著者
鎌田 貢壽 内田 満美子 竹内 康雄 高橋 映子 三宅 嘉雄 佐藤 直之 児玉 哲郎 山口 建
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.165-170, 1995-02-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
15

肺小細胞癌患者の優れた腫瘍マーカーであるガストリン放出ペプチド前駆体 (proGRP) 濃度測定系を開発し, 各種疾患および腎機能障害時の血中動態について検討した.対象は, 健常人, 肺小細胞癌患者, 慢性糸球体腎炎患者, 糖尿病患者, 慢性関節リウマチ患者, 全身性エリテマトージス患者, 腎機能障害患者, 非透析期および透析期腎不全患者とした. サンドイッチELISA法で血清中のproGRP濃度を測定した.腎機能が正常である慢性糸球体腎炎患者 (n=14), 糖尿病患者 (n=16), 慢性関節リウマチ患者 (n=9), 全身性エリテマトージス患者 (n=12) の血清proGRP濃度は, 健常人基準値46pg/ml以下にとどまった.肺小細胞癌患者の血清proGRP濃度は, 16名中14名 (87.6%) で46pg/mlを越え, 16名中10名 (62.5%) で250pg/mlを越えた. 腎機能障害患者では, 血清クレアチニン値が1.6mg/dlを越えると, 血清proGRP値が異常値を示し, 血清proGRP値 (Y: pg/ml) と血清クレアチニン値 (X: mg/dl) との間には, Y=23.5+13.6X (R=0.82, p<0.001, n=22) の正の相関を認めた. 血清proGRP値と血清尿素窒素値との間にも同様の相関 (R=0.76, p<0.001, n=22) を認めた. 末期腎不全患者の血清proGRP値の最高値は, 228pg/mlであり, 血液透析中の経時的低下を認めなかった.血清proGRP濃度の測定は, 肺小細胞癌患者の診断に有用であるが, 46-250pg/mlの血清proGRP異常値を示す患者では, 腎機能を考慮して評価する必要がある.
著者
高橋 映子 佐藤 直之 鎌田 貢壽
出版者
北里大学
雑誌
北里医学 (ISSN:03855449)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.468-477, 1992-08-31

Heymann腎炎(HN)の発症機構とこれにかかわる病因抗原-抗体系を明らかにする目的で,HN発症ラットと,15-deoxyspergualin (DSP)を用いてHNの発症を抑制したラットの免疫系を比較検討した。31匹のLewisラットに近位尿細管刷子縁蛋白(FxlA)を完全フロイントアジュバントと共に0週に120μg,4週に60μg免疫し,HNを発症させた。ラットを生食投与群,DSP 0.25mg/kg, 0.5mg/kg, 1.0mg/kg, 2.0mg/kg投与群の5群に分け,DSPを50μlの生食と共に腹腔内に投与した。生食投与群のラット6匹すべてが,8週までに20mg/日以上の陽性蛋白尿を呈したが,DSP投与群では,用量依存性に蛋白尿が抑制され,DSP 1.0mg/kg, 2.0mg/kg投与群ラットは,14週まで1匹も陽性蛋白尿を示さなかった。14週に得た腎の糸球体へのIgG沈着は,生食投与群で典型的HNの所見を呈したが,DSP投与群では用量依存性に抑制され,DSP 1.0mg/kg, 2.0mg/kg投与群では組織学的にHNの発症が阻止された。血清中の抗FxlA抗体価は,生食投与群では,6過に33505±2024 (SD) cpmと最高値を示したが,DSP投与量に依存して抑制され,DSP 1.0mg/kg投与群では,最高値が7309±3614cpmと抑制された。陽性蛋白尿を示し組織学的にHNを発症したラットの血清IgGは,FxlA中のgp700 (700kDの糖蛋白),gp440, gp330を4週以降14週まで沈降させた。同一血清IgGは,糸球体蛋白中のgp700を4週以降14週まで沈降させたが,糸球体蛋白からgp440, gp330を沈降させなかった。この血清IgGは,蛋白尿出現と同時に糸球体蛋白中の95kD抗原を一過性に沈降させた。DSP 1.0mg/kg投与群の血清IgGは,FxlA中のgp700, gp440, gp330を4, 6, 8週に沈降させたが,糸球体蛋白中のgp700をまったく沈降させなかった。またこの血清IgGは,95kDの糸球体蛋白を一過性に沈降させた。DSPは,糸球体蛋白gp700に対する抗体産生を選択的に抑制することでHNの発症を阻止した。これらの結果からHNの糸球体抗原は,gp700と95kDの抗原であることが明らかになった。gp700は,糸球体への病因抗体沈着を起こす主要な抗原で,95kDの抗原は,蛋白尿出現に関与する抗原である。