著者
阿瀬 雄治
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

骨導刺激による聴性誘発反応で中耳疾患に病態によりI波の出現が異なる。骨振動音の内耳への伝達特性は頭蓋振動、合気蜂巣、鼓膜の振動ならびに外耳道内に生ずる音波の振幅や位相特性が振動周波数による変化として捕らえた。測定方法は骨導受話器を一側の乳突部に圧抵し、その近くに加速度計を装着、両側外耳道にミニュチュアマイクロホンを内臓したプローブを装着した。それぞれの出力波形を4チャンネル記録計に記録しFFTアナライザおよびマイコンにて解析した。鼓膜のインピーダンスの測定成績より外耳道側より見た鼓膜インピーダンスは伝音機能正常においては共鳴周波数は1200Hz付近にあり、耳小骨連鎖離断の場合は耳小骨の残存状態にもよるがほぼ700Hz付近にある。連離固着の場合は1700Hz以上にある。頭蓋の固有振動数は1700Hz-1800Hzにある。乳突蜂巣のなす共鳴周波数は800Hz付近にある。以上の固有振動数に応じた総合的振動特性が伝達関数の特異性として外耳道内の音波として捕らえられた。この骨伝導の様相が中耳伝音障害によりどのような変化が生じるかを観測した。鼓膜に穿孔の無い一側が正常な伝音障害耳について測定した。耳小骨連鎖離断症では1000Hzでは患側の振幅は増大し位相も進む。2000Hzになると振幅は減少し位相も遅れる。連鎖固着の場合は1000Hzの振幅は減少し位相は正常耳と変化ない。真珠腫性中耳炎においては乳突蜂巣の抑制されている程度にもよるが、振幅特性は高周波数域に移行し、位相特性には特徴を見いだせない。これらの種々の病態と伝達特性に合わせ周波数毎の骨振動の周波数特異性をシミュレイションした。骨振動にて生じた外耳道内音波を一旦メモリーに格納し、再度同期させて出力したものと骨振動とを合成することで骨振動の直接に聴覚に関与する成分と間接的に関与する成分による機能差を解析することを今後の課題とする。