著者
藤田 結子 額賀 美紗子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.7-20, 2021-04-30 (Released:2021-05-26)
参考文献数
29

本研究は,女性活躍推進の流れの中,未就学児を育てる非大卒女性の稼ぎ手役割・職業役割に注目し,研究の問いとして「育児期の非大卒女性はどのような生計維持分担意識を抱いているのか」「ジョブ/キャリアの観点から,どのように自分の職業を捉えているのか」を考察することを目的とする.調査方法にはインタビュー調査と参与観察を用いる.調査の結果,高卒女性には母親役割の延長として家計補助をする傾向がみられたが,専門学校卒女性の事例には同等の稼ぎ手であろうとする意識,またキャリアとして職業を捉える傾向が明らかになった.しかし先行研究の大卒女性と異なり,本研究の非大卒女性の場合,生計維持分担意識が高くキャリア志向でも,妻のキャリアや家事育児に対する夫のサポートが少ないことがわかった.階層とジェンダーの観点からは,育児期の男性・大卒女性と比べて,育児期の非大卒女性はキャリアへの従事,家庭責任の軽減が難しかった.
著者
額賀 美紗子 藤田 結子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.130-143, 2021-10-31 (Released:2021-11-17)
参考文献数
30

本研究は,ぺアレントクラシー下での母親の教育責任の増大に注目し,働く母親の家庭教育をめぐる葛藤と家庭教育を通じた格差形成を明らかにする.この目的のため,就学前の子どもをもつ働く母親に半構造化インタビューを行い,彼女たちが家庭教育をどのように捉え,父親とどのように分担しているのかを階層視点から検討した.42名を対象とした分析から,「教育する家族」の子育てが,①父母協働志向の〈親が導く子育て〉,②母親に偏った〈親が導く子育て〉,③父母協働志向の〈子どもに任せる子育て〉,④母親に偏った〈子どもに任せる子育て〉に分化していることを示した.このモデルからは,子育て理念と父母のかかわりの違いが組み合わさることで,家庭教育を通じた大きな格差が就学前から生じている可能性が示唆された.また,働く母親の葛藤が,「親が導く」子育ての圧力と家庭教育への父親の関与の少なさによって生じていることも明らかになった.
著者
藤田 結子 額賀 美紗子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.151-168, 2021 (Released:2022-09-30)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本稿は,女性の社会進出と女性の階層化が同時に進む中,育児期に就業する女性は,食事に関わる家事が自分に偏る状況をどう意味づけているのか,「手作り規範」に注目して考察することを目的とする.リサーチクエスチョンとして,(1)「育児期に就業している女性は,食事の用意にどのような役割を見出しているのか」,(2)「手作り規範への態度は,就業形態,職業,学歴,世帯収入によって女性の間でどのような差異がみられるのか」を設定し,インタビューと参与観察,および写真撮影を調査方法に採用し,データを分析した. 調査の結果,第1の問いに関して,本調査の女性たちは「子ども中心主義」から食事の用意に母親役割を見出していることが明らかになった.第2の問いに関しては,就業形態や職業との関わりがみられた.つまり,母親役割の延長として働く非正規女性は「手作り=愛情」に肯定的な傾向がある一方で,正規フルタイムや準専門職の女性に手作り規範を批判的に捉える事例が複数みられた.また,世帯収入が高い者はサービスや商品を購入して時間を節約するなど,世帯収入によって対処戦略に異なるパターンがみられた.要するに,手作り規範の相対化にも,その対処戦略にも階層差が見出されたのである. 女性活躍推進と女性の階層化によって,階層の高いキャリア女性の間では手作り規範が弱まっても,非正規雇用やひとり親の女性は負担が重いままとなる可能性が示唆された.