著者
高根沢 均
出版者
神戸山手大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、中央空間および聖性の焦点であるアプシスと周歩廊の機能的関係を明らかにした。中央空間に対して環状列柱は間接的な接触を提供しつつ、列柱の幅と意匠によって中央空間への「入口」を示しており、アプシスに対して斜めに位置する会堂入口から円環状の動線を経て中央空間の「入口」へ誘導する機能があった。この関係はアナスタシス・ロトンダ(4世紀)の影響を受けたと推測される。一方、初期中世以降、バシリカ式のアプシス後背の周歩廊は、聖遺物崇拝を機能的に解決する手段として導入が進んだ。北イタリアにみられる上下に重なった周歩廊は、バシリカ式の典礼機能と集中式の周回礼拝の機能を同時に内包する構成といえる。
著者
高根沢 均
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

サンタニェーゼ・フォーリ・レ・ムーラ聖堂(ローマ、7世紀初頭創建)について、2003年10月から現地の建築調査を実施してきた。本年度も2006年10月に現地を訪れ、約2週間にわたって同聖堂の実測と細部写真記録を行った。実測調査では、トータルステーションによる精密測量を行い、図化を進めている。また並行して文献収集を行うとともに、ドイツ考古学研究所にて初期教会堂建築の碩学であるブランデンブルク教授を訪問し、貴重な意見と示唆をいただいた。実測データ等については、図化・整理を行い、考察を進めている。本年度は、サンタニェーゼ聖堂の建築的特徴と建築部材の配置計画について、学会誌に論文を2本投稿し採用受理されている。これらは、本研究の重要課題である階上廊の機能について検討したものであり、新しい知見を得ることができた。また、イタリアでの研究報告のため、イタリア語の報告書の作成を進めている。2006年11月には、日高健一郎教授(受入研究者)のハギア・ソフィア大聖堂(イスタンブール、537年創建)学術調査に参加し、ドームつきバシリカ式建築の代表例である同聖堂の建築細部の特徴を確認した。また、同じくユスティニアヌス帝建立のハギア・イレーネ聖堂(6世紀初頭創建)を訪れ、細部の写真記録を行った。2007年1月にはテッサロニキとローマで目視調査を行った。テッサロニキでは、古代末期のドーム建築であるハギオス・ゲオルギオス聖堂(4世紀初頭創建)と、初期キリスト教時代の階上廊付バシリカであるアヒエロポイエートス聖堂(5世紀創建)において、細部の写真記録を行った。今後、日高教授が2007年度に実施する方向で準備を進めている建築調査に、一員として参加する予定である。またローマでは、初期中世の教会堂の目視調査を実施し、再利用部材と建築空間の機能との関係について、サンタニェーゼ聖堂での考察の検証を行った。
著者
高根沢 均
出版者
神戸夙川学院大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本年度に調査を行ったサンタンジェロ聖堂(ペルージャ、5世紀末)とサンタ・マリア・マッジョーレ洗礼堂(ノチェーラ、6世紀中頃)、およびサント・ステファノ・ロトンド聖堂(ローマ、5世紀末)は、周歩廊を備えた円形平面の集中式建築である。サント・ステファノ・ロトンド聖堂ではイオニア式とコリント式の柱頭が使用されているが、外壁の開口部と対応する場所にはコリント式を使用している。また外壁にはアーチが、一方で中央空間にはアーキトレーヴが使用されるなど、様式と部材の配置には明確な計画が見られる。他の2例では、多色大理石と数種類の柱頭を再利用して色と様式を規則的に組み合わせ、色彩感と躍動感のある内部空間となっている。これらの事例では、再利用材の組み合わせによってアプシスと入口を結ぶ軸線及び直交する軸線の視覚的な強調が確認された。また、再利用材の組み合わせと配置の法則は、色彩と材料の価値、様式といった複数の要素で構成されており、本来均質である円形の堂内に空間の階層性を導入する手法として利用されていると思われる。同様の円形平面をもつサンタ・コスタンツァ霊廟(ローマ、4世紀前半)では、周歩廊ヴォールトのモザイク装飾においてブロックごとに異なる図像が描かれており、前述の3事例と同様に空間の機能または階層性との関連が考えられる。集中形式の教会堂における軸性の強調と空間の階層性は、古代建築の円形平面をキリスト教建築に導入する際に必要とされた要素であり、キリスト教建築の形成の重要な側面と考えられる。中央空間を外壁に開かれたアプシスや入口とつなぐ空間である周歩廊の機能を検討するにあたって、これらの要素との関係性を手がかりに検討を進める予定である。