著者
青木 幸一
出版者
福井大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

電極上に電解合成した導電性高分子膜は、電気化学的なスイッチングにより、導電体(酸化体)と絶縁体(還元体)との間で相変化を起こす。イオン性溶液中で還元膜を電気化学的に酸化すると、電極に接した部分はイオンの放出または取り込みを伴って電子導電体になり、それ自身が電極として作用する。その結果、導電層が電極表面から溶液/膜界面へ向かって成長すると考えられ、本研究室では、この成長を導電層伝播機構と名付けて理論的に取り扱い、成長速度を測定してきた。導電膜を還元すると、膜全体にわたって均一に絶縁体化することがわかった。それ故、膜の酸化還元を繰り返すと、膜の電極近傍では酸化状態、溶液に近い側では還元状態をとる。すなわち、イオンの膜への取り込み量に動的分布を作ることができる。この分布をマクロ的に拡大するため、電極から引き剥した膜の一端に別の電極を取り付けてスイッチングを行うと、膜の長さ方向に酸化と還元体の分布が形成できた。ポリアニリン膜における電位と導電種の濃度との関係をスペクトロメトリーにより測定したところ、大きなヒステリシスのために、不可逆性が重要な問題になった。酸化方向の膜の変化では、電位の変化速度に依存しなかったため、平衡に近い状態が得られた。電位と導電種の対数濃度との関係はネルンスト式で表される直線からはずれ、ある電位で急激に折れ曲がることが分かった。この電位はパーコレーション閾値電位と考えられ、電極と電子的につながった酸化体と電子的につながらない酸化体との線形結合によってネルンストプロットを説明した。また、誘導電流を利用した抵抗測定に成功した。現在、そのpH依存性について実験が進行中である。