著者
大宮 東生 古田 一徳 泉家 久直 高橋 毅 吉田 宗紀 柿田 章
出版者
北里大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

[目的・対象・方法]肝・胆道癌の根治性を高めるために肝膵同時切除の必要性が唱えられ、臨床例も報告されているが、特に術後早期の病態に対する研究は少ない。今回我々は、種雑成犬を用い、70%肝切除に種々の割合で膵切除を加える実験を行い、肝膵同時大量切除時の手術侵襲の評価と肝再生における肝膵相関を知る事を目的として術後早期からの種々の検討を行った。[結果](1)70%肝切除のみ(I群)では生存率は100%であったが、66.7%膵切除を加える(II群)と66.7%、約80%膵切除を加える(III群)と75%と生存率が低下した。死亡原因としては肝不全が重要で、肝膵同時切除後に肝不全への移行を知るデータとしては、術後早期の血小板減少や、プロトロンビン時間・ヘパプラスチンテスト値の延長と回復遷延が参考となると思われた。また術後早期の血清インスリン値の低下・回復遅延や、血清グルカゴン値の増加・回復遅延及び血糖値の異常上昇も肝不全移行を示唆すると思われる。(2)生存例の肝再生率は、I群:82.3%、II群:96.3%、III群:65.2%であった。再生肝の肝機能を見てみると3群間に有意な差は認められず、また4週経過後の膵内分泌能も3群間に差は認められなかった。膵内分泌機能に関しては4週以上の経過観察が必要と思われる。[考察]今後、さらに下記の点を早急に検討し、肝膵同時大量切除時の病態生理を明らかにし、臨床応用できるよう研鑚努力する予定である。(1)手術侵襲をより正確に把握するために、侵襲度の指標化を行いたい。(例えばTNFや、osmolality gapなど)(2)切除肝、切除膵及び再生肝・再生膵の形態学的検討と、膵ホルモンを含む肝再生因子の分析から、肝膵同時切除が肝再生・膵再生にたいして及ぼす影響と、術後早期に手術侵襲として及ぼす影響を検討する。
著者
柿田 章 伊藤 徹 阿曾 和哲 佐藤 光史 高橋 毅 柿田 章 伊藤 義也
出版者
北里大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では移植用肝臓の保存時間の延長を目指して、保存液を加圧することによって凝固点以下の温度でも保存液の過冷却(非凍結)状態を維持、それによって肝臓の凍結・解凍に纏わる傷害を克服する保存法の方法論を確立するために基礎的研究を継続してきた。最終年度の平成11年度は、「加圧」が保存液の「過冷却状態の安定維持」に実際に寄与するか否かに関する実験を行った。その結果、実際に使用したUW液の、常圧、5、10、15MPaにおける凝固点はそれぞれ、-1.2+/-0.0、-1.5+/-0.1、-2.1+/-0.1、-2.5+/-0.1℃(n=6)、過冷却温度は、-4.0、-4.5+/-0.4、-4.8+/-0.8、-5.5+/-0.4℃であった。すなわち、加圧によるUW液の凝固点の降下に伴って過冷却温度も低下することが実証された。また、前年度までの実験では、肝臓が0℃・1時間の保存条件では最大35MPaまでの加圧に耐えて移植後も個体の生命を維持できること、また、加圧による傷害が加圧速度および加圧保存時間依存性であることが、移植後の生存成績や電顕による形態学的変化の観察などから明らかとなっている。加えて、肝臓は5Mpa・-2℃の条件では6時間の長時間保存に安全に耐えられる(移植後生存率100%)という成績が得られている。以上の実験結果は、凍害防止剤や浸透圧調節剤などを使用せず加圧のみによって、移植用肝臓を5MPa・-4.5℃付近まで過冷却(非凍結)状態に保存することが可能であることを示すものである。これらの結果を踏まえ、今後、肝臓の-4.5℃付近での過冷却長時間保存に向けて、氷点以下の低温の細胞・組織に対する傷害機構や至適保存液の物理化学的組成などの課題を解決すべく研究を進める予定である。
著者
松澤 克典 笹本 信幸 松澤 信五 関根 智久 板橋 浩一 柿田 章
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.417-421, 2003-05-01
被引用文献数
10

癒着や腸回転異常などに起因しない原発性小腸軸捻転症は,本邦では極めてまれである.今回85歳以上の超高齢者原発性小腸軸捻転症の2例を経験した.【症例1】85歳の男性.突然の腹部激痛が出現し,腹部超音波で著明な腹水と動脈血液ガスで強度の代謝性アシドーシスを認め緊急手術を施行した.SMA根部付近で小腸が時計回りに360°捻転しており,壊死腸管を切除し経過は良好だった.【症例2】92歳の女性で完全内臓逆位あり,血液データではアシドーシスなど異常を認めず,腹部も柔らかだったが,腹部超音波,CTで腹水と拡張腸管を認め,また腹痛の訴えも強く緊急手術を施行した.トライツ靱帯から1m80cmの部分より小腸が時計回りに360°捻転しており,壊死腸管を切除し現在全身状態は良好である.高齢者では小腸軸捻転症でも,臨床症状や検査所見が軽度であることが珍しくなく本症も念頭におくべきである.
著者
浅利 靖 島津 盛一 西村 博行 新井 伸康 中 英男 大和田 隆 比企 能樹 柿田 章
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.2461-2465, 1991-09-01
被引用文献数
9

中年の男性に発生した巨大な膵のsolid and cystic tumor(SCT)を経験し,その臨床経過よりdoubling timeを算出した.また本邦報告例139例について検討した.症例は58歳男性.腹部腫瘤を主訴に入院.開腹したところ,膵体部に被膜におおわれ充実性かつ弾性軟の,24×19×8cmの腫瘤が存在し,膵体尾部脾合併切除施行.病理組織学的に,充実性で髄様増殖パターンを呈し,免疫染色では上皮系マーカーに陽性でありSCTの診断を得た.4年前の初診時の腫瘍径と今回術前の精査時の腫瘍径とからdoubling timeを算出したところ,240日とslow growingな腫瘍に分類されることを証明しえた.本邦報告例139例について検討したところ,本例は男性例としては最年長かつ最大の腫瘍径を持つものであった.術後1年経過した現在,患者は健在であり,再発も認められていない.