著者
斉藤 崇 長谷川 仁志 鬼平 聡 阿部 豊彦
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1)ラットintermediate conductance型Ca-activated K channel(lmK)の構造配列決定と機能解析:BKチャネルとともに内皮依存性血管過分極因子の標的分子とされるlmKチャネルの心血管病態における発現修飾を検討するため、種々の心血管病態モデルの作成が容易な実験動物であるラットのlmKチャネルのcloningを行った(GenBankへ登録:AF149250)。本遺伝子のcoding regionは1278塩基対で、翻訳蛋白産物は425アミノ酸からなり、ヒトおよびマウスと塩基配列で88%、95%、アミノ酸配列で各々ほぼ98%の相同性を示した。6個の膜貫通部位を有し、S5とS6間には本チャネルの特異的阻害物質とされるcharybdotoxin感受性aspartate residueが、またcarboxy-terminal側には細胞内Ca sensorの役割を担うcalmodulin-binding domainおよびtyrosin phosphorylation consensus sequenceがあり、またpromotor領域にはNFkB、heat shock protein、AP2などでregulationされる部位が存在した。これらの事実から本チャネルの発現調節とその活性化が細胞増殖刺激と密接に関連することが確実となった。さらに、本遺伝子をHEK細胞に発現させ、その細胞電気生理学的特性を解析し、本チャネルは細胞内Ca濃度上昇により活性化され、charybdotoxinにより抑制されるなど、これまで生理学的に予測されていたlmKの特性が再現された。2)心血管病態におけるKCaチャネル発現の変化:ラット心筋梗塞モデルを用いて、KCaチャネルの分子種5種類(BK、lmK、SK1、SK2、SK3)のmessenger RNAの発現をRT-PCR法、RNase Protection Assay法により経時的に追跡し、BKおよびlmKの発現は梗塞後1〜3日をピークとする初期増強と7日以降再度upregulationを示す後期増強相からなる2峰性ピークを形成することを見いだした。また、in situ hybridizationおよびラットlmKに対する特異抗体を用いた免疫組織染色の結果、lmKはmRNAレベルのみならず、翻訳蛋白発現のレベルでもその発現が亢進することが確認された。さらに組織内局在について検討すると、lmKは対照時には主として血管内皮細胞および血管平滑筋に局在するが、梗塞心では単核白血球、繊維芽細胞などの浸潤細胞にも著明な発現が見られ、初期上昇相はこれら細胞浸潤により特徴づけられる炎症反応に、後期上昇相は梗塞巣内の血管リモデリングに一致することが明らかとなった。この所見は、これまで生理学的、薬理学的に示されてきた病態での過分極-弛緩連関の代償性増強現象をKCa発現修飾の面から説明するはじめての所見と考えられる。また、以上のlmK発現の増強は、アンギオテンシンllのl型受容体拮抗薬の投与によりほぼ完全に抑制されることなどが明らかとなり、lmK発現調節の細胞内情報伝達系にMEK/ERK系の関与が示唆された。さらに、NO生合成長期抑制モデルにおいても同様なlmK発現の増強を見いだしており、lmKは心血管病態時における血管リモデリングの共通なkey moleculeである可能性が高まってきた。これらの成果は、平成13年3月31日よりアメリカ合衆国フロリダ州オーランドで開催されるExperimental Biology 2001におけるアメリカ生理学会主催の血管系カリウムチャネルに関するシンポジウムにおいて招待講演として発表するとともに、Journal of Clinical and Experimental Pharmacology and Physiologyに公表予定である。
著者
阿部 豊彦 鬼平 聡 斉藤 崇 三浦 傅
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

これまで冠動脈の短時間閉塞・再灌流後に心臓交感神経に一過性機能障害を生じ、これにはadenosineなど虚血性代謝因子が重要であること、神経成長因子(NGF)や副腎皮質ホルモンが保護作用を有することを報告してきた。中枢神経系においてはtumor necrosis factor-α(TNF-α)の神経保護作用が報告されているが、心臓交感神経においては不明であり、本研究ではこの点に関して検討をおこなった。成犬を麻酔、開胸、両側迷走神経を切断、propranorolを投与。suction-cup式のDoppler probe装着により左前下降枝(LAD)と回旋枝の冠動脈血流速度を測定し、両側胸部交感神経を電気刺激時の交感神経性冠動脈収縮反応を冠動脈抵抗の変化率(%ΔCVR)を算出することにより評価した。LAD内に生食(対照群1、n=5)ないし抗TNF-α250pg/kg/min(TNF-α群、n=6)を投与下に15分同枝閉塞・再灌流を行った。また、生食(対照群2、n=5)ないしTNF-α抗体60nl/kg/min(抗TNF-α抗体群,n=6)を投与下に7分同枝閉塞・再灌流を施行した。再灌流前後のSS及びNE時%ΔCVRの推移を評価した。1) 対照群1ではLADの15分閉塞・再灌流後、同枝の%ΔCVRが有意に減弱したが、TNF-α群では保持された。2) 対照群2ではLADの7分閉塞・再灌流前後に%ΔCVRの変化を認めなかったが、抗TNF-α抗体群では有意に低下した。各群ともNEに対する%ΔCVRは不変だった。3) 左室壁長変化率(%SL)は15分冠閉塞中、両群とも同等に低下したが、再灌流後、TNF-α群で速やかな回復を示した。また、7分冠閉塞にて低下した%SLは対照群2に比し、抗TNF-α抗体群で遷延した。以上より、TNF-αは虚血性の心臓交感神経および心筋の機能障害に対して保護作用を有することが示された。
著者
阿部 豊 阿部 彩子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1.南北一次元エネルギーバランスモデル(EBM)を用いた検討:拡散近似の南北一次元エネルギーバランスモデルを構築し、離心率と自転軸傾斜の影響を吟味した(1)気候レジームは年平均日射、最大日射、最小日射に複雑に依存まる。(2)離心率の増大で年平均日射が大きくなるため概して温暖化する。(3)一般に離心率の増大によって気候の多重状態は解消する。(4)近日点での一時的な暴走状態の発生が、平均的な気候状態や生物生存可能性に大きな影響を与える。(5)自転軸傾斜角、離心率、軌道長半径は一定のままでも、歳差運動(春分点と近日点の位置関係の変化)によって気候モードが変化する惑星が存在する。(6)年間の温度変化幅は傾斜角の大小と歳差運動によって大きく変わる2.大気大循環モデル(GCM)を用いた検討:地球大気用に気候システム研究センターと国立環境科学研究所で共同開発してきたCCSR/NIES AGCM 5.4gを使用して、理想的な惑星(現在の地球大気、地球サイズ)のモデルを作り、離心率を変化させる実験をすすめた。(1)定性的にはEBMを用いた結果と一致するが、やや寒冷化する傾向がある。(2)地面状態の違いによって、離心率が増大したときに暖かくなる場合と寒くなる場合がある。(3)降水分布の年変化は自転軸傾斜による直立・傾斜レジームと離心率による溜め込み・放出サイクルの合成されたものとして理解できる。3.生存可能性について:(1)熱容量が大きい場合、年平均日射が最も重要である。(2)歳差運動まで考慮すると、生存可能な緯度帯を持つ惑星の軌道は自転軸が少しでも傾くと離心率が小さい範囲に制限される