著者
柿田 章 伊藤 徹 阿曾 和哲 佐藤 光史 高橋 毅 柿田 章 伊藤 義也
出版者
北里大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では移植用肝臓の保存時間の延長を目指して、保存液を加圧することによって凝固点以下の温度でも保存液の過冷却(非凍結)状態を維持、それによって肝臓の凍結・解凍に纏わる傷害を克服する保存法の方法論を確立するために基礎的研究を継続してきた。最終年度の平成11年度は、「加圧」が保存液の「過冷却状態の安定維持」に実際に寄与するか否かに関する実験を行った。その結果、実際に使用したUW液の、常圧、5、10、15MPaにおける凝固点はそれぞれ、-1.2+/-0.0、-1.5+/-0.1、-2.1+/-0.1、-2.5+/-0.1℃(n=6)、過冷却温度は、-4.0、-4.5+/-0.4、-4.8+/-0.8、-5.5+/-0.4℃であった。すなわち、加圧によるUW液の凝固点の降下に伴って過冷却温度も低下することが実証された。また、前年度までの実験では、肝臓が0℃・1時間の保存条件では最大35MPaまでの加圧に耐えて移植後も個体の生命を維持できること、また、加圧による傷害が加圧速度および加圧保存時間依存性であることが、移植後の生存成績や電顕による形態学的変化の観察などから明らかとなっている。加えて、肝臓は5Mpa・-2℃の条件では6時間の長時間保存に安全に耐えられる(移植後生存率100%)という成績が得られている。以上の実験結果は、凍害防止剤や浸透圧調節剤などを使用せず加圧のみによって、移植用肝臓を5MPa・-4.5℃付近まで過冷却(非凍結)状態に保存することが可能であることを示すものである。これらの結果を踏まえ、今後、肝臓の-4.5℃付近での過冷却長時間保存に向けて、氷点以下の低温の細胞・組織に対する傷害機構や至適保存液の物理化学的組成などの課題を解決すべく研究を進める予定である。