著者
福原 正代 田川 皓一 飯野 耕三
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.55-60, 1994-02-25 (Released:2009-09-16)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

プロソディーの障害は失語症との関連で左半球損傷, 感情言語の障害との関連で右半球損傷として論じられている.右中大脳動脈領域の梗塞に伴うアプロソディアの症例を報告した.右利きの50歳の女性で, 左片麻痺で発症した.話し方に抑揚がなく, 中国人のようであると指摘された.自発話は流暢であるが, 抑揚に障害を認め, 助詞に省略が多い。語尾や文末に助詞「ね」が多用され, その音が上がる傾向にあった.自発的なプロソディーに障害はみるが, 言語やプロソディーの聴覚的理解は良好で, プロソディーを除くと復唱や呼称に問題はなかった.運動性アプロソディアと診断した.なお, 読字では文節の区切りは正常, 助詞の省略もなかった.書字は正常であった.画像診断により, 右中大脳動脈領域で穿通枝を含み前頭葉から頭頂葉, 側頭葉に及ぶ梗塞を認めた.本例の責任病巣は, Rossによる前方病変, すなわち左半球のBroca領域に相当する右半球領域と考えた.