著者
齋藤 康人 柳澤 千香子 押見 雅義 鈴木 昭広 礒部 美与 高橋 光美 洲川 明久
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.14, pp.21-27, 2007 (Released:2007-05-15)
参考文献数
24

肺癌術後心肺合併症に影響する因子や術後離床日数及び在院日数との関係について術式別に検討した報告は少ない。今回我々は一側肺全摘除術患者の術前・術中因子が術後心肺合併症に影響するか,また,術後心肺合併症の有無が術後離床日数及び在院日数に影響したかを検討した。対象は当センターで肺癌による一側肺全摘除術を施行し術前術後リハビリテーションを行った連続42例とした。対象を術後心肺合併症非合併群(N群)と心合併症群(C群),肺合併症群(P群)に分類し,術前・術中因子,術後離床日数・在院日数を比較した。術前・術中因子の比較では術側,N群とC群との間での麻酔時間,N群とP群との間でのFEV1.0%に有意な差が認められた(p<0.05)。術後離床日数・在院日数の比較ではN群とC群との間で術後離床日数に,N群とP群との間で術後在院日数に有意な差が認められた(p<0.05)。以上より,手術中の不整脈や循環不全などにより麻酔時間が延長した症例やFEV1.0%が低下している症例では,慎重かつ重点的な術前術後リハビリテーションアプローチが必要と考えられた。また,C群では術後離床までの日数が遅延していたことから,今後は心合併症症例に対する術後リハビリテーションプログラムや実施基準について長期的に検討していきたい。
著者
栁澤 千香子 押見 雅義 鈴木 昭弘 齋藤 康人 高橋 光美 鹿倉 稚紗子 洲川 明久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1117, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに】当センターは高度専門医療を担っており一般病棟268床の他,第二種感染症指定医療機関として51床の結核病床を有する。結核患者に対してのリハビリ介入も行っており,理学療法部の24年度新規依頼件数1223件のうち結核患者27件であり,全件数の2.2%を占めている。結核患者の理学療法実施にあたり,N95マスクを装着し他患者との接触を避けるため隔離病棟でのベッドサイド対応で感染予防を行っている。N95マスクの使用頻度は高いが,装着方法についてはマニュアルに記載されている程度で十分教育されてはいない。N95はフィルターの性能を示すものであり,装着後のマスクと顔の密着性は保証されていないため,米国では最低年1回のフィッティングテスト実施を勧告している。感染リスク抵減のため,N95マスクの正しい装着方法をマスターする事・自分の顔に合うマスクを見つけることを目的として,フィッティングテストを行う事が必要である。今回リハビリ部門において,N95マスクを使用しての定量的フィッティングテストを施行し教育効果の検証を行った。【方法】対象は当センターのリハビリスタッフ7名(PT6名・リハ医1名)。N95マスクは2種類使用した(マスクA:3M三つ折りマスク,マスクB:KOKENハイラック350型)。定量的測定は,労研式マスクフィッティングテスターMT-03型を使用(大気じんを使用してマスク内外の粉じん量の測定により漏れ率を測定)した。漏れ率5%以下で適合すると判定した。1回目の測定は,全員にマスクAを通常使用している方法で装着してもらい行った。2回目の測定は非適合の者に対し装着の方法・息の漏れがないか確認するためのユーザーシールチェック方法の指導後行った。3回目の測定は全員にマスクBを使用して行った。1回目の測定の際,装着方法が正しいか・ユーザーシールチェックを行えているか観察した。また,アンケートを行い基本的な装着方法を知っていたか・N95マスクの交換頻度等について調査した。【説明と同意】対象者には施行内容について主旨の説明後,同意を得て実施した。またアンケートは個人情報に配慮した。【結果】1.マスクAでは7名中3名が適合した。適合者平均0.88%(0.7~1.11%)・不適合者平均7.97%(5.02~9.99%)であった。不適合者の指導後の再測定では全員適合であった(全体平均1.52%)。2.マスクBでは全員適合した。全体平均0.54%(0.38~0.88%)。3.観察にて装着そのものができていなかったのは2名・装着やユーザーシールチェックまでできていたのは4名であった。できていた4名のうち不適合は2名であった。4.アンケートでは,N95マスクの装着方法を知っているは2名・だいたい知っている4名・知らない1名であった。ユーザーシールチェックまで意識して行っているのは1名・行っていない(知らない)3名であった。N95マスクの交換頻度は毎日5名・1週間ごと2名であった。【考察】マスクAでの適合者は,ユーザーシールチェックを意識して行えていた者・無意識で行っていた者・装着もできていなかったが偶然顔の形で適合した者が1名ずつであった。マスクBでは,装着方法の指導後の結果であったため適合者が増えた結果となった。ユーザーシールチェックに関しては,4名が行えていた。意識して行っているのは1名で他は無意識で行っていた。無意識で行っていたうち適合したのは1名であり,しっかり意識付けして行う事が必要である。N95マスクの交換頻度は,使い捨てが原則であるが実際にはばらつきがあった。衛生面でも統一した知識の共有が必要である。当センターでは,N95マスクを3種類採用しているが装着感のみで自己選択している現状である。しかし1種類のもので検証した結果,適合の割合は個々の顔の形や大きさにより8~9割程度のみとの報告もある。自分にフィットする製品を知っておくことも必要である。アンケートより今回定量的測定を行った事で,漏れを数値で確認でき客観的にわかりやすかった・結果が良かったので安心した・ユーザーシールチェックを行うことで,漏れる場所のポイントが分かり漏れが改善した等の反応があった。国内での結核罹患率は欧米諸国と比べると依然として高く,未だ年間2万1千人以上が新規に登録されている。また結核病床を有する病院での医療従事者の結核罹患率は,一般の発生率の3倍とされている。感染予防のためにも正しいN95マスクの装着方法について継続的な教育が大切である。【理学療法学研究としての意義】N95マスクの装着に関して定量的なフィッティングテストを行う事で,視覚的に正しい装着方法を学習できる。感染リスク軽減のために正しいマスクの装着についての教育・啓発は必要なことであると考えられる。
著者
柳澤 千香子 押見 雅義 鈴木 昭広 齋藤 康人 礒部 美与 高橋 光美 洲川 明久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.G0439, 2007

【目的】当センターは、高度専門医療を中心に対応しており318病床を有する。2004年に感染症対策委員会の下に実行的な組織として、Infection Control Teamが医師・看護師・各部門のコメディカル・事務職員により編成された。職業感染・針刺し事故・教育および研修・抗生剤の適正使用・院内感染の監視等に関する活動を行っている。重要な活動の一つに多職種を対象とした感染管理教育があげられる。教育活動として全職員を対象とした院内研修会の他、各部門においても研修を行い啓蒙に努めている。今回リハビリ部門において標準予防策に基づき衛生的手洗い方法の研修を行った。その後、手洗いの教育効果の実態把握と意識調査について評価を行った。【方法】対象はリハビリ部門の職員7名(リハ医・PT)。事前に衛生的手洗い方法について6ヶ月前にビデオ資料を用いて指導を行っていた。実技の評価として、手洗いミスは蛍光塗料とブラックライトを組み合わせた機械(Glitter Bug)を用いて3段階の評価を行った。行動・意識の評価として、手洗い方法の基本動作・手順については16項目(波多江ら2000)、日常業務において手洗いが必要と思われる場面の施行は15項目(掛谷ら2004から抜粋)について、それぞれ最近1ヶ月の実施率についてアンケートを行った。【結果】1.手洗いミスの評価は、A判定(爪の付け根等を残してほとんど落ちている)0名・B判定(手首、指の間等一部に残っている)4名・C判定(全体に残っている)3名であった。2.手洗い方法の基本動作・手順については、ほぼ実施していると答えた割合が80%以上の項目は、ゴミ箱にふれずにペーパータオルを捨てる・半袖の着用・爪のカット・水はねに注意する・洗面台に手を触れないの5項目のみであった。また0%だったのは、水道水は2~3秒流してから手を洗う項目であり、他にも実施していないと答えたものが8項目あった。3.日常業務において手洗いが必要と思われる場面での手洗いは、ほぼ実施していると答えた割合が80%以上の項目は排泄介助後・トイレをすませた後の2項目のみであった。また実施していないと答えたものが12項目あった。【考察】院内感染対策において、手洗いは最も基本的であり重要である。今回の結果より、衛生的手洗い方法について指導を行っているにも関わらず6ヶ月後には正しく行えていなかった。指導方法が知識の伝達だけで実技を取り入れていなかったため、習得できていなかった可能性もあるが、教育効果の継続は難しいことが明らかだった。医療従事者の手指からの交差感染のリスクを減少させるためには、他に速乾性擦式手指消毒薬併用を積極的にすすめる必要がある。手洗いに対する基本動作や意識についても認識が低く、必要性についての理解や意識の改善を促す必要があった。手洗い行動を習慣化させ、知識や技術を習得できるよう繰り返しの再教育の実施は必要と思われた。<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR>