著者
菊嶋 修示 小林 洋一 蔵野 康造 矢澤 卓 馬場 隆男 向井 英之
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.249-260, 1991-06-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
27
被引用文献数
3

Adenosine三リン酸 (ATP) は上室性頻拍 (PSVT) の停止薬として用いられるが心停止, 灼熱感などの副作用が多い.ATPの刺激伝導系への作用はATP自身とadenosineに基づき, 副作用もATP自身とadenosineに基づくと思われる.ATP使用に際し, dipyridamole (DIP) (adenosineの細胞内吸収阻害薬) を併用しATP作用のadenosineに依る作用のみ増強させることで, ATPの副作用を軽減し得るか検討した.対象は32例, 内20例がPSVT例である. ATPの半減期は短いため, ATPは漸増注入 (0.025-0.5mg/kg) した.前処置薬としてDIP, aminophylline (adenosineの競合的阻害薬) , atropine, propranolol, isoproterenolを用いた.前研究として洞調律時にATPを注入し, 前後での洞周期と房室伝導時間を経時的に求め, ATP注入前後でcyclic-AMP (c-AMP) , epinephrine, norepinephrine血中濃度を測定した.ATPを洞調律時に注入すると, 一過性の陰性変時作用と陰性変伝導作用が出現, その後陽性変時作用がみられた.陰性変時作用と陰性変伝導作用はDIPで増強, aminophyllineで減弱, atropineでは不変であった.陽性変時作用はaminophyllineで増強された.陰性変時作用はisoproterenolで増強, propranololで抑制された.血中epinephrine, norepinephrine, c-AMPはほぼ全例でATP注入後上昇した.以上より, 陰性変時作用, 陰性変伝導作用は主にadenosineに基づき, 陽性変時作用は自覚症状などに基づく二次的作用と考えられた.少量のATP投与時には陰性変時作用が陰性変伝導作用より早期に出現したことより, ATPでのPSVT停止に際し, 少量のATPほど停止時に洞停止が短かかった.PSVT停止に関しては心房内回帰性頻拍以外のすべてのPSVTで停止が得られ, 停止量は房室ブロック量の約半量であった {ATP単独 (停止量vs房室ブロック量: 0.16±0.07mg/kgvs0.30±0.12mg/kg, p<0.01) , DIP=0.1mg/kg併用 (0.09±0.06mg/kgvs0.15±0.07mg/kg, p<0.05) } .停止量はDIP=0.1mg/kg併用でATP単独投与時の約半量となった (p<0.01) .停止時に房室ブロックを回避でき, ATP量が小であるDIP=0.1mg/kg併用が最適と考えられる.灼熱感, 嘔気などがATP単独投与時には全例にみられたが, DIP併用時には2例で消失, 他の全例で減弱した.ATP-DIP (0.1mg/kg) 併用療法は副作用を軽減し, 有効であると考えられた.
著者
中川 陽之 小林 洋一 渡辺 則和 箕浦 慶乃 勝又 亮 河村 光晴 安達 太郎 小原 千明 宮田 彰 丹野 郁 馬場 隆男 片桐 敬
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.16-20, 2004

38歳の女性,主訴は意識消失発作である.既往歴として2回の失神歴を有した.平成12年1月頃より,起立時の立ちくらみが頻発し始めた.同年12月,起立位で上司との会話中,立ちくらみが出現した.息をこらえ我慢していたところ意識消失発作が出現したため救急車で某病院に搬送され,当院紹介受診となった.理学的所見,非観血的検査に異常は認められず,臨床経過よりneura11y mediatedsyncopeが疑われたためhead-up tilt test,頸動脈洞マッサージを施行したが,失神発作は誘発されなかった.Valsalva試験は第II相,第IV相における異常反応が認められ,valsalva ratioは低下しており,自律神経系異常パターンが認められた.このことより,再度80度受動起立下で息こらえをしたところ,開始直後より急激な血圧の低下をきたし,約6秒後に臨床症状と同様の失神発作が誘発された.以後,日常生活での息こらえを必要とする動作の禁止を指導し,外来経過観察中である.息こらえにより失神発作が誘発される症例は,我々が検索した限り,成人例においては2報告にすぎず,まれな症例と考えられ報告した.