- 著者
-
高屋 亜希
- 出版者
- 早稲田大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2005
本年度は本研究課題を行う最終年度にあたり、研究成果報告書『21世紀中国大衆消費社会における文学現象の研究』を刊行した。また21世紀以降の同時代中国における文化・社会現象について、広範な見取り図となる基礎研究資料『Chinese Culture Review(中国文化総覧)』vol.4を翻訳・出版した。現在、 vol.5の翻訳作業を進めており、今後もこの分野の研究情報プラットフォーム構築に努める予定である。本研究課題では、急激な大衆消費社会化が進行する21世紀中国で、文学というジャンルがどう意味づけを変え、他のジャンルや海外文化とどう関連しているかを調査し、研究を行ってきた。本年度は市場化が本格化した1990年代以降、市場を利用しながら若者サブカルチャーをリードしてきた、1970年代生まれの世代が果した文化的役割について考察した。その具体的研究の成果として、「慕容雪村『成都よ、今夜は俺を忘れてくれ』試論」および「「七〇后」とボヘミアン幻想の終焉」の論文2本を発表した。それ以前には社会主義体制を支える一員として、その社会的役割が国によって決められ固定されていた状況が、市場化とともに個人の意志で、転職など社会的役割を変えることが1990年代半ばから可能になった。こうした社会変化を背景に、当時、20歳代だった1970年代生まれの若者がビート文学や海外サブカルチャーなどを参照しながら、例えばバックパック旅行など、自由な移動に強い志向を持つ若者カルチャーを形成してきた経緯、およびそれらがインターネットの普及と結びつくことによって、1990年代末から21世紀初頭にかけて、アングラから一気に社会の表層に躍りでてきた、文化現象の一端が明らかになった。