- 著者
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頼 衍宏
- 出版者
- 国際日本文化研究センター
- 雑誌
- 日本研究 (ISSN:09150900)
- 巻号頁・発行日
- vol.51, pp.41-62, 2015-03
日本上代文学の研究成果の金字塔の一つと評価されているのが小島憲之『上代日本文学と中国文学――出典論を中心とする比較文学的考察』(1962~65)である。出版されて以来、中国文学もしくは国文学の立場から相次いで書評が寄せられている。特に頂点となったのは日本学士院賞恩賜賞を授与されたことであろう。しかし、1965年に公表された審査要旨においては「中国の典籍から出典をとりあげる場合に異論のある点もないではない」とあって、懸念材料が完全に払拭されたわけではない。この「異論」の意見を重視すべきであろう。そして『文淵閣版四庫全書電子版』を補助的に活かしたうえで、小島の提出した漢語の見解について追考してみなければならないだろう。結果として、「及」をはじめとする和習の六語について典例を洗い出してみれば、新たな解釈を示すことができるのではないかと思われる。漢語に関して、小島が誤解してしまったのは、明らかに類書と韻書に頼りすぎたためである。これは単発的な事例にすぎないとはいえまい。そのほかに、入矢義高の書評(1965)で取り上げられた四語、神田喜一郎の論著(1965~66)で文句をつけられた三語も穏当ではないだろう。また吉川幸次郎『漱石詩注』(1967)における五語も問題がないとはいえない。海彼の用例を採集するために力を注がねばならないし、これをもって和習と見なされている言葉と突き合わせつつ慎重に考え直さなければならない。小稿は、主に京都大学の権威のある四名による1960年代の典型的な論考に焦点を合わせ、「和習」とされてきた十八語の正体を明らかにする。インターネットを駆使して研究をするのが主流となりつつある昨今、従来いわれてきたような語性についての判断の適否を確認する場合、コーパスによる検証の手続きは不可避といえよう。