著者
青山 裕彦 坂本 信之 松井 浩二
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

脊椎動物は分節的に構成されていると考えられるが,その発生的基本単位は体節である.体節自身から発生する骨格や筋はもとより,脊髄神経や交感神経系の分節的形成も体節によって支配されている.本研究では脊椎動物のボディプラン形成機構を考察するため,体節から中軸骨格が形成される機構,とくにその胸部を特徴づける肋骨の部域特異的形態形成機構を題材に取り上げた.1.肋骨形成の3区画:体節周囲組織の肋骨形成との関わりを調べ,椎骨と結合している短い部分(近位肋骨)は神経管の底板や脊索に,その遠位にある長い部分(遠位肋骨)は表皮外胚葉に依存して発生することを示した.遠位肋骨はさらに壁側板に進入する部分(遠位肋骨胸骨部)としない部分(遠位肋骨椎骨部)の2区画に分けられる.これは近年提唱された(Burk, A),abaxial, primaxial区画にそれぞれ対応する.2.遠位肋骨形成と体節分化:表皮外胚葉と体節との相互作用を物理的に阻害すると,皮筋板の外側部(Sim 1),皮筋板辺縁近傍の椎板(Scleroaxis)の形成不全が示された.これらの遺伝子発現領域が遠位肋骨の形成に関わるのであろう.3.体壁筋の部域特異的形態形成〜腹壁筋の発生的分節性(1)体節の発生運命:腹壁の筋はほぼ第27体節のみからできることを移植実験から示した.その他の腰部体節は,肋骨のみならず,体壁筋も形成しないのである.(2)神経支配:ところが腹壁筋の支配神経は胸神経であった.筋の発生由来と支配神経の由来する分節が異なっており,支配神経からは筋の発生由来をいうことはできない.4.四肢形成と肋骨形成:胸部に四肢を誘導すると遠位肋骨胸骨部ができなかった.abaxial区画については,体壁と四肢が相補的に形成されるのである.5.中軸骨格原基の部域特異性の決定:体節形成の最も初期,原始線条から陥入する直前に,すでに決定されていることを,当該部位の移植と,そのHox遺伝子群の発現,形態形成能から示した.
著者
加賀谷 美幸 青山 裕彦 濱田 穣
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.31, pp.61-61, 2015

樹上性の強い霊長類ほど前肢の運動範囲が広く、前肢帯の可動性も高いとされる。前肢帯を構成する肩甲骨や鎖骨の立体配置やその位置変化の種間の違いを明らかにするため、京都大学霊長類研究所に飼育されるヒヒ、ニホンザル、オマキザル、クモザルの成体を対象として計測を行った。獣医師の協力のもと、麻酔下、接触型三次元デジタイザを用い、前肢や前肢帯骨格の位置を示す座標を、肢位を変えて取得した。また、X線CT撮影を行い、各個体の骨格要素の形状を抽出し、先に計測した三次元データに重ねあわせることにより、前肢や前肢帯の骨格の位置関係をソフトウェア上で復元した。ヒヒやニホンザルでは、上腕骨は矢状面上の投影角にして180度程度(体幹軸の延長ライン)までしか前方挙上されないが、オマキザルでは180度以上、クモザルはおよそ270度に達し、樹上性の強い新世界ザルでは頭背側への上腕の可動性が大きいことが明らかとなった。これら最大前方挙上位においては、肩甲骨が背側へ移動し、オマキザルやクモザルでは肩甲骨関節窩が頭外側を向くが、ニホンザルやヒヒでは関節窩が頭外側かつ腹側に向いており、肩甲骨棘上窩が長いために脊柱の棘突起と肩甲骨内側縁が干渉していた。とくにヒヒでは、前肢挙上時に鎖骨が胸郭上口をまたぐように胸骨から直線的に背側に向いていた。ヒヒの肩甲骨は内外側に長く鎖骨が相対的に短いことが知られており、これらの骨格形態の特徴が肩甲骨関節窩のとり得る位置や向きの自由度を低めているようであった。また、クモザルの鎖骨は弓状に大きな湾曲を示すことが知られていたが、前肢挙上時には胸郭上口の縁のカーブに鎖骨の湾曲が沿う配置となり、これによって体幹部との干渉を避けつつ肩甲上腕関節を保持できていることが観察された。このように、前肢帯骨の立体配置は種によって異なり、それが前肢の運動機能の種差をもたらしているようすが明らかとなった。