著者
風間 晴子
出版者
国際基督教大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

これまでの年度において,孔辺細胞の始原細胞(initial cells)やトライコプラストのような潜在的に細胞分裂をする能力をもった細胞群に対して,エチレンの暫時処理がそれらの細胞分裂能の増加もたらすことを示してきたが,この作用が,さらに他の同様に細胞分裂のポテンシャルを有する細胞群においても普遍的に見られるかどうかを検討した.その結果,維管束系の細胞群における細胞分裂能の増加をはじめ,不定根の誘導などを様々な組織・器官において同様の結果を得,エチレン作用としては,その存在下においては細胞周期におけるM期への移行を阻害し,エンドリデュープリケーションを促進させ,エチレン除去後には,G2期にある細胞を即M期へと移行させ,細胞質分裂を誘導することの普遍性が示された.これらの結果をもとに,細胞がエチレンに曝された時の細胞周期における位置(例えば,G1であるかG2であるか)が,エチレン除去後の細胞質分裂によって産生される細胞の種類(例えば,孔辺細胞を産生するか,孔辺母細胞を産生するか,または孔辺細胞副細胞を産生するかと言ったcell fateの決定に関わる事象)の決定の鍵を握ると考えるモデルを立て,これを証明するべく,現在も実験を継続中である.結果の一部はすでに,論文として投稿中のもの,投稿準備中のものがある.さらに,新たな展開として,温度シフトによるストレスがもたらす細胞増加の現象が,阻害剤の実験からも,エチレンを介した反応であるとの結果を得たことから,こうした観点からの研究をも今後の課題とすることを考えている.