著者
田中 きく代 飯田 収治 阿河 雄二郎 中谷 功治 藤井 和夫 関 隆志 横山 良 田中 きく代 赤阪 俊一 大黒 俊二
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、「文化的ポーダーランド」と「マージナリティ」という概念を設定し、集団における周辺部に焦点をあて、そこに存在する人・モノ・ことのあり様に、対抗・抗争する諸社会の間にあって融和し共生しようとする要因を見出そうとするものである。「文化的ボーダーランド」は、国家や民族という文化的背景を異にする集団問に存在する中間的空間で、それら複数の集団の周辺部をも含むものである。そこでは、対立的要因をはらみながらも、様々なレベルでお互いに共鳴し和解しあう要因のネットワークが張り巡らされている。一方の「マージナリティ」は、そうした空間で、越境をしたり、もとの集団に戻ったりするハイブリッドな存在のあり様を示している。本研究では、これら中間領域の中間的存在が、歴史の中の媒介項として、歴史の連続性を生み、またダイナミズムを与えてきたのではないか。中間の存在を注視することで、一元的ではない複層的で多様な人間世界の歴史的なメカニズムを理解できるのではないかという問題意識から、世界史を全体として見通すようなフレームワークを模索した。また、このフレームワークに基づいて、参加者を「西洋古代・中世班」、「ヨーロッパ近代・現代班」、「アメリカ史班」の3つの班に編成したが、それぞれの時代や地域の「文化的ボーダーランド」空間で、特に「マージナリティ」に留意しながら、結びあう諸関係、結び合わせる媒体や媒介項の存在を具体化しようとした。これらの研究を、研究者個人の研究に依存するのではなく、班ごとに随時連絡をとりあい、また全体の研究会に持ち寄ることで、研究構成員の共通認識を作り上げた。そして、これに基づき、総合的観点から、世界史における「文化的ボーダーランド」と「マージナリティ」概念の有用性を再確認した。これらの概念と本研究のフレームワークをさらに洗練することで、従来の一元的な世界史の描き方ではない、エリートから一般の人びとまで、諸段階の様々な集団を射程に入れた研究が可能で、複層的で多様な人間世界を解明しうるのではないか。また、集団における周辺の役割やアイデンティティと構造の関係といった世界史の課題にも応えうるのではないかという展望を持つに至った。