著者
香川 尚徳
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.141-151, 1999-11-19 (Released:2010-03-03)
参考文献数
72
被引用文献数
7 5

本総説では,はじめに,過去20年間に提唱された河川生態系に関する三つの重要な概念すなわち,河川連続体,不連続結合,栄養素らせんの各概念と,それらの概念によるダムの取り扱い方とを概観した.次に,これらの概念に基づき,ダムを河川連続体に対する不連続発生の場とみなす立場で,ダムによる河川水質の変化,すなわち,不連続発生の実状を,ダム下流の河川生態系に及ぼす影響を考慮しつつ,水温,粒子状物質,クロロフィルa,栄養素,嫌気的水質環境の5項目について検討した.最後に,不連続軽減対策について,ダム湖水の滞留時間を短くして河川的性質を保つことは必ずしも出来ることではないので,下流の生態系に重大な影響を与える水質変化を中心に不連続発生を軽減することが現実的であると考察した.特に,自然に備わった水の動きや物質を利用することが望ましいとの観点に立って,富栄養化対策における二つの方法,密度流と選択取水の統合的利用と分解中の麦藁や落葉落枝が示す藻類増殖阻止作用の利用とを今後の検討課題にあげた.