著者
安達 太郎
出版者
広島女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究は日本語の行為要求表現について、小説などの書記資料だけでなく、録画資料を活用することによって終助詞の有無や音声にまで注意を向けた詳細な機能分析を行うことを目的とするものである。研究期間中、命令・依頼のモダリティと意志のモダリティについての分析を行い、後者は論文として公刊した。意志のモダリティの主要な形式はシヨウ(動詞の意志形)とスル(動詞の基本形)である。シヨウは基本的には聞き手への伝達を意図しない典型的な意志を表し、独話で発話される。一方、スルはその行為の実行を聞き手に表明することを意図する点で典型的な意志ではない。シヨウは聞き手とのさまざまな関係(恩恵の直接的、間接的な付与)によって対話においても使われるように機能の拡張が起こる。特に、ケンカをしている二人にむけて発話される「ケンカもうやめようよ」のような行為の提案の機能を持つ文は興味深い。通常の意志の文では終助詞ヨを文末に付加することはできない。(「明日は早いから、寝ようよ」は意志の文とは解釈できない)が、このタイプでは可能になる。音調的にもこの行為の提案のシヨウは急激な上昇が起きてから下降する点で、勧誘の文に近い。これらから、純粋な意志の表出の形式であるシヨウが、話し手の行為に聞き手の参加を求める勧誘の文に連続していく様相を把握することができた。なお、この研究よって構築されたデータベースを用いて、疑問文の反語解釈、感嘆文などの行為要求以外のモダリティ表現の分析にも着手しており、成果の一部は拙著『日本語疑問文における判断の諸相』(くろしお出版)にも含まれている。
著者
伊田 瞳 安達 太郎 森田 麻里子 河本 輝敬 渡部 良雄 新家 俊郎 相良 博典
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.363-368, 2022 (Released:2022-03-31)
参考文献数
14

エジンバラ産後うつ病自己評価票(Edinburgh Postnatal Depression Scale, EPDS)は産後うつ病のスクリーニングとして本邦で広く用いられるが,ほとんどが日中の医療機関受診時に評価され,産後うつ症状やEPDSの日内変動についての報告は少ない.一方で,Twitterをはじめとしたソーシャルネットワーキングサイト(以下SNSとする)は母親の情報交換,経験や感情を共有するためのプラットフォームとして近年大きく需要が高まっている.我々は特定のハッシュタグを用いEPDSの点数を併記した上睡眠についてのTwitterへの自由投稿を促すオンライン上のイベントを開催し,うつ症状を有する産後女性の睡眠における特性を評価した.今回同研究のサブ解析によりEPDS点数の日内変動の可能性が示唆されたため報告する.2020年1月11日午後8時よりオンライン上であらかじめ著者らが指定したハッシュタグ「#0歳児ママ睡眠ツイオフ」を用い,産後の睡眠についてTwitterで投稿するよう呼びかけた.同時にウェブ上で回答できるEPDSのURLを付記し,投稿に併記するよう呼びかけた.開催から24時間で2,326ツイートの投稿を認め,うち2,195ツイートの投稿にEPDSが付記されていた.投稿されたEPDS点数の中央値は9±0.6点であり,投稿の57%にあたる1,241ツイートがEPDSのカットオフ値である9点以上を有していた.また,午前4時をピークとして明け方にEPDSスコアの中央値が上昇に転じる現象が認められた.我々の調査において,先行文献に比してEPDS点数が総じて高値であり時間帯によって変動が認められた.産後うつ症状が日内変動をきたす可能性や,実臨床でのEPDS点数が実際の点数より低く報告される可能性について注意していく必要を示唆する.
著者
中川 陽之 小林 洋一 渡辺 則和 箕浦 慶乃 勝又 亮 河村 光晴 安達 太郎 小原 千明 宮田 彰 丹野 郁 馬場 隆男 片桐 敬
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.16-20, 2004

38歳の女性,主訴は意識消失発作である.既往歴として2回の失神歴を有した.平成12年1月頃より,起立時の立ちくらみが頻発し始めた.同年12月,起立位で上司との会話中,立ちくらみが出現した.息をこらえ我慢していたところ意識消失発作が出現したため救急車で某病院に搬送され,当院紹介受診となった.理学的所見,非観血的検査に異常は認められず,臨床経過よりneura11y mediatedsyncopeが疑われたためhead-up tilt test,頸動脈洞マッサージを施行したが,失神発作は誘発されなかった.Valsalva試験は第II相,第IV相における異常反応が認められ,valsalva ratioは低下しており,自律神経系異常パターンが認められた.このことより,再度80度受動起立下で息こらえをしたところ,開始直後より急激な血圧の低下をきたし,約6秒後に臨床症状と同様の失神発作が誘発された.以後,日常生活での息こらえを必要とする動作の禁止を指導し,外来経過観察中である.息こらえにより失神発作が誘発される症例は,我々が検索した限り,成人例においては2報告にすぎず,まれな症例と考えられ報告した.