著者
田川 皓一
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.10-20, 2021-03-25 (Released:2021-04-23)
参考文献数
8

脳血管障害における失語症の発現機序を論じるときは,各臨床病型の病態生理の相違について理解しておく必要がある.脳塞栓では脳動脈灌流域に一致した梗塞巣を生じる.言語領域へと灌流する皮質枝が塞栓性に急性に閉塞したときに,各失語症の典型像が出現してくると考えている.動脈硬化性変化を基盤とするアテローム血栓性脳血栓でも種々のタイプの失語症が出現してくる.この場合,CTやMRIによる梗塞巣の周囲に,機能画像による脳血流代謝の障害部位を観察することがあり,このような病態が失語症の発現に関与している可能性がある.被殻出血は大脳基底核部を中心に血腫を形成する空間占拠性の病巣であり,血腫が大きくなると周囲に影響を与えてくる.血腫が大きくなると,周囲の言語領野にも障害を及ぼし失語症が出現してくる.
著者
福原 正代 田川 皓一 飯野 耕三
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.55-60, 1994-02-25 (Released:2009-09-16)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

プロソディーの障害は失語症との関連で左半球損傷, 感情言語の障害との関連で右半球損傷として論じられている.右中大脳動脈領域の梗塞に伴うアプロソディアの症例を報告した.右利きの50歳の女性で, 左片麻痺で発症した.話し方に抑揚がなく, 中国人のようであると指摘された.自発話は流暢であるが, 抑揚に障害を認め, 助詞に省略が多い。語尾や文末に助詞「ね」が多用され, その音が上がる傾向にあった.自発的なプロソディーに障害はみるが, 言語やプロソディーの聴覚的理解は良好で, プロソディーを除くと復唱や呼称に問題はなかった.運動性アプロソディアと診断した.なお, 読字では文節の区切りは正常, 助詞の省略もなかった.書字は正常であった.画像診断により, 右中大脳動脈領域で穿通枝を含み前頭葉から頭頂葉, 側頭葉に及ぶ梗塞を認めた.本例の責任病巣は, Rossによる前方病変, すなわち左半球のBroca領域に相当する右半球領域と考えた.
著者
平田 温 田川 皓一
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.189-194, 1985-06-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

内頚動脈の閉塞あるいは狭窄が拍動性耳鳴の原因となることは比較的知られていない.著者らは拍動性耳鳴を訴える2症例を経験し, 1例で同側の内頚動脈の狭窄を, 他の1例で対側の内頚動脈の閉塞を確認した症例1は56歳の女性で右の拍動性耳鳴を訴え, 右の頚部および眼窩に血管雑音を聴取した.血管造影で右内頚動脈の壁不整と狭窄を認めた.右の耳管狭窄が検出され通気で耳鳴は減少した.症例2は50歳の男性で左の拍動性耳鳴と左片麻痺を主訴とし, 右内頚動脈起始部および右中大脳動脈の閉塞と, 左内頚動脈よりの側副血行が認められた.左頚部に血管雑音を聴取し運動負荷で血管雑音と耳鳴は増強し安静で減少した.これらはそれぞれ血管内腔の不整および血流増加により血管雑音・耳鳴を生じたと考えられる.拍動性耳鳴の発現機序およびその修飾因子について考察を加え, 報告した.
著者
田川 皓一
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-10, 2007 (Released:2008-04-01)
参考文献数
8
被引用文献数
2

失語症者における画像診断の目的は,基礎疾患を診断し,責任病巣や発現機序を明確にして病態の理解や予後の推定に役立てることにある。脳梗塞による失語症者を対象として,前頭葉損傷と失語症,伝導性失語の責任病巣,ならびに境界型梗塞と失語症について検討を加えた。左の前頭葉損傷では種々の失語症が出現する。純粋語唖の責任病巣は中心前回であり,ブローカ領野に限局した病巣では超皮質性感覚性失語を呈する。この両領域が障害され運動性失語となる。ブローカ領野の周辺領域や前頭葉内側部の障害では超皮質性運動性失語が出現する。伝導性失語症の典型例では左の縁上回を中心とする領域に病巣が存在した。なお,このタイプの失語症は中心後回の病巣でも出現しうる。表層型の境界域梗塞では超皮質性失語が出現しうる。また,主幹動脈の閉塞による深部型の境界域梗塞では重度の失語症を呈すことがあり,この場合大脳半球にも重度の脳血流代謝の障害をみる。
著者
佐藤 雄一 田川 皓一 平田 温 長田 乾
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.263-268, 1985-06-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
17

一側視床前内側部の梗塞により, 急性発症のhypersomniaと記銘力障害を呈した2例を経験した.症例1 : 62歳, 女性, 右利き.hypersomniaと記銘力障害を認めた.CTscanにて, 非優位側視床の前内側部にX線低吸収域を認めた.症例2 : 68歳, 男性, 右利き.hypersomniaと知的能力の低下や記銘力障害などの精神機能の低下を認め, また, Horner症候群と右上肢の軽度の脱力および異常知覚を認めた.CTscanにて, 優位側視床の前内側部にX線低吸収域を認めた.2症例とも, hypersomniaは約2週間の経過で消失した.hypersomniaと記銘力障害の発現に関する視床前内側部の意義について検討し, 文献的考察を加えた.
著者
福永 真哉 服部 文忠 田川 皓一 生方 志浦
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.96-101, 2010-03-31 (Released:2011-05-11)
参考文献数
11
被引用文献数
2 3

純粋失読の読字障害は,漢字と仮名の両方にみられるとされているが,一方が強く障害されて乖離するという報告もあり,いまだ一定の結論が出ているとは言いがたい。また,漢字と仮名のなぞり読みにおける乖離について,漢字の条件を統制し,仮名と比較した検討はこれまで行われていない。我々は,左後頭葉から脳梁にかけての損傷で,純粋失読を呈した一症例を経験した。本症例は,標準的な失語症検査において,仮名の読みが漢字の読みに比して良好であった。しかし,漢字の条件を統制して比較を行ったところ,音読,なぞり読みともに,形態が単純で,高親密度,高頻度の漢字と仮名との間では有意差を認めなかったが,形態が単純で,高親密度,高頻度の漢字と,形態が複雑で,低親密度,低頻度の漢字の間では有意差が認められた。また,形態が複雑で,低親密度,低頻度の漢字においては,なぞり読みが有効な傾向にあった。本症例において,漢字の読字過程は複雑さ,親密度,頻度によって,異なっている可能性が考えられた。