著者
皆川 至 高力 宙 佐方 醍 柴田 昌利 与語 圭一郎 河原崎 達雄 高坂 哲也
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第103回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.81, 2010 (Released:2010-08-25)

【目的】リラキシン関連因子(RLF)はブタで発見されたinsulin-relaxin gene familyの一つで,マウスでは精巣下降に必須である。多くの動物でcDNAのクローニングがなされ,RLFはA-B-C鎖からなる前駆体(プロRLF)として生合成された後,A-B鎖ヘテロダイマーとして機能すると推測されてきた。しかし,native RLFがダイマーとして精巣に存在するか不明である。加えて,本遺伝子の発現は成熟精巣でも認められているものの,その機能は定かでない。本研究ではブタ精巣よりnative RLFを単離してその構造と特性を明らかにすると共に,分泌後の行方や受容体の分布から作用発現の可能性を究明した。【方法】デュロック種の雄ブタを用いた。各種クロマトを組み合わせ精巣よりRLFを単離した。構造解析はMaldi Tof/Tof MSで行い,生物活性は受容体LGR8を導入したHEK293細胞におけるcAMP産生能で評価した。血中および体液中RLF濃度は時間分解蛍光免疫測定法で,受容体の局在は免疫染色で調べた。【結果】In situ hybridizationと免疫染色よりライディッヒ細胞でRLFの産生を確認した。精巣をゲル濾過,イオン交換FPLCおよび逆相HPLCに供し,RLFを約12kDaの単一ピークとして単離することに成功した。MSMS解析の結果,60%のプロテインカバレッジでA-B-C鎖ドメインが同定され,RLFは前駆体の構造をとることが判明した。単離したRLFはnMオーダーでcAMP産生を刺激し,十分な生物活性を有していることが分かった。一方,産生源のライディッヒ細胞から分泌されたRLFは精巣静脈のほか,精巣間隙,精細管内液および精巣網液で高濃度で検出された。さらに,精細管内上皮細胞とライディッヒ細胞では受容体の免疫局在が観察された。【結論】ブタでは,RLFは生物活性を持った前駆体としてライディッヒ細胞より分泌され,内分泌,傍分泌または自己分泌因子として機能することが示唆された。
著者
高坂 哲也
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は科学研究費補助金(基盤研究(C))により種々の知見を得た。以下にその主要な成果を記す。ブタ精子へのリラキシン蛋白の暴露処理により、精子の生存率は平均77%ど高い割合を示し、クロロテトラサイクリン(CTC)法による精子の受精能獲得および先体反応の割合は、いずれも平均40%ときわめて高い誘起率を示したことから、リラキシン蛋白は高生存率かつ高効率でブタ精子の受精能獲得及び先体反応を誘起させる確証を得た。このようなリラキシン暴露処理精子においてタンパクチロシンキナーゼ(PTK)活性はインキュベーション時間の経過とともに上昇し、4時間後には10U/10^8 cllsときわめて高い値を示した。さらに、ウェスタンブロット法による解析から、暴露処理精子では約30kDaの位置に特異的なリン酸化タンパク質のバンドを見出すことができた。次に、約30kDaの付近に存在するリン酸化タンパク質の2次元電気泳動・プロテオーム解析の結果から、精子の受精能に関与する興味深いタンパク質である可能性が示唆され、基質分子の塩基配列決定に資する知見を得た。さらに、このリン酸化標的分子のcDNAクローンを鋳型として、pMALC2プラスミドに導入して発現ベクターを構築し、MBP(マルトース結合蛋白)との融合蛋白として発現さたることができた。この組換え体を抗原としてウサギに免疫し30kDaの基質分子のみを特異的に認識する抗体を得ることができた。この抗体を用いて光学顕微鏡レベルで精子のタンパクチロシンリン酸化部位を調べたところ、精子先体と中片部に局在していた。