- 著者
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飯島 直樹
- 出版者
- 公益財団法人 史学会
- 雑誌
- 史学雑誌 (ISSN:00182478)
- 巻号頁・発行日
- vol.129, no.8, pp.1-37, 2020 (Released:2021-09-09)
「協同一致」の論理とは、陸海軍が完全に意見一致することで、軍事協同作戦の遂行が可能になるという論理であるとともに、天皇への輔弼責任の保障という軍による輔弼の在り方を建前とした、陸海軍間や他の国家機関との間における自己正当化の論理だった。本稿は、「協同一致」の輔弼責任を保障していた元帥府・軍事参議院を分析軸として、昭和戦前期における陸海軍関係の一端を解明することを目的とした。
日露戦後、軍事参議院は戦闘用兵事項について軍政・軍令機関の「協同一致」の輔弼責任を保障する役割を担った。元帥府には国防用兵事項について統帥部が諮詢奏請、元帥会議による全員一致の奉答を経て裁可を仰いだ。両統帥部が「協同一致」の輔弼責任を元帥府奉答で仮託することで、内閣と対等の立場で国防用兵事項の決定に関与するという政治的正当性を具現化していた。
この「協同一致」の論理が動揺したのが、ロンドン条約批准問題だった。参謀本部は兵力量改訂を両統帥部の「協同一致」の連携で行うことを当然視していたが、海軍では多数決制や議長表決権のある軍事参議会の場で条約否決を目指す艦隊派への対応に忙殺され、陸軍との連携が疎かになった。参謀本部では海軍の紛争への関与を回避したい上層部と、将来の陸軍軍縮や協同作戦策定を見据えて海軍との「協同一致」の維持を重視する中堅層が対立したが、結局は海軍単独軍事参議会開催で妥協した。このことは、陸海軍関係の観点では「協同一致」の論理の綻びを示すものであった一方、枢密院の審議方針に影響を及ぼすなど、他の国家機関に対しては軍の表面的な「協同一致」が有効に作用していたことを示す。
最後に、「協同一致」の論理に依拠してきた陸海軍関係がロンドン条約の段階で動揺したことは、戦時期の政策や作戦面での陸海軍対立の淵源となったこと、戦時期に海軍を「協同一致」の下に牽制するために陸軍で元帥府活用構想が浮上することを展望した。