著者
大塚 和夫
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.617-642, 2004-09

今日、世俗化論に対しては、理論面・実証研究面の双方において、さまざまな批判的検討がなされている。だがそれらの議論のうち、イスラームの事例を含むものは少ない。本稿はエジプトなどのアラブ・スンナ派世界の事例を中心に、イスラーム研究の立場から世俗化論を再検討することを目的とする。本論は、大きく二つの章に分けられる。前半は世俗化の前提となる「世俗的なるもの」という用語に含まれる複数の要素を分解し、それぞれの側面に応じてイスラーム世界の世俗化の実態を議論してみたい。その際に、一九七〇年代以降顕著になる「イスラーム復興」との絡まりあいが慎重に検討されよう。一方、後半部では、アラブ世界出身の学者(エルメッシリーとアサド)の世俗化論を紹介する。それらは、イスラーム世界の歴史的経験を充分に考慮した、近代化と世俗化の錯綜した関連をめぐる議論である。そして、イスラーム世界の事例も包含した「包括的世俗化」論の可能性を指摘する。
著者
大塚 和夫 小杉 泰 坂井 信三 堀内 正樹 奥野 克己 鷹木 恵子 赤堀 雅幸
出版者
東京都立大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

3年間にわたる調査・研究の結果、北アフリカのムスリム社会が、近年のグローバル化の大きな波に洗われ、伝統的生活のあり方の一部を維持しながら、さまざまな側面での変容を経験していることが明らかになった。それは食や衣といった物質文化の側面から、女性労働のあり方、歌謡曲などの大衆文化そしてイスラームに関わるさまざまな活動の領域にまで及ぶ。それらを明らかにする過程で、ジェンダーのあり方、イスラーム復興、情報社会化、観光化などのきわめて今日的な人類学的テーマに関しても今後の研究の調査・研究の見通しを得ることができた。その一方において、これまで我が国ではほとんど知られていなかった「伝統的」なイスラーム活動のいくつかの側面に関する基礎データも収集できた。それは、モロッコのスーフィー教団、同じく伝統教育のあり方、そしてエジプトなどにおけるムスリム学者の大衆に対する法的助言(ファトワー)の実態などである。これらは今後のイスラーム研究においてもきわめて貴重な資料である。今回の調査・研究を全体的に見渡すと、やはり広い意味でのグローバル化の影響が、北アフリカのムスリムの日常生活のいろいろな面にまで浸透していることが明らかになった。その結果,今後の人類学=民族誌学的研究においても,フィールドを取り巻くさまざまな環境、とりわけ国家やグローバルなレベルからの政治・経済・文化的なさまざまな影響を、これまで以上に真剣に考慮する必要性が痛感されるようになった。そのような所見に基づき、北アフリカに限定せずにアラブ世界全般を視野に入れグローバル化の過程に着目した人類学的研究のプロジェクトを企画し、その一つを科研費補助(基礎研究C)をえて実施してるところである。
著者
堀内 正樹 大塚 和夫 宇野 昌樹 奥野 克己 清水 芳見 新井 和広 水野 信男
出版者
成蹊大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、アラブ世界の様々な分野の人間関係の現状を分析することによって、社会全体を貫くネットワーク・システムの維持メカニズムを実証的に検証することを目的とした。その際、政治的・経済的・社会的・文化的環境、およびネットワークの内的意味世界の解明を分析の2本の柱とした。まず、ほとんどの調査地域においてこの十年ほどのあいだに急激な社会変化が生じていることが確認できた。政治・経済状況の悪化や社会格差の拡大、そして欧米を基準とした価値指標の浸透がもたらした閉塞感の蔓延などである。そうした現象に対応するように、ネットワークの地理的範囲や人の移動のパターンにも少なからぬ変化が見られたが、人間関係の保ち方自体に変化はほとんどなく、むしろ不安が増している社会状況に対処するために、これまで以上にネットワーク構築の重要性が増大しているという認識を得た。またネットワークの内的意味世界に関しては、同時代の人間関係のみならず、すでに死去した過去の世代の人間も重要なネットワーク・ポイントに組み込まれているという重要な発見をした。ネットワーク構築の適用範囲は現在だけでなく過去へも拡大されているのである。現代の地平へ伸びた人間関係のベクトルと、過去へと伸びたベクトルとがひとつに融合されて、「いま・ここ」という変化の渦中にある生活世界の中で、人間関係が柔軟・多様かつ強靱に機能するというしくみこそが、ネットワーク型社会システムの維持メカニズムの核心を成すとの認識を得た。この知見は、政治学や経済学、社会学といった「現代学」のみならず、過去をすでに終わってしまったものとして扱う歴史学に対しても、その姿勢を根本から問い直す重大な契機となるはずである。
著者
ダニエルス クリスチャン 宮崎 恒二 大塚 和夫 西井 涼子 眞島 一郎 関根 康正 河合 香吏 陶安 あんど
出版者
東京外国語大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本計画研究の最終年度に当たる本年度は、これまでの4年間の研究成果を踏まえて、総まとめと研究成果の公表に重点をおいた。これまでの研究活動においては、三つの基本課題に沿って知識が資源化される過程を検討してきた。第一課題は、知識の所有・占有・共有である。第二課題は、現代における前近代知識の読み直しであり、第三課題は、実体化された知識である。実践の中で生まれてくる知識がどのように資源化されるかが大きなテーマである。本年度は、領域研究全体のr資源」概念の再構成に貢献できるように、上記の三課題を視野に入れながら、資源化メカニズムの解明を継続・研究した。これまでに知識の「資源化」と知識の「商品化」とのあいだに本質的な懸隔のあることを明らかにした。本年度は、資源としての知識が拡散と流動のベクトルをもつのに対し、その商品化は固定と秘匿のベクトルをもつという分析指標から計画研究の総まとめを行った。班員がその立場を取り入れた形で成果論文の執筆に執りかかった。具体的な活動は(1)総括班主催で2006年12月9日-10日に開催した資源人類学国際シンポジウムでの発表、及び(2)2007年秋に刊行する予定の責任編集・全9巻からなる資源人類学成果論文集の1巻をなす第3巻「知識資源の陰と陽』に掲載する論文作成であった。(1)の国際シンポジウムでは、関根はハワイ南アジア系移民社会における伝統知識の再活性化(宗教・呪術の復活)の補充調査をした上で、「On the Shift from Knowledge as a Capital to Knowledge as a Resource」と題する発表を行った。(2)については、班員はそれぞれ上記の三課題を中心に5年間の研究成果を論文にまとめる作業を行った。ダニエルスは、上記の第3巻の責任編集に当たると同時に、雲南における伝統技術の補足調査をした上で成果論文集の第1巻に掲載する伝統技術の資源化過程に関する総論を準備した。
著者
黒田 壽郎 前田 成文 竹下 政孝 霜垣 和雄 沢井 義次 大塚 和夫
出版者
国際大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

前年度は、イスラ-ムの都市性、とりわけイスラ-ム的宗教意識と都市形成原理の相関関係を明らかにするため、タウヒ-ド、ウンマ、シャリ-アが構成する三極構造の本性と、それが帰結するイスラ-ム世界固有の社会形成原理について研究を行ってきた。この基礎研究の成果をふまえ、今年度は、共同体形成原理の法的側面から研究を進めた(第6回研究会)。またマスジドがイスラ-ムに固有の聖俗関係を保持しつつ、共同体形成に密接に関わっている点に着目し、キリスト教社会、仏教社会との比較研究も行った(第9回研究会)。以上の基礎的、理論的研究ではそれなりの成果を上げ得たが、イスラ-ム的宗教意識と都市形成原理の相関関係は、現実のイスラ-ム都市に引き当ててその理論的妥当性を検証しなくてはならない。H班ではシリアのアッポを研究対象とし、対象研究の方法について討議、検討を重ね、またイスラ-ム社会と都市における異教徒の調和的共存とイスラ-ム共同体の形成原理に関する討議を行った。(第5、8回研究会)第7回研究会では、上記とは異なる視点からイスラ-ム的ネットワ-クと都市、イスラ-ム経済と都市の問題などについて討議を行った。これらの問題も単独で存在するものではなく、上記三極構造と密接な関係をもつことが確認された。具体的成果としては、第6回研究会報告書を出版、同時に都市性と深く関わるイスラ-ム経済活動の基本構造に触れたシャイバ-ニ-の『利得の書』を訳出、刊行した。他の研究会成果も発表予定である。また以上の研究に伴い、イスラ-ム共同体論、共同体形成論、都市形成論などの基礎的文献を収集するとともに、シリア,アレッポ関係の文献、地図などの収集にも務めた。
著者
飯塚 正人 大塚 和夫 黒木 英充 酒井 啓子 近藤 信彰 床呂 郁哉 中田 考 新井 和広 山岸 智子
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

ムスリム(イスラーム教徒)を反米武装闘争(「テロ」)に駆り立ててきた/いる,ほとんど唯一の要因と思われる「イスラームフォビア(ムスリムへの迫害・攻撃)」意識の広範な浸透の実態とその要因,また「イスラームフォビア」として認識される具体的な事例は何かを地域毎に現地調査した。その結果,パレスチナ問題をはじめとする中東での紛争・戦争が世界中のムスリムに共通の被害者意識を与えていること,それゆえに反米武装闘争を自衛の戦いとして支持する者が多く,反イスラエル武装闘争を支持する者に至っては依然増加を続ける気配であることが明らかになった。