- 著者
-
阿部 安成
- 出版者
- 滋賀大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2002
本研究のために実施した史料の調査と収集の対象は、現在13施設あるハンセン病にかかわる国立療養所のうちの10施設となった。本研究の課題は、ハンセン病者の<声>を聞くこと・読むこと、そしてそれを歴史社会学の学知をとおして、ハンセン病を発症したものたちは、療養所での生活をとおしてなにになり、またそこでの生活が園外の社会と国家になにをもたらしたのか、解明することにあった。いいかえれば、ハンセン病療養所におけるハンセン病者の主体化と、それをめぐる社会・国家との相互交渉の解明である。本研究にあたっての調査をとおして、療養所在園者の肉声を聞きとることの困難さと、療養所で保管されている文芸誌・文芸作品や自治会機関誌の厖大さが明らかになった。とくに後者については、文芸誌や文芸作品がハンセン病文学全集として刊行されつつあるが、いまだその全貌は把握されていないし、療養所を横断する情報交換も充分になされていない情況が判明した。いくにんからの聞きとりをおこなうなかで、ハンセン病療養所の在園者にとって、療養所の生活とは、自分がなになのか、自分のいる療養所とはどういう場所なのか、ここでの生活にどのような意味があるのか、といったいくつもの「なぜ」という問いとしてあらわれている、とわたしは受けとった。こうしたハンセン病者の問いを解明してゆくにあたって、療養所に保管されている厖大な量の文芸誌・文芸作品というテキストがその手がかりとなる。また、自治会誌などに記されている日誌などから、療養所が社会のなかでまったく隔絶した施設としてあったのではなく、慰安や寄附をめぐる園内外のさまざまな交流があったことが判明した。