著者
岩﨑 正則 福原 正代 大田 祐子 藤澤 律子 角田 聡子 片岡 正太 茂山 博代 正木 千尋 安細 敏弘 細川 隆司
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.42-50, 2023 (Released:2023-02-15)
参考文献数
24

男性労働者における主食の重ね食べ(1回の食事で炭水化物の供給源となる主食を2種類以上同時に食べること)と歯周病の関連を明らかにすることを目的に横断研究を実施した.福岡県内の一企業で行われた定期健康診断にあわせて実施した歯科健診,食事調査,質問紙調査に参加した539名の男性従業員(平均年齢47.9歳)のデータを用いた.歯科健診では10歯の代表歯の歯周ポケット深さを計測した.食事調査では1日あたりの炭水化物摂取量を推定し,摂取量上位20% を多量摂取と定義した.そして4 mm以上の歯周ポケットを有する歯数を目的変数とし,主食の重ね食べの頻度「1日1食以上」「1日1食未満」を説明変数とする負の二項回帰モデルを用いて両者の関連を解析した.さらに,主食の重ね食べの頻度が高い者には炭水化物を多量に摂取している者が多く,歯周病へ影響を与えているとの関連を仮定し,一般化構造方程式モデリング(GSEM)を用いて3者の関連を分析した.解析対象集団の14.8%が1日1食以上の主食の重ね食べをしていた.主食の重ね食べの頻度が1日1食未満の群と比較して,1日1食以上の群では4 mm以上の歯周ポケットを有する歯数が有意に多かった(発生率比=1.47,95%信頼区間=1.10–1.96).GSEMを用いた分析の結果,主食の重ね食べの頻度が高いことは炭水化物の多量摂取と関連があり,主食の重ね食べが歯周病に与える影響の一部は炭水化物の多量摂取を介していることが示された.
著者
福原 正代 田川 皓一 飯野 耕三
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.55-60, 1994-02-25 (Released:2009-09-16)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

プロソディーの障害は失語症との関連で左半球損傷, 感情言語の障害との関連で右半球損傷として論じられている.右中大脳動脈領域の梗塞に伴うアプロソディアの症例を報告した.右利きの50歳の女性で, 左片麻痺で発症した.話し方に抑揚がなく, 中国人のようであると指摘された.自発話は流暢であるが, 抑揚に障害を認め, 助詞に省略が多い。語尾や文末に助詞「ね」が多用され, その音が上がる傾向にあった.自発的なプロソディーに障害はみるが, 言語やプロソディーの聴覚的理解は良好で, プロソディーを除くと復唱や呼称に問題はなかった.運動性アプロソディアと診断した.なお, 読字では文節の区切りは正常, 助詞の省略もなかった.書字は正常であった.画像診断により, 右中大脳動脈領域で穿通枝を含み前頭葉から頭頂葉, 側頭葉に及ぶ梗塞を認めた.本例の責任病巣は, Rossによる前方病変, すなわち左半球のBroca領域に相当する右半球領域と考えた.
著者
園木 一男 高田 豊 藤澤 聖 福原 正代 脇坂 正則 黒川 英雄 高橋 哲 冨永 和宏 福田 仁一
出版者
九州歯科学会
雑誌
九州歯科学会総会抄録プログラム 第65回九州歯科学会総会
巻号頁・発行日
pp.16, 2005 (Released:2006-06-25)

グレリンは、胃から分泌される消化管ホルモンであり、ヒトの摂食行動、エネルギー代謝に深く関与しているホルモンである。一方、口腔外科では術後に経鼻経管栄養が行われているが、この摂食形態は咀嚼することなく栄養摂取ができるもので、無歯顎者の摂食形態に類似していると思われる。そこで摂食形態の変化がグレリン分泌に影響するのか検討するため、入院患者の血中グレリン濃度を術前の経口摂取時と術後の経鼻経管時で比較した。対象者は女性5名、男性1名である(平均年齢53.0歳)。朝食前のグレリン濃度を経口摂取時と経鼻経管栄養時で比較すると、経鼻経管栄養時で有意に低下した(経口時175.5±72.8 (mean±SD) fmol/ml vs 経鼻経管栄養時113.7±42.5 fmol/ml, p‹0.05)。朝食後2時間後のグレリン値は朝食前より低下するが、経口摂取時の朝食後2時間後のグレリン値と経鼻経管栄養時の朝食前のグレリン値はほぼ同程度であった。経鼻経管栄養はグレリン分泌を抑制させる機序があるものと考えられ、咀嚼なしに摂食することは、グレリン低下を介して代謝の面から全身状態と密接に関係している可能性が示唆された。
著者
福原 正代 安細 敏弘 高田 豊 秋房 住郎 園木 一男 竹原 直道 脇坂 正則
出版者
九州歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

福岡県内在住の大正6年生まれ(1917)の人を対象に、80歳時に口腔と全身状態の調査をおこなった(福岡県8020調査)。福岡県8020調査の受診者を対象に、平成15年85歳時の口腔と全身状態の調査を施行した。口腔健診には、現在歯数、咀嚼能力を含む。咀嚼能力は15食品の咀嚼可能食品数で表現した(ピーナッツ、たくわん、堅焼きせんべい、フランスパン、ビーフステーキ、酢だこ、らっきょう、貝柱干物、するめ、イカ刺身、こんにゃく、ちくわ、ごはん、まぐろ刺身、うなぎ蒲焼き)。内科健診には、身長、体重、血圧、脈波伝播速度(PWV)、心電図、血液検査を含む。Mini-Mental State Examination(MMSE)を用い認知機能を調査した。現在歯数・咀嚼状態と、認知機能および動脈硬化の関係を検討した。受診者207名のうち205名(男性88名、女性117名)でMMSEを施行した。MMSE得点は23.8±0.3点(30点満点、平均±標準誤差)で、性差はない。MMSE得点は24点以上が正常とされるが、MMSE24点以上の達成率は62.4%。現在歯数は7.3±0.6本で、咀嚼可能食品数は10.7±0.3。MMSE得点と現在歯数の間には有意な相関はなかった。一方、MMSE得点と、咀嚼食品数の間には正の相関の傾向があった(相関係数0.12、p=0.08)。咀嚼食品数を0-4、5-9、10-14、15の4群にわけると、それぞれの群のMMSE得点は、22.7±1.3点、23.6±0.7点、23.9±0.5点、24.4±0.5点であった。PWVはMMSE正常群22.9±0.5m/sec、MMSE低下群24.9±0.8m/secで、有意にMMSE低下群で高値であった(p<0.05)。性別、BMI、収縮期血圧、PWV、脈圧、心電図SV1+RV5、総コレステロール、HbA1c、喫煙、飲酒、教育歴について、MMSE得点との単相関をとると、PWV、SV1+RV5、教育歴が有意となった。重回帰分析でもPWV、SV1+RV5、教育歴のみが有意な説明変数となった(p<0.05)。【結論】口腔衛生状況を改善し咀嚼能力を保つことで、認知症が少なくなる可能性が示唆された。仮に自分の歯がなくても、義歯をつけていれば、咀嚼できる食品数が多く、認知症が少なくなる可能性がある。また、85歳一般住民において、PWVは認知障害の独立した説明変数であった。PWVは動脈硬化性血管病変を反映するひとつの指標であるが、85歳という超高齢者においても、認知機能が、動脈硬化性血管病変の進行にともなって障害されると考えられた。