- 著者
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須永 和博
- 出版者
- 観光学術学会
- 雑誌
- 観光学評論 (ISSN:21876649)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, no.1, pp.57-69, 2016 (Released:2020-01-13)
2011年に出版されたThe Tourist Gaze 3.0は、従来の観光のまなざし論に対して投げかけられた様々な批判への応答という性格をもっている。その1つが、観光のまなざしの変容可能性に関する議論である。従来の観光のまなざし論では、観光者のまなざしはマスメディア等を通じて形成され、観光者はこうした事前に作られた枠組みで対象を見るとされてきた。その結果、観光者は制度的に構築されたまなざしを無批判に受容する受動的な存在として位置づけられてきた。こうしたアーリの観光のまなざし論の決定論的な側面については、しばしば批判的検討が加えられてきたが、The Tourist Gaze 3.0では、アーリ自身も実際の観光現場で生起する様々なパフォーマンスや偶発的経験等によって、固定的なまなざしが変容していく可能性について指摘している。
以上の視点を踏まえ、本論文では、大阪・釜ヶ崎で行われている「釜ヶ崎のまちスタディ・ツアー」(以下、スタディ・ツアー)の考察を行う。具体的には、スタディ・ツアーへの参加によって、釜ヶ崎の人々を異質な存在として他者化するようなまなざしが融解し、<地続き>の存在として釜ヶ崎を見る新たなまなざしが立ち現れてくる過程を明らかにする。