宮大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

タンザニア南東部の母系的社会では、離婚女性などの女性世帯主世帯やシングル・マザーが目立つが、彼女たちの脆弱性と自在性、コミュニティ内の相互扶助ネットワークの内包性について、質問票調査やライフ・ヒストリーの聞き取りから明らかにした。女性世帯主世帯は、夫婦世帯と比較すると食料生産が不足することが多いが、収入の有無では顕著な差はなく、若い未婚女性や離婚女性は商売、年配の寡婦の女性は(個人差は大きかったが)周囲による支援による生計戦略がみられた。他方、独立以前の母方居住の時代は男性が結婚前に婚労働をし、出産後、女性の判断で未婚の事例もあるのに対し、ウジャマー集村化した現在は、男性の判断によって未婚である事例が目立つ。