- 著者
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阿部 芳春
小関 靖
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.157, no.1, pp.76-84, 2022 (Released:2022-01-01)
- 参考文献数
- 33
- 被引用文献数
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1
ホリトロピン デルタ(遺伝子組換え)(製品名:レコベル皮下注12 μgペン/同皮下注36 μgペン/同皮下注72 μgペン)は,フェリング・ファーマ株式会社が開発した遺伝子組換えヒト卵胞刺激ホルモン(rFSH)である.ヒト由来細胞株(ヒト胚性網膜芽細胞:PER.C6)にヒト卵胞刺激ホルモン(FSH)を分泌する遺伝子を組み込み,無血清条件下で内因性のFSHと同様の「α2.3及びα2.6結合シアル酸を有する糖鎖構造」の原薬を生成することが可能になった.本剤は世界初のヒト細胞株由来の遺伝子組換えFSH製剤であり,この2つのシアル酸を有する糖鎖構造によって,内因性FSHと類似した血中動態が期待できる.さらに,血清抗ミュラー管ホルモン(AMH)値及び体重を指標とした投与量アルゴリズムにより,個々の患者に適した投与量で至適な卵胞発育及び安全性リスクの軽減も期待できる.第Ⅱ相臨床試験では,ホリトロピン デルタの用量範囲6~12 μg/日の用量反応性が認められ,有効性と安全性が示されたこと,及び母集団薬物動態/薬力学解析結果から,非日本人女性で設定した個別化用量は日本人でも適切であることが確認された.第Ⅲ相臨床試験では,主要評価項目として臨床的妊娠率(海外試験)および採卵数(国内試験)においてホリトフォリトロピン アルファ(海外試験)またはベータ(国内試験)に対するホリトロピン デルタ非劣性が検証された.また,ホリトロピン デルタ群で全卵巣過剰刺激症候群を発現した被験者及び/又は予防的介入を実施した被験者の割合は,フォリトロピン アルファまたはベータ群と比べて統計学的に有意に低く,その他の安全性評価においてもこれらと同様のプロファイルを示した.以上より,生殖補助医療における調節卵巣刺激を受ける不妊症の女性において,本剤の個別化用量の臨床的ベネフィットが認められたことから,安全性を保ちながら有用な新規の治療選択肢を患者及び医療現場に提供できると考える.