著者
黒田 壽郎 前田 成文 竹下 政孝 霜垣 和雄 沢井 義次 大塚 和夫
出版者
国際大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

前年度は、イスラ-ムの都市性、とりわけイスラ-ム的宗教意識と都市形成原理の相関関係を明らかにするため、タウヒ-ド、ウンマ、シャリ-アが構成する三極構造の本性と、それが帰結するイスラ-ム世界固有の社会形成原理について研究を行ってきた。この基礎研究の成果をふまえ、今年度は、共同体形成原理の法的側面から研究を進めた(第6回研究会)。またマスジドがイスラ-ムに固有の聖俗関係を保持しつつ、共同体形成に密接に関わっている点に着目し、キリスト教社会、仏教社会との比較研究も行った(第9回研究会)。以上の基礎的、理論的研究ではそれなりの成果を上げ得たが、イスラ-ム的宗教意識と都市形成原理の相関関係は、現実のイスラ-ム都市に引き当ててその理論的妥当性を検証しなくてはならない。H班ではシリアのアッポを研究対象とし、対象研究の方法について討議、検討を重ね、またイスラ-ム社会と都市における異教徒の調和的共存とイスラ-ム共同体の形成原理に関する討議を行った。(第5、8回研究会)第7回研究会では、上記とは異なる視点からイスラ-ム的ネットワ-クと都市、イスラ-ム経済と都市の問題などについて討議を行った。これらの問題も単独で存在するものではなく、上記三極構造と密接な関係をもつことが確認された。具体的成果としては、第6回研究会報告書を出版、同時に都市性と深く関わるイスラ-ム経済活動の基本構造に触れたシャイバ-ニ-の『利得の書』を訳出、刊行した。他の研究会成果も発表予定である。また以上の研究に伴い、イスラ-ム共同体論、共同体形成論、都市形成論などの基礎的文献を収集するとともに、シリア,アレッポ関係の文献、地図などの収集にも務めた。