著者
須田 斎
出版者
人体科学会
雑誌
人体科学 (ISSN:09182489)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.40-55, 2021-08-08 (Released:2021-08-13)
参考文献数
22
被引用文献数
1

心理療法(治療)の本質は自然治癒力の利用にあるようだが、換言すれば、それは自己認識あるいは自己発見にも通じてくるものである。治療者がなすのは、こうした方がよいとか、こうすべきだとか忠告や助言をすることではない。たとえば、ユング派の心理療法家J.ヒルマンは、理解するには鏡が必要だという。患者と治療者との相互の間に(対話という)鏡があって、(会話を介して)相手の心を(相互の心に)映し、そうして理解するのだ。このような人間関係は治療者̶患者間ばかりでなく、一般人であるわれわれにも有効な普遍性を有するツールとなるように思われる。本研究では、「対話の鏡」を始め、心の中の鏡の存在とその在り様(特にその所在)について、様々な事例を挙げ、それらをユング心理学の考えを基礎に分類整理し、心の構造を明らかにすることが目的である。結論として、心の深さ(層状)に応じて種類の異なる複数の鏡が存在し、その最も深層に鏡元型が存在することが示唆された。
著者
簗瀬 澄乃 正山 哲嗣 須田 斎 石井 直明
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.127-127, 2009

線虫<i>Caenorhabditis elegans</i> (<i>C. elegans</i>)において、高濃度酸素への短時間暴露の反復によって寿命が延長するというホルミシス効果が認められる。我々はこれまでに、<i>C. elegans</i>におけるIns/IGF-1信号伝達経路の活性化が、このホルミシスによる寿命延長効果に関与することを明らかにしてきた。このIns/IGF-1信号伝達経路の下流では、ヒトのフォークヘッド型転写因子に相同なDAF-16転写因子が作用しており、このDAF-16の標的遺伝子として抗酸化系酵素やミトコンドリアにおけるエネルギー代謝に関わる蛋白などが挙げられている。従って、<i>C. elegans</i>で認められたホルミシスによる寿命延長効果において、これらDAF-16の標的遺伝子の発現が役立っている可能性が考えられた。<br>そこで我々は、高濃度酸素暴露によるホルミシス効果が認められる<i>age-1</i>変異体において、SODやカタラーゼなどの抗酸化酵素活性が上昇していることを定量的RT-PCR法によって確認した。また、そのミトコンドリアにおけるスーパーオキサイドラジカル産生量の変化を測定し、短時間の酸素暴露に依存してその産生量が低下していること、さらに抗酸化酵素の作用を除外したサブミトコンドリア粒子(SMP)においてもその産生量が減少していることをこれまでに発表した。これらの酸素暴露に依存した抗酸化系の活性化およびスーパーオキサイドラジカル産生量の減少は、DAF-16発現を欠く<i>daf-16</i>ヌル変異体においては認められなかった。即ち、ホルミシス効果を生じるためにはDAF-16の標的遺伝子候補である抗酸化系酵素が活性化され、エネルギー代謝系が抑制されている可能性の高いことを示唆している。現在、これまでに観察された酸素暴露による<i>age-1</i>変異体のミトコンドリアおよびSMPにおけるスーパーオキサイドラジカル産生量の減少が、ミトコンドリア呼吸鎖自体の作用制御に起因しているのか、それとももっと呼吸鎖の環境的な要因が関係しているのかどうか<i>C. elegans</i>の酸素消費量を測定することによって解明を試みている。